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失明した友人 不義理をしてしまった

2015-02-08 23:10:04 | 創作欄
利根輪太郎は自らが失明した夢をみて、愕然としたところで目覚めた。
体のどこかしこも痒くて、その夜は寝付かれなかった。
身体全体から脂肪が失われて、乾びてゆくような感覚であった。
柚を風呂に入れて身体を浸かってその効果を試してみたが、ますます痒くなってきた。
薬を嫌う輪太郎であったが、薬箱からかゆみ・虫さされによいとされる「液体ムヒ」を出して塗ってみた。
ヒリヒリとしてその清涼感から気持ちがおさまった。
だが、それも一時的なものに過ぎなかった。
そこでかゆみ肌の治療薬の乳状液「ムヒソフト」のかゆみ止めに期待し、それも試した。
その乳状液を丹念に肌に擦り込むように塗ったが、それも一時的なものであった。
雨はしばらく振っていなかった。
寒冷で汗をかくこともない。
乾燥しきった肌は完全に潤いを失っていた。
厚着をして汗が出ることを期待してみたり、暖房が効いている建物の中で過ごしてみたが、汗が出てくる気配もないのだ。
かつてない痒さの経験にまいるばかりであった。
これまで何度も身体の異変を経験してきたが、それらがウソのように乗り切ってきていた。そこで今度も輪太郎は楽観的に構えている。
過去の2度の鼻血の時は、出血多量で死ぬのではないかと思った。
不思議と鼻血はいずれも失業した時にものであった。
その日は不安になって競輪場内の救護室へ行く。
看護師が測定したら血圧が200を越えていたのだ。
結局、松戸競輪場から新松戸の病院まで救急車で運ばれたのだ。
病院で鼻血を抑えながら注射を射ったが血圧はまだ180前後で、医師は黙って診察室を出て行く。
止血のための処置が痛い。
強い力で綿を鼻腔に押し込まれた。
看護師は「指で鼻の両脇を圧えながら、しばらく寝ていて下さい」と言うと出て行く。
最終的に心臓附近の胸の上に貼り薬を試したら、140ほどまで下がり帰宅できた。
翌日も、来院することを促されたがそれっきり病院には行っていない。
息子たちから「それは皮膚がんだ」と指摘された顔面の黒い大きなホクロも、いつの間にか痒みを増してきて出血してポロリと取れたのだ。
黒いホクロは増えていくようなのだが、それも放置している。
「がんになっても治療しない」と決め手いるのだ。
友人の一人は糖尿病が悪化して失明したことが思い出されていた。
本好きの友人の中元さんはさぞ失明が無念であっただろう。
「君は見舞いに行くべきだ」と友人の戸田さんに促されたのだが、見舞に行っていない。
当時、競馬や酒代、麻雀の負けなどで、彼から20万円余を借りていたのだ。
不義理をしてしまった。

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