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二、セブ王の噴水(序 章)

2014-10-16 | 小説 黄泉の国より(ファンタジー)

 

 

 あれはもう一カ月も前の事になるが、アモイ探偵団にとって忘れ難い出来事があった。それはアモイ探偵団が初めて関わった、大事件の序章となったのである。

  その日は朝から妖気が漂うような天気だった。厚い雲が狂ったように不規則な動きをして沸き上がり、町全体に覆いかぶさるように流れていた。遠くの山が所々赤茶けて見えた。豊だったセブズーの自然が至る所で死に始めていた。それは人が気づかない程のスピードで進んでいた。誰にも知られない所で今日も一本、若木が死んだのだ。教会の高い塔の周りをカラスが数羽飛び交っていた。

 四人はいつものように、そろって学校に向かっていた。

 カラスはこの路にも降りて来ていた。濡れたような黒い羽根をたたんだカラスが二羽、街路樹の枝にとまって四人を見つめていた。ごみ箱の上にも一羽、こちらを向いてにらんでいるように見えた。

 「何か見張られているようで、気味が悪いわ。」エミーが小声で言った。

 「ほんと、何かあるのかしら。いやな予感がする。」エグマが応えた。

 「こんなにカラスが集まってくるなんて初めてじゃないかな。」

 「気をつけよう、大地震が来るかもしれないぞ。」カルパコが言った。

 「どうして?」

 「鳥は地震波に敏感なんだ。」カルパコは得意そうに言った。

 「カウ、」ごみ箱にいたカラスが突然飛び立ち、高い屋根を越えて飛び去って行った。

 「急ぎましょう。」

 「そうだな。」

 足を速めた四人の行く道の真ん中に紙くずが落ちていた。きれい好きのエグマがそれを拾って近くのごみ箱に捨てた。

 しばらく行くと、また同じようなくしゃくしゃに丸められた紙くずが一つ転がっていた。

 「一体だれなの、こんな事をするのは。」エグマが小言をいってそのゴミ拾った。

  「あそこにもあるよ。」エミーが拾った。

 「おいおい、まただぜ。」今度はカルパコが紙くずを手にした。ゴミは四人が通る道に沿って、当間隔に落とされていた。

  「よほどマナーの悪いやつだな。見つけたらとっちめてやる。」

  三人はごみ箱を見つけて、そこに一つずつ紙くずを投げ込んだ。

 これで終わりと思ったら、またしても、丸められた紙くずが道の石畳の上に転がっていた。

 「これはポイ捨てというより、いたずらじゃないのか。」

  「カラスの仕業かもしれないよ。」

 「カラスが、同じゴミを点々と落として行かないだろう普通。」

 「それもそうね。」

 「しかし、これはただ捨てたというより、悪意を感じるぜ。」

 ダルカンがそう言いながら、紙くずを拾って、辺りを見回した。

 「広げて見たらどう?」

 「そうだな、なにか手掛かりがあるかもしれないぜ。」

 ダルカンはゆっくり丸められた紙くずを広げた。

 「何か書いてあるぞ。」

 「何?」

 ダルカンは広げた紙片を見つめたまま、立ち止まっている。

 「ねえ、どうしたのよ。」

 「見てみろよ。」そう言ってダルカンはみんなの前に紙切れを広げた。

 『セブ王の噴水を調べよ。』

 紙片には赤い字でそう書かれていた。四人はお互いに顔を見合わせた。そして示し合わせたように、踵を返してもと来た道を走りだした。道まで降りて来ていたカラスが二羽、 一斉に飛び立った。四人は見覚えのあるごみ箱に駆け寄り、中から先程捨てた紙くずを拾い上げた。

  『王家の』

 『光をあてよ』

 『それを』

  三つの紙くずには、同じ赤いインクでそんな文字が書かれていた。

 「何だろうこれは。」

 「これは、きっとつなげて読むのかもしれないよ。なんだかつながりそうじゃない。もう一つ取ってくる。」

 そう言ってエミーが駆け出した。そしてすぐに、最初エグマが投げ捨てた紙くずを持って戻って来た。

  「何か書いているか。」カルパコが訊いた。

  「これよ。」エミーはみんなの前に紙を広げて見せた。

 『眠らされた歴史に』

  「まだあるかもしれない。」エグマが叫んだ。

 「そうだ、急ごう。」

 四人は再び街路を引き返し、先を急いだ。しかし紙くずはもうどこにも落ちていなかった。やがてそのまま学校の門までやって来た。

 「あっ、あれよ、」そう言ってエグマが門柱の足元に駆け寄った。

 「どうした。」

 「ほら、あったわ。」

 エグマは紙くずを持ち上げて振った。

 「でかした、エグマ。」

 ダルカンが駆け寄った。紙を広げると、そこには『知りたければ』と書かれているのだった。

 

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