すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

STORY.20 桜、さくら、サクラ 前編

2009-05-04 22:30:53 | 小説・舞音ちゃんシリーズ
出来立て、ほやほや、の小説です。

彼の、「ちゃんとしたお花見って、したことあらへん」に、反応してみました。

自分が妄想したものとは、
文字にしていく作業の、早い段階で、
少し変わってきました。

なので、本当に、今さっき、出来上がった、
湯気の出ている妄想小説になります。

リライトの途中で、日付が変わりそうなことに気付きました。
ので、一旦、途中で、UPします。
後編は、日付をまたいで、UPいたします。

お付き合いくださる方は、続きからどうぞ。

携帯からご覧の方は、
その設定から、ページ数が増えます。

ご承知置きください。


一筋の、朝の光が、
カーテンの隙間から、こぼれる。

まだ、眠り足りない俺の隣で、
彼女は、小さな寝息を立ててる。

俺の腕に、縋り付くようにして眠る彼女の、
安心しきった、無防備な寝顔が、
可愛くて、

俺は、彼女を起こさないように、
そっと、
ベッドを抜け出した。

俺らのベッドの横には、
小さな白いベッド。

ほんの今、

目を覚ました舞音が、
泣こうか泣くまいか、思案げな顔してる。


「しーっやで、舞音」

俺は、舞音に向かって、口に人差し指を立てる。

「ママ、疲れてんねん」

一日中、このやんちゃ姫と顔つきあわせてる生活は、
きっと、彼女の神経をすり減らしてるはずや。

寝かせておいてやれるなら、
10分でも長いほうが、ええやろ。

幸い、
今日は、オフやし。
とりたてて、急ぎでやらなあかんことも、ないし。

のんびり、舞音の相手すんのも、
ええかもしれんしな。

「おいで」

なんも言わんと、
素直に、俺に抱かれる舞音。
こいつ、まだ、
ほんまは、起きてないんやな。

俺は、舞音を抱っこして、部屋を出た。




「さあて、と」

俺は、舞音をソファに降ろして、
窓辺に寄ると、
リビングのカーテンを開けた。

まぶしい光が、
ぱあっと、部屋の中に差し込む。

空は、快晴。
綺麗な、青い空だ。

この季節、
俺のアレルギーもあって、
極力、窓は開けたくないんやけど、

ほんでも、
この朝の空気を吸わへんのも、
もったいないような気がして、

俺は、鍵を開けて、ベランダに出た。


少し、まだ、冷たい空気が、
頬に触れた。

「寒いか?」

振り返って、舞音を見る。

舞音は、知らん顔で、
もう、おもちゃ箱の中から、
お気に入りの人形を引っ張り出そうとしてた。

「おいおい、散らかしたら、あかんで」

俺は、とりあえず、声だけ掛ける。

ここで、舞音のやってること止めたら、
大泣きになるんは、経験済みや。

舞音が泣いたら、
せっかく、あいつを寝かしとこ、思うたのに、
台無しやもんな。

俺は、視線を空に戻す。

青い、な。

夏の青のように、濃くはないけど、
吸い込まれるような透明感は、
この季節ならでは、やな。

ベランダから見える風景の中に、
所々、ピンクの塊があるのに、気付いた。

あれって・・・桜? ・・・だよな。

もう、咲いてんねや。

満開までは、まだ、間があるんかな。

いつものこの季節は、
新曲が出たり、アルバムが出たりで、
プロモーションに忙しい。
合間には、コンサートのリハもあるし、
ろくに休みもとられへん。

今年かて、それは同じやけど、

こないに、のんびり出来てるんも、
珍しいっちゃ、珍しいわ。


桜、か。


こんな日は、きっと、
お花見の人も多いんやろな。



「ぱーぱ?」

いつの間に、足元に来てた舞音。
俺のシャツのすそに手を伸ばす。

「おなか、ちゅいた」

舞音の片手には、抱き人形。

おかんが買い与えたやつやな。

洋服から、小物から、ハウスから、
なんやしらん、
ごっそり、おもちゃ箱に入ってるやつや。

ここんとこ、お気に入りで、
お風呂にまで、一緒に入りたがるって、言うとったな。

「なんや、もう、腹、減ったんか」

俺は、舞音を抱き上げた。

「舞音、このお人形さん、何て名前やったっけ?」

「まりゅちゃん」

ん?
そんなんやったか?
一文字、違わへんか?

その名前やと、
なんや、無駄にテンション高そうな人形ちゃうか?

俺は、舞音を抱いたまま、部屋の中に戻った。

そのまま、キッチンへ行くと、
そこで、舞音を降ろし、
冷蔵庫を開けた。

「いっつも、舞音は、朝、何、食べるん?」

舞音と朝食の時間が合うなんてこと、
滅多にあらへんから、
わからへん。

「ミユク、ちょーだい?」

「ミユク? ああ、ミルク、な」

小首かしげて、お願い、の表情や。

俺は、とりあえず、
牛乳を出して、
舞音のコップに注ぐ。

「ちょっとずつ、飲みや」

抱いていた人形ごと、
舞音を椅子に座らせて、
コップをもたせる。

「ありやと」

にっこり、笑った舞音。

あかん、可愛ええ。

と、思ったのも、つかの間。

舞音は、コップの牛乳を、抱き人形に近づける。

え?

