のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

ジイジと北斗(新スケール号の冒険)44

2022-11-24 | ジイジと北斗(新スケール号の冒険)

(28)

 

白い剣士が黒龍の頭上に現われ、剣を頭に突き刺しました。

龍は身体を痙攣させて湖に沈んだのです。

「ちくしょう!」

一部始終を見ていたチュウスケは思わず叫んで黒い槍を全弾スケール号に向けて発射しました。

槍は空中に網の目のように拡がりスケール号を包み込むように襲いかかりました。

逃げ場がないのです。

「博士!チュウスケの攻撃です。空いっぱいに槍が飛んでくるでヤす!!」

「ついに来たか。艦長、身体を小さくして槍を避けるぞ。王様、ビーム砲の準備を!」

ところがスケール号が動かないのです。

「スケール号をもっと小さくするのだ、ハエのように。艦長!・・艦長??」

「博士、艦長は寝ているでヤす!」

「艦長が起きないダすよ。」

艦長は揺りかごの中でスヤスヤ寝息を立てているのです。

もこりんがほっぺたをつんつんしても起きません。ぐっすり寝込んでいるのです。

「なんとか起こすのだ。」

「駄目でヤすよ博士。いつもならこれくらいで起きてくれるのでヤすが。」

「やって見よう。」

バリオンの王様が手荒く頬をパチパチして、背中から全身にマッサージをしました。

ところが北斗艦長は背伸びをして足を踏ん張り腕を突き上げたかと思うと、また動かなくなるのです。

「艦長、起きて!」

ぴょんたが叫びましたが起きそうにありません。

「だめダすよ、博士!」

「仕方がない。」

博士はそう言うと、艦長がかぶっている赤い帽子を自分の頭に載せて操縦席に座りました。

自分が艦長だった60年前の感覚は、スケール号が金の槍に襲われたときの経験で取り戻していました。

博士に迷いはありません。

「博士、もうダメでヤす。」

もこりんがモニターの画面を見ながら目を覆いました。

無数の黒い槍が雨のように降ってきたのです。

「スケール号、ハエの大きさになれ!」

「ゴロニャーン」

鋭い槍先がスケール号の背中とお尻と頭を直撃しました。

胴体を襲った槍がハエになったスケール号の真横をすり抜けて闇に消えて行きました。

「反転して、チュウスケに向かうんだ。ビーム砲発射準備!」

マントに覆われたチュウスケの黒い姿が見えました。

槍を構えて身構えています。

バリオンの王様は床に坐臥のポーズを取り仏様のように動きません。

「スケール号が、元に戻ったときが勝負だ。砲手、しっかり照準を合わせろ。」

「アイアイサー!」

ビーム砲のエネルギーが今まで見たことの無い高さになって、メータが振り切れてしまいました。

操作盤が振動して所々にスパークが起こります。

 

「元の大きさに戻れ。スケール号。」

「ゴロニャーーン」

 

待ち構えていたチュウスケは、槍をスクリュウのように回転させて黒い竜巻攻撃をしかけて来ました。

「発射!」同時にスケール号がビーム砲を発射しました。

スケール号の目から発射されたビームがチュウスケの竜巻と中央でぶつかりました。

二つの力が激しく押し合います。

しかし王様の瞑想によって高められたビーム砲は、竜巻の中心に集まりドリルのように竜巻の芯をくり抜いて進んで行ったのです。

竜巻の回転する無風の中心を通ってビームが一本の光になったではありませんか。

チュウスケの身体に、良い心のエネルギーが達すると黒い竜巻はビームのまわりをゆっくり回りながら消えて行きました。

「ギャー」「グワワーー」「カウカウ」「ポンポコリン」

チュウスケは、煙を上げて崩れ始めました。

本体が煙と化すとマントだけがひらひらと湖面に堕ちて行きました。

ところがその黒い煙が上空でチュウスケの姿に変わったのです。

煙のチュウスケは一瞬震えるように見えましたが、そのまま逃げるように湖面に飛び込んだのです。

湖面に浮かんだマントは水に浸食されて消えてなくなりました。

 

