関ジャニズム東京三日間。
一日目の夜は、買ったツアーバッグにあれこれ改良加えて、お針ごとチクチク。
ファスナーつけて、赤色の綿テープ付けて、コラボキティを飾り付けて。
二日目の夜は。
どうしても、彼の一言が心から抜けなくて。
たったひとこと。
それを昇華させたくて短い短い妄想ひとつ。
続きから。
おつきあいくだされば幸いです。
STORY.47 最高の贅沢
ひとつふたつ、みっつ。
暗い中に光る星を数えて、空を仰ぐ。
静かに眠り始めた駅の階段。
普段着の彼が、足早に降りてくる。
肩をすくめて車に乗り込んできた彼が、
「なんて表情しとんねん」
言いながら、私の顔を覗き込んだ。
「そんな顔見たくて、最終に飛び乗ったんちゃうで?」
仕事終わり。
時間に間に合うようなら逢える。
一歩でも遅れたら、次がいつになるか分からない。
そんな綱渡りの、二人の時間。
「無理したら、あかん。続かへん」
「一緒におるばっかりが恋人ちゃうし。距離感、大事」
いつもそう言ってる彼が、
それでも無理して最終に飛び乗って。
乗り継いで、時間かけて、ここまで来た理由。
「なんでなんか。分かってんのか?こら」
言葉のないまま彼を見つめる私の頭に手をおいて。
「今日が、なんの日か。忘れたんちゃうやろな?」
まっすぐに。
彼の瞳が私に向かってくる。
『誕生日・・・』
口にした言葉は、声にならなかった。
彼に逢えた嬉しさと。
夜が明けたら、また離れなきゃいけない寂しさとが。
ぐるぐる、ぐるぐる。
渦巻いて私を呑み込みはじめてる。
せつなくて。
やるせなくて。
どこの誰より恋しくて、いとしくて。
「ぁあ?」
少し伸びた無精ひげ。
先の揃ってない短髪。
ちょっとすごんでみせる瞳は、
だけど、言葉とうらはら。
「愛してる」
私の口から、ほろり。
無意識のうちにこぼれだした言の葉に。
間髪入れず。
「そんなん、知ってる」
と応えた口の端が、照れて。
「あほォ、ちゃうやん。そんなん、ちゃうやん、卑怯やぞ」
私の髪をくしゃくしゃっと撫でた。
「言わへんのやったら、帰るぞ」
「嫌ッ!」
「嫌ッ!ってな、おまえ。ほんなら、言えや」
彼の顔が、少しずつ近づく。
「・・・・・・お誕生日、おめでとう」
焦らしたわけじゃなくて。
言いたくなかったわけでもなくて。
それを言ったら。
逢いたかった理由がなくなるような気がして。
「おん、ありがとう」
満足そうに笑った彼の唇が、重なってくる。
夏の終わり。
秋の初め。
冷えつつある空気の中で。
そこだけが温かくて。
そこだけが、次第に熱くなる。
ほんのり強く。
だけどやさしく。
少しだけ深く。
少しだけ長く。
身体の奥で、何かが解けて柔らかくなる。
「ここに来るまでに日付け変わってもうて。メールは次から次に来るし」
「どないしよかな、思うたわ」
「誕生日の。一番初めの『おめでとう』と『ありがとう』はお前としたかったからな」
耳元で、彼がささやく。
「プレゼントに欲しいもん、言うてええか?」
私が小さくうなづくのを待って。
「朝まで。俺の腕の中にいてくれるか?」
「お前の声、聴かせて。忘れんように」
無理を通してでも、彼が欲しがったもの。
与え合う温もりと、交し合う声、刻む音。
朝陽がのぼるまでの。
ほんのひととき許された、
それは、
最高の贅沢。
FIN.