米国には報告制度、日本の詳しい実態は不明
毎日新聞社 2014年10月9日(木) 配信
内閣府などの自殺統計(2013年)によると、国内の自殺者2万7283人のうち、原因や動機に病気など健康問題を含む人が半数を占める。このため、病院は自殺が起きる危険性が高い場所であるとして、入院患者の自殺を防ぐための取り組みが進んでいる。
●病院協が研修会
「男性の病棟での様子を見て、自殺につながるサインを見つけてください」
会場で上映されたビデオでは、体調不良で会社を休みがちという想定の40代男性が、病院のベッドでうつむいている。参加者たちは、男性の気になる行動を指摘し合い、「窓から下の方をのぞき込んでいる」「口数が少なく無気力な感じ」「妻がいるときと、一人のときの様子にギャップがある」などと、グループごとに発表した。
日本医療機能評価機構の認定病院患者安全推進協議会が8月下旬、東京都内で病院内の自殺予防のための研修会を開いた。発表を聞いた講師の大塚耕太郎・岩手医科大特命教授は「患者の出すサインへの感度を上げることが支援の出発点になる。その情報を皆で共有し、検討することが大事だ」と解説した。
研修会には全国の病院担当者約30人が参加し、2日間で自殺予防の基礎知識▽自殺の起きやすい場所の確認と対策▽患者の話を傾聴する実習▽自殺が起こった場合の遺族や医療スタッフへのケア――などを学んだ。講師は自殺対策や医療安全管理の専門家、精神科医らが担当する。2012年から年2、3回実施している。
研修会開催のきっかけになったのは、同協議会が05年、会員1048病院(調査時点)に実施した病院内の自殺についてのアンケートだ。米国では、自殺を含む病院内の重大事故の報告制度があるが、日本では入院患者の自殺の実態は把握されていなかった。
●半数に予兆や変化
「過去3年間に入院患者が自殺した」と答えたのは、精神科病床のある病院では、回答のあった106病院のうち70病院(66%)。発生数は計154件だった。一般病院(575病院)でも29%にあたる170病院で、計347件が発生していた。
一般病院での自殺者の主病名で最も多かったのは「がん」(35%)。精神科疾患(13%)、整形外科疾患(9%)、脳神経疾患(7%)が続いた。自殺の場所は「病棟内」(42%)が多かった。「死にたい」と口にする▽心身の症状の悪化や不眠傾向が続く――などの予兆や変化が、自殺者の半数にあった。これらは、適切な対応をしていれば、自殺を防げた可能性を示していた。
●講習会実施は5%
また、一般病院で患者の自殺予防の講習会を実施しているのは、5%にとどまっていた。このため、専門家が集まって研修プログラムや教材を作成した。
中心になった河西千秋・横浜市立大教授(精神保健学)は「病院での自殺の問題はタブー視されがちであり、病院全体の取り組みが必要だ。研修の参加者が学んだことを病院全体に広めて、対策につなげることが大切。それが患者を守るだけではなく、医療関係者が精神的な衝撃によって心の病気に陥るのを防ぐ」と指摘する。研修を受けて、対策につなげる病院もある。同協議会は来年度、病院内自殺の実態や予防対策について、再調査を実施する予定だ。【下桐実雅子】
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◇自殺を起こす恐れのある要因
▽訴えや態度
・死に傾く気持ち
・絶望感、無力感
▽既往歴・家族歴
・自殺未遂、自傷行為
・家族、親族の自殺
▽症状や病気
・精神疾患
・がん
・慢性、進行性の身体疾患
・身体機能の喪失
▽生活環境・出来事
・親しい人との離別や死別
・失職や経済破綻
・孤立
・自殺報道や情報への接触
(河西千秋・横浜市立大教授の資料を基に作成)
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