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医療維新:医療機関の消費税問題

2014-09-03 09:03:10 | 医療と介護
「医療界の意見一本化重要」今村日医副会長
一から分かる消費税問題、インタビュー編(1)
m3.com 

2014年9月2日(火) 聞き手・まとめ:橋本佳子、池田宏之(m3.com編集部)

 医療界に生じている控除対象外消費税の問題。消費税率10%時の抜本的解決を目指して、医療界の意見を9月上旬にまとめるべく、医療界では調整を続けている。消費税担当の日本医師会の今村聡副会長に、考え方や取り巻く政治状況などについて聞いた(2014年8月12日にインタビュー)。

――「原則課税」を求めてきた日医ですが、現状の案には「非課税」が入り、日医の方針転換と受け止める声があります。
 日医は、医療機関の控除対象外諸費税が生じない仕組みへの変更を求めているのであり、原則課税の方針は、今でも変わりませんし、日医としての理想を言えば、「課税ゼロ税率」か、それに準ずる免税制度の導入です。何も変わっていません。4月以降、色々な意見を示したのは、医療界から多くの意見が出たので、全ての意見を示した上で、「原則課税」を求める方針となった過程を示しただけです。その中で、現時点で、「課税ゼロ税率」「課税軽減税率」「非課税全額還付」「非課税一部還付」の4つが残っている状況です。

日医の今村聡副会長は、政治による問題解決のたなざらしを恐れて、医療界の意見の一本化を強調した。
――絞り込みの考え方を教えてください。
 (国民に見えない形での負担を強いる)診療報酬での補填は、抜本的解決ではありません。抜本的解決となるのは、(還付の対象を巡って)条件が付けられる可能性のある「非課税一部還付」以外の3つです。3つとも、控除対象外消費税が発生しない形になります。
 ただ、それぞれ問題があります。「非課税全額還付」は、現状では存在しない制度ですので、ハードルが高いと思います。税務署からしても、約10万ある医療機関の全てに対応することになり、交渉ごとである以上、税務署の考え方も無視はできません。
 病院団体は、「税制上の問題は、税(の財源)で解決すべき」として、非課税制度にとどめおくことに反対していますが、「社会保障」という大きな枠組みで考えるとあり得ないことではありません。公的病院の税制措置の問題もあり、病院団体の論法では、税制上の優遇措置は全ておかしいという話になります。
 一方で、課税転換の場合のハードルは、国民と政治家です。軽減税率にした場合でも、「現状の非課税の仕組みを、課税に転換する」というのは、負担増と受け止められてしまうはずです。「現状でも、診療報酬で補填していて、その分の負担が無くなる」と説明したところで、理解を得るのは難しいと思います。政治家も、口には出しませんが、同じことを考えているでしょう。
 ただ、大きな話として、10%の税率は、軽減税率を考慮せずに設定されているので、医療の制度設計次第では、他の業界にも影響し、政府の税収全体に影響を与える可能性もあります。
――日本歯科医会は、非課税制度にとどめ置くことを主張しています。
 歯科の診療報酬は、消費税対応で上乗せされた点数が、医科と違い残っているため、課税転換した場合、現状で診療報酬への上乗せ分の引きはがしの影響が大きいです。さらに、小規模医療機関の事務手続き負担軽減のための、四段階税制が無くなる危惧も考慮していると思います。
 一方で、設備投資などで大きな影響を受けている会員の多い病院団体は、四段階税制は関係がありません。設備投資の消費税負担を減らすのが目的です。利害が、みなそれぞれ違います。ただ、社会保障を充実するはずの消費税で、提供者の一翼が倒産するような皮肉な結果を回避するのは当たり前です。
――最大の懸念は何ですか。
 問題は、医療界の意見が分かれることです。医療界で意見が割れれば、政府から「意見が違うと強引に進められない」となって、今までのような診療報酬上の手当てになる可能性があります。医療界の意見の一本化に、苦労している状況です。
――解決を求めている「消費税10%時」とはいつのことですか。
 「10%時」の解釈は、消費税率が10%に上がると同じタイミングではなく、10%になってから、次の引き上げの間までが、ずっと入ることになります。自民党が考えているのは、税収への影響が計算できる「(10%の)次の税率が決定するタイミング」ではないかと感じています。
――現状の選択肢では、いずれも税制改正が必要です。2015年10月に間に合うのでしょうか。
 2015年10月に間に合えばベストですが、これは、財務省の解決する意思の問題です。(官邸や経済界から強い要望がありながら、なかなか実現しなかった)法人税の引き下げの方針決定の経緯を見ても、抜本的解決は、簡単に実現できるとは思えません。
 ただ、難しいようならば、最終的な解決方法を提示してもらうと同時に、そこに近づけるような過渡的なアイデアを見せてほしいと思っています。最終的なゴールを見せてもらえない状態で、2015年10月を迎えるのは困ります。
――2015年10月に抜本的解決できない場合、どのようなやり方が考えられるのでしょうか。
 一番困っているところです。病院団体からすると、(2014年度の診療報酬改定で先送りされた)設備投資の問題があります。保険料での補填を避けたい保険者も含めて、消費税財源でやってもらいたいと考えていますが、この場合、新しくできた地域医療充実のための基金を使うように求められかねない危惧もあります。いずれにせよ、抜本的解決が2015年10月に難しい場合、医療機関の設備投資における負担への手当ては、議論せざるを得ないでしょう。
――今後は、どのように進めるのですか。
 9月上旬までに医療界の意見をまとめて、12月まで要望活動します。結果がどうなるか分かりませんが、何もやらずに、なりゆきで決まらないように全力を尽くします。まとめ方は、タイミングや解決方法について、納得できる表現を探すしかないと思います。2015年10月に間に合わなかった場合に備えて、設備投資の条件も書き込むことになると思います。実際の制度設計は、要望でなく、交渉ごとですので、医療界が割れていない形を示さないといけません。
――控除対象外消費税の問題は医師の間で理解が深まっているのでしょうか。
 ある程度深まったと思います。ただ、100人くらいを対象にした講演会で、理解している人を聞くと、5人くらいしか手が挙がらないことがあります。実際には、広く薄く理解が広まったというより、よく勉強している人がするどい追求をしている感じです。


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