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「守秘義務」異変共有の壁 佐世保殺害、少女への対応

2014-08-11 16:43:10 | 社会問題・生活

朝日新聞 2014年8月8日(金) 配信
 長崎県佐世保市で県立高校1年の女子生徒が殺害された事件。逮捕された少女(16)の異変は事件前から認識されていたが、「守秘義務」が壁となり、関係機関は思い切った対応をとれなかった。個人情報を守る義務と生命の危険性のはざまで、関係機関の判断が問われている。
■医師は
 「このままでは人を殺しかねない」。少女を診察した精神科医が6月10日、県佐世保こども・女性・障害者支援センター(児童相談所)に電話をかけた。
 県などによると、医師は、同市の高校1年の女子が(1)小学生の時に給食に異物を混入した(2)ネコを解体している(3)父親を金属バットで殴って大けがをさせた、と伝えた。医師は名乗ったが、少女の名前や学校名は言わなかったという。
 刑法は、医師が患者から得た個人情報などの秘密について「正当な理由」がなければ第三者に提供してはならない、と定めている。だが、医師の守秘義務に詳しい弁護士は、今回の状況は「正当な理由」にあたると考える。「医師としては精いっぱいだっただろうが、名前を告げても守秘義務違反にならなかったのではないか」と指摘する。
 ある医師は「少女側から守秘義務違反で訴えられれば敗れるのでは」と懸念し、「医師は守秘義務と命を守ることのはざまに置かれている」と漏らす。
■児童相談所は
 一方、連絡を受けた児童相談所は、少女の特定や、警察や保健所などへの連絡などはしなかった。「助言をした」と説明しているが、助言の詳細については明らかにしていない。県幹部は「結果的に放置したと言われても仕方がない」と話す。
 県などによると、児童相談所も守秘義務を意識したとみられる。所長は「のちに相談者から『話さない前提でやりとりしたのに』と批判を招くことも考えられる」と言う。
 ただ、個人情報保護法には、人の生命を守るために必要な場合、本人の同意を得ることが難しくても、個人情報保護の例外だと規定されている。県の条例にも同様の記載がある。
 新潟大の鈴木正朝教授(情報法)は「児童相談所は、どれぐらいの『生命の危険』があったのか判断する必要があった。その確認の初動が遅れた。個人情報の保護は言い訳にしかならない」と指摘する。今回の事件をきっかけに「関係機関は対応の手順と情報提供の必要性と守秘義務の関係についての判断基準を作成すべきだ」と提言する。
 九州地方のある児童相談所の職員は、14歳以上の少年、少女の問題行動の場合、「福祉的な処遇がいいのか刑事的に責任を問うべきなのか判断が分かれることが多く、関与しづらい」と漏らす。親から虐待を受けている低年齢児など「自分の力では解決できない児童の保護が優先されてきた」と話す。
■ほかの選択肢は
 ほかに選択肢はなかったのだろうか。県によると、精神障害者やその疑いがある人ならば、保健所を通じて保護を申請できる。自分を傷つけたり他人に害を与えたりする恐れがあると医師2人が判断すれば、強制的な「措置入院」ができる。
 児童福祉法では、自治体が中心になり、児童相談所や学校・教育委員会、警察、保健所、医療機関などが、問題を抱えた少年・少女について情報交換をする要保護児童対策地域協議会(要対協)の設置が定められている。佐世保市の担当者は「要対協に言ってくれれば何かできたかもしれない」と語った。

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