俺があっけにとられてる間に、
舞音は、
そのまま、ミルクを人形に飲ませようとした。

「おいおいおいっ!!!」

寸でのところで、舞音の手から、
コップを取り上げた。

「なにすんねん!!」

つい、怒鳴りつけてもうた。

「ええか? お人形さんは、ミルクは飲まへんで」

少々、低めの声で、言い聞かす。

しもうた! と思うたんは、
次の瞬間や。

俺を見上げて、キョトンとしてた舞音の顔が、
見る見る間に、ゆがむ。

あかんあかん、泣くなや。
泣くとこ、ちゃうやろ。

叱られるようなことしたん、
舞音やねんぞ。

「うぃ、・・・うう・・・ま、ま・・・・ままぁ!」

俺の剣幕に押された舞音は、
彼女の姿を探して、部屋中を見回す。

いないと分かると、
泣き顔のまま、
椅子から降りようとする。

子供用の、高い椅子は不安定で、
舞音が動くたび、ひやっとする。

「危ないって!!」

俺は、舞音を抱き上げる。

「いや、いやぁ、ぱぱ、いやぁ」

のけぞって暴れる舞音。

ああ、もう!
大人しせえや。

「どないしたら、ええん?」

舞音の、泣き声のトーンが、
段々、上がっていく。

たまりかねて、俺は、舞音を降ろす。

こんなん、いっつも、
どうやって鎮めてるん、あいつ。

「あ。ほれ。まりゅちゃんのミルクなら、あっこにあるやん」

さっき、舞音が散らかしたおもちゃの中に、
小さな哺乳瓶を見つけた。

俺は、それを拾うと、
舞音に見えるように、人形の口に近づけて、
飲ませるマネをした。

哺乳瓶の中の白い液体は、
傾けると、少なくなっていく。
逆さにしたら、空っぽや。

へえ、よう出来てるな、これ。
ほんまに、飲んだみたいやん。

泣きながらも、
俺の手元を見ていた舞音。

「まのん、が、やる」

涙でくしゃくしゃの顔して、
俺の手から、哺乳瓶を取ろうとする。

「おお、そやな。舞音がやったら、ええわ」

俺から哺乳瓶を受け取った舞音は、
ミルクを人形に飲ませると、
嬉しそうな笑顔になった。

はあ。
やれやれ。

自分がおなか空いてたんと、ちゃうかったんや。
人形、やったんやな。

さて、と。

俺は、改めて、冷蔵庫の中を見る。

大概整理された食材は、
それぞれ、使い道があんのかな。

勝手に使ったら、
あとで、困るんかな。

ん~~~と。

あ。

そうや、ええこと、思いついた。





「おい、そろそろ、起きるか?」

薄暗いベッドルームのカーテンを、一気に開けて、
俺は、声を掛ける。

「んんんんん・・・」

小さく伸びをした彼女は、手元の時計を手に取った。

「えええっ!」

驚いたように、身体を起こす彼女。

「もう、こんな時間なの!?」

彼女に近い、ベッドの隅に、手をかけて、
俺は、彼女の顔を覗き込む。

「おはよう」

そのまま、左の頬と頬を合わせて、いつものあいさつ。

「おはよ」

もう片方も、軽くあわせる。

「起こしてくれたら、よかったのに」

「たまに寝坊すんのも、気持ちええやん」

ベッドサイドに腰掛けて、
俺は、彼女の手から、時計を受け取ると、
元に戻した。

「今日は休みやから、慌てて家事せんでも、ええよ」

「でも、舞音は? おなか、すかしてるでしょ」

「ああ・・・。おもろかったで。あいつ、な・・・」

俺は、今さっきの、ミルク事件を話してきかす。

「ごめんね」

ん?
なんで、謝ってんねん。

「舞音、ここのところ、自分の思い通りにいかないと、
 すぐにカンシャク起こすの」

「そんなん、お前のせい、ちゃうやん。
 謝らんでもええよ」

俺は、彼女の頭を撫でる。

「いや、ほんでな。
 ベランダに出たら、ええ天気やねん」

彼女は、窓の外に目をやった。

「みたいね」

「せやから、な、出かけよう」

「え? 今から?」

「おお。
 桜、見に行こうや」

「さくら?」

「お花見、お花見。お弁当持って、舞音連れて。
 近くの公園でええから、行こ」

「じゃあ、すぐに、お弁当の仕度・・・」

「あ、それは、ええねん」

「え、でも。今、お弁当持ってって」

「ふふん、もう、出来てるから、心配いらん」

「出来てる・・・?」

少し、間があって。

「それ、お母様?」

「なんで、そこで、おかんが出てくるかな」

「だって」

「だって、ちゃうわ。なんでやねん」

ツッコミは、俺の得意ちゃうぞ。
やらすなや。

「見たら分かるから。行く、やろ? 早よ、着替えて」

「う、うん」






後編へ続く。







コメント (2)
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