日歯連疑惑発覚の内幕
産経新聞6月30日(火)
東京地検特捜部から政治資金規正法違反容疑で強制捜査を受けている政治団体「日本歯科医師連盟」(日歯連)の高木幹正会長(70)が6月18日、歯科医師の業界団体「日本歯科医師会」の会長に選出された。次期会長をめぐっては業界を二分する“仁義なき戦い”が繰り広げられ、今回の「迂回(うかい)献金」疑惑発覚は「高木陣営へのネガティブキャンペーン」(日歯連幹部)との見方も。“お家騒動”の背景には、平成16年に業界を揺るがした「ヤミ献金事件」から続く確執もあるようだ。
■捜査に揺れた会長選
「出席代議員数139名、高木幹正君、83票」
18日、東京都千代田区の歯科医師会館で開かれた全国から歯科医師の代表者が集まる代議員会。議長が高木氏の得票数を読み上げた瞬間、会場内が「おお」と、どよめいた。高木氏を次期会長とする人事案が過半数で承認され、半年近く続いた騒動が幕引きとなった瞬間だった。
歯科医師会は今年2月、退任表明していた大久保満男会長(73)の後任を選ぶ予備選挙を行い、高木氏は630票中346票を得て、大阪府歯科医師会長の太田謙司氏(64)を破って当選していた。
その後、事態は思わぬ方向へ動き出す。日歯連が25年、石井みどり参院議員(66)=自民=の後援会へ、西村正美参院議員(51)=民主=の後援会を経由するなどして、政治資金規正法の上限額を超える計9500万円を寄付した疑いが浮上。東京地検が4月、強制捜査に乗り出したことで高木氏の会長就任を危ぶむ声が噴出した。
そこで執行部は5月29日に臨時代議員会を開き、会員の意見を集約。出席した代議員から寄せられた意見は「高木氏は堂々と潔白を主張しているのだから、粛々と人事案を進めるべき」「国民の信頼回復のためにも、捜査結果が出るまで人事案を留保すべき」などで、双方が拮抗(きっこう)したかにみえていた。
終了後、理事会が開かれ、「理事の圧倒的多数が人事議案提出を支持した」(大久保会長)として、予定通り高木氏を次期会長とする人事を進めることになった。
■「会長選と無関係なはずない」
歯科医師会をパニックに陥れた今回の事件の発端は今年1月、日歯連の評議員会で発せられた1つの質問から始まった。
「違法性はないのか。グレーな資金移動はやめた方がいい」
出席評議員の1人が、日歯連から石井議員への「迂回献金」を問題視。この評議員は産経新聞の取材に対し、「収支報告書を見て疑問に思ったうちの(都道府県歯科医師会の)会員から相談された。執行部には『改善する』という回答を期待したのだが…」と話す。執行部は「テクニカルな要素であり、法的問題はない」と回答した。
実はこの時期、水面下では次期会長をめぐり、高木派と太田派による歯科医師会を二分する熾烈(しれつ)な暗闘が繰り広げられていた。
「医師の権利拡大という点で歯科は他の医療に比べて遅れている」「厚生労働省だけでなく、官邸など中枢と緊密な連携を取れる人は高木氏以外にいない」
今年1月に都内のホテルに約400人を集めて開かれた「高木幹正氏と歯科の未来を語る会」で、議員らが高木氏をこう持ち上げた。菅義偉(すが・よしひで)官房長官のメッセージが読み上げられるなど政界との太いパイプが強調された。
一方、太田陣営の推薦人名簿には、高木氏の側近であるはずの日歯連の理事長や副会長らが名前を連ね、大久保会長も後継者として指名した。「高木氏が当選すれば、昔の日歯連に戻ってしまう」との趣旨の匿名文書まで出回った。こうした中での疑惑発覚。ある日歯連幹部は「会長選と無関係なはずがない」と推測する。
■10年前の「ヤミ献金事件」の確執今も…
対立の背景には、16年に発覚した「ヤミ献金事件」がある。事件では、日歯連から自民党旧橋本派へ1億円が渡ったとされ、当時、日歯連会長と歯科医師会長を兼任していた臼田貞夫氏が逮捕起訴され、有罪判決を受けた。
一連の捜査では、診療報酬引き上げをめぐる贈収賄事件や日歯連に関係のある国会議員による資金横領事件なども発覚し、業界全体を揺るがす大不祥事に発展した。