その湖面から女の子を探すと、白い剣士が優しく介抱していました。

「助かったんだ!」ぴょんたが言いました。

「よかったでヤす。」

「でも博士、あの白い剣士は何者ダすかね。」

「女の子を助けてくれたのだ。少なくとも我らの見方だろう。」バリオンの王様が言いました。

「はぶはぶ、うきゃー」

その時揺りかごの中から艦長の声が聞こえました。

「あれ、寝言でヤすよ。もう!肝心な時に寝てしまって、いい気なものでヤすよ艦長は。」

「うーばぶー、うばうばハブばぶ」

しきりに寝言を言いながら、艦長は手を前に出すしぐさをするのです。

「博士!もしかして、これって、・・・・・」

「ぴょんた、気が付いたんだね。」

「信じられないです。」

「どうしたんでヤすか、ぴょんた。」

「あれをご覧。白い剣士の方だ。」

博士が湖面の二人に目をやりました。

白い剣士が手を差し伸べ、女の子を引き起こしているのです。

その姿が寝言を言っている艦長のしぐさとそっくりだったのです。

「えっ、まさかそんなことないでヤすよね。」

「何がどうしたダすか?分かるように教えてほしいダす。」

「白い剣士でヤす。艦長と同じ動きをしているでヤすよ、ぐうすか。」

「もしかしたら艦長の夢があそこで現実になっているのダすか。」

「さすがぐうすかは夢の専門家だ。」

博士が感心したように言いました。

「ならば私が役に立つ。」

バリオンの王様が言いました。

そして揺りかごに歩み寄ると眠っている艦長の胸に手をかざしたのです。

北斗艦長の身体が青白く輝き始めました。

すると湖面の剣士が掲げる剣の切っ先に青いオーラが立ちのぼり始めたではありませんか。

 

毛嵐の揺らぐ湖面に女の子と白い剣士が背中合わせに立っています。

二人の剣はそろって天に掲げられているのです。

その二人のまわりを取り囲むように赤い光が二つゆっくり巡っていました。

一つは手負いの龍。ところがもう一つの赤い光は何なのでしょう。

 

女の子が意識を取り戻したとき、目の前に白い剣士がいました。

助けられた。

それが分かると、再び戦う気力が湧き上がってきたのです。

敵が動く前の一瞬を突く。

考えるのはそれだけでした。

ところが黒龍は跳躍しても届かないところから頭をもたげました。

そしていきなり火を吐いてきたのです。

二人が転げながら逃れると、今度はさらに巨大な龍が頭をもたげたのです。

それは黒龍をはるかに超えた高さから口を開け、溶岩をよだれのようにしたたり落としているのです。

そして倒れた二人に襲いかかりました。

とっさに二人は左右に飛んで巨大龍の首筋を狙いました。

しかし硬い鱗が刃を跳ね返してしまうのです。

巨大龍はそのまま湖に潜り込みました。

ところがその一瞬しっぽが湖面を這うように霧をなぎ倒して二人を襲ったのです。

その瞬間、白い剣士が湖面を蹴って宙に舞い上がりました。

女の子の手を取って空を飛んだのです。

そこに待ち構えていた黒龍が首を振って二人を追いました。

手を結んだ二人はまるで鳥のように空を飛びます。

白い剣士がそっと手を放すと、あわてて女の子が落下する手足をばたつかせました。

するとそれだけで飛ぶ技を覚たのです。

再び手をつないで黒龍に正面から迫って行くのです。

黒龍が火を吐くと二人は手を放し火炎の左右を飛行して龍の顎の下に潜り込みました。

女の子が龍の首に一撃を与えると、剣士がその傷をめがけて剣を大きく振り払ったのです。

すると一閃の青白い光が黒龍の首を胴体から切り離し、首は湖面に堕ちました。

その後を追うように首のない胴体が崩れ落ちたのです。

その水しぶきと同時に巨大龍が再び現れ空に駆け上がりました。

全身に火炎のバリアを張り巡らし、雷鳴が全天に轟きます。

至る所から稲妻が槍となって二人を襲いました。

どう逃げても目標に向かう稲妻です。

「剣を湖に!」

女の子が叫んで急降下すると、剣士も後を追いました。

無数の稲妻がその後を追います。

二人が湖に突っ込むと稲妻が湖面で大きな音を立ててはねかえりもうもうと水蒸気の柱が立ちました。

その時巨大龍の真下から黒猫が駆け上がったのです。

その目が金色に光ると白いビームが飛び出して来ました。

「ぐぐぐおーん」

巨大龍が悲鳴を上げました。

腹の鱗がビームで丸く焼け焦げているのです。

驚いたことに黒猫はそのまま突進して黒焦げの鱗を突き破って龍の中に消えたのです。

しばらくすると龍の身体が光の網で覆われたように見えました。

鱗の隙間から白い光が漏れているのです。

巨大龍は体躯をくねらせ、ギリギリと身をねじりました。

不気味な粘液が絞り出されると同時に身体をおおっていた火炎のバリアが消えたのです。

「今よ!」

白い剣士と女の子が湖面から飛び出し、上空でのた打ち回る龍の背中に飛び乗りました。

そして女の子が深々と首に剣を突き刺したのです。

剣士が跳躍して剣を振り下ろしました。すると龍の首がぐらりとねじ曲がりました。

女の子が剣を引き抜き、首に残った皮を断ち切るとそのまま首が湖面に堕ちて行きました。

頭を失った龍は尻尾から先に湖面に吸い込まれて行ったのです。

湖の中に、黒い体液が流れ続けている龍の首がありました。

その切り口から黒猫が飛び出してきたのです。

黒猫が青白く輝くと、黒に染まった湖が次第に青くなって行きました。

深くゆったりとした宇宙のリズムがよみがえったのです。       

龍が堕ちた湖面でネズミが溺れていました。

しっぽが切れてうまく泳げないのです。

「チュウチュウチュウ」

 

憐れに鳴いているネズミに白い剣士がとどめを刺そうとしました。

「だめ!」

「アブバブ?」

「私がここで