事件終結後、18年に立て直しを任された大久保会長は改革委員会を設置。(1)一体運営されてきた日歯連を分離する(2)政治資金の移動を銀行口座振り込みで行うなど透明化する−などの改革を断行した。ただ、「結果的に政治力が弱体化した」(業界関係者)との見方もある。
大久保会長引退に伴い、歯科医師会から分断されてきた日歯連会長の高木氏が出馬することに、歯科医師会の政治力強化を期待する関東地方の日歯連役員らが支持を表明したのだ。
これに対し、政治への過剰接近に警戒感を示す関西や北陸地方の歯科医師会役員らが反発。太田会長を対立候補とし、争う姿勢を示したのが、今回の会長選の内幕という。
歯科医師はなぜ「政治力」を求めるのか。
厚労省などによると、内科などの一般診療所数が全国約10万カ所(24年)に対し、歯科診療所は約6万8千カ所(同)もある。一方で医療費全体は12年の約30兆円から23年には約38兆円へ増大したにも関わらず、歯科医療費はこの10年間、2兆5千億円から2兆6800億円の間で横ばい状態が続いている。「歯科医の立場向上は業界にとって最重要課題」(日歯連幹部)という。
■新会長は強気だが…
特捜部の捜査に関し、高木氏自身は今年6月18日の代議員会で「(疑われている資金移動は)当時の合理的判断で行ってきた。強い信念を持って連盟の姿勢を(特捜部に)切々と訴えている」とあくまで強気を貫く。
高木氏の周辺も特捜部に「両議員の後援会はどちらも連盟内部の組織。一般会計から特別会計へ移したようなもので違法とは言えない」と説明しているもようだ。
これに対し、ある検察幹部は「当初は『(両後援会は)独立した別団体』と主張していた。罪を逃れるための言い訳でしかない」。別の幹部は「説明通りであれば、後援会に資金を移動する必要があったのか。説明は不合理だ」と疑問を呈する。
始まったばかりの高木新体制について、ある日歯連幹部は「これ以上、疑いを持たれるようなことが起こらなければいいが…」と胸中を語った。
産経新聞6月30日(火)
東京地検特捜部から政治資金規正法違反容疑で強制捜査を受けている政治団体「日本歯科医師連盟」(日歯連)の高木幹正会長(70)が6月18日、歯科医師の業界団体「日本歯科医師会」の会長に選出された。次期会長をめぐっては業界を二分する“仁義なき戦い”が繰り広げられ、今回の「迂回(うかい)献金」疑惑発覚は「高木陣営へのネガティブキャンペーン」(日歯連幹部)との見方も。“お家騒動”の背景には、平成16年に業界を揺るがした「ヤミ献金事件」から続く確執もあるようだ。
■捜査に揺れた会長選
「出席代議員数139名、高木幹正君、83票」
18日、東京都千代田区の歯科医師会館で開かれた全国から歯科医師の代表者が集まる代議員会。議長が高木氏の得票数を読み上げた瞬間、会場内が「おお」と、どよめいた。高木氏を次期会長とする人事案が過半数で承認され、半年近く続いた騒動が幕引きとなった瞬間だった。
歯科医師会は今年2月、退任表明していた大久保満男会長(73)の後任を選ぶ予備選挙を行い、高木氏は630票中346票を得て、大阪府歯科医師会長の太田謙司氏(64)を破って当選していた。
その後、事態は思わぬ方向へ動き出す。日歯連が25年、石井みどり参院議員(66)=自民=の後援会へ、西村正美参院議員(51)=民主=の後援会を経由するなどして、政治資金規正法の上限額を超える計9500万円を寄付した疑いが浮上。東京地検が4月、強制捜査に乗り出したことで高木氏の会長就任を危ぶむ声が噴出した。
そこで執行部は5月29日に臨時代議員会を開き、会員の意見を集約。出席した代議員から寄せられた意見は「高木氏は堂々と潔白を主張しているのだから、粛々と人事案を進めるべき」「国民の信頼回復のためにも、捜査結果が出るまで人事案を留保すべき」などで、双方が拮抗(きっこう)したかにみえていた。
終了後、理事会が開かれ、「理事の圧倒的多数が人事議案提出を支持した」(大久保会長)として、予定通り高木氏を次期会長とする人事を進めることになった。
■「会長選と無関係なはずない」
歯科医師会をパニックに陥れた今回の事件の発端は今年1月、日歯連の評議員会で発せられた1つの質問から始まった。
「違法性はないのか。グレーな資金移動はやめた方がいい」
出席評議員の1人が、日歯連から石井議員への「迂回献金」を問題視。この評議員は産経新聞の取材に対し、「収支報告書を見て疑問に思ったうちの(都道府県歯科医師会の)会員から相談された。執行部には『改善する』という回答を期待したのだが…」と話す。執行部は「テクニカルな要素であり、法的問題はない」と回答した。
実はこの時期、水面下では次期会長をめぐり、高木派と太田派による歯科医師会を二分する熾烈(しれつ)な暗闘が繰り広げられていた。
「医師の権利拡大という点で歯科は他の医療に比べて遅れている」「厚生労働省だけでなく、官邸など中枢と緊密な連携を取れる人は高木氏以外にいない」
今年1月に都内のホテルに約400人を集めて開かれた「高木幹正氏と歯科の未来を語る会」で、議員らが高木氏をこう持ち上げた。菅義偉(すが・よしひで)官房長官のメッセージが読み上げられるなど政界との太いパイプが強調された。
一方、太田陣営の推薦人名簿には、高木氏の側近であるはずの日歯連の理事長や副会長らが名前を連ね、大久保会長も後継者として指名した。「高木氏が当選すれば、昔の日歯連に戻ってしまう」との趣旨の匿名文書まで出回った。こうした中での疑惑発覚。ある日歯連幹部は「会長選と無関係なはずがない」と推測する。
■10年前の「ヤミ献金事件」の確執今も…
対立の背景には、16年に発覚した「ヤミ献金事件」がある。事件では、日歯連から自民党旧橋本派へ1億円が渡ったとされ、当時、日歯連会長と歯科医師会長を兼任していた臼田貞夫氏が逮捕起訴され、有罪判決を受けた。
一連の捜査では、診療報酬引き上げをめぐる贈収賄事件や日歯連に関係のある国会議員による資金横領事件なども発覚し、業界全体を揺るがす大不祥事に発展した。
事件終結後、18年に立て直しを任された大久保会長は改革委員会を設置。(1)一体運営されてきた日歯連を分離する(2)政治資金の移動を銀行口座振り込みで行うなど透明化する−などの改革を断行した。ただ、「結果的に政治力が弱体化した」(業界関係者)との見方もある。
大久保会長引退に伴い、歯科医師会から分断されてきた日歯連会長の高木氏が出馬することに、歯科医師会の政治力強化を期待する関東地方の日歯連役員らが支持を表明したのだ。
これに対し、政治への過剰接近に警戒感を示す関西や北陸地方の歯科医師会役員らが反発。太田会長を対立候補とし、争う姿勢を示したのが、今回の会長選の内幕という。
歯科医師はなぜ「政治力」を求めるのか。
厚労省などによると、内科などの一般診療所数が全国約10万カ所(24年)に対し、歯科診療所は約6万8千カ所(同)もある。一方で医療費全体は12年の約30兆円から23年には約38兆円へ増大したにも関わらず、歯科医療費はこの10年間、2兆5千億円から2兆6800億円の間で横ばい状態が続いている。「歯科医の立場向上は業界にとって最重要課題」(日歯連幹部)という。
■新会長は強気だが…
特捜部の捜査に関し、高木氏自身は今年6月18日の代議員会で「(疑われている資金移動は)当時の合理的判断で行ってきた。強い信念を持って連盟の姿勢を(特捜部に)切々と訴えている」とあくまで強気を貫く。
高木氏の周辺も特捜部に「両議員の後援会はどちらも連盟内部の組織。一般会計から特別会計へ移したようなもので違法とは言えない」と説明しているもようだ。
これに対し、ある検察幹部は「当初は『(両後援会は)独立した別団体』と主張していた。罪を逃れるための言い訳でしかない」。別の幹部は「説明通りであれば、後援会に資金を移動する必要があったのか。説明は不合理だ」と疑問を呈する。
始まったばかりの高木新体制について、ある日歯連幹部は「これ以上、疑いを持たれるようなことが起こらなければいいが…」と胸中を語った。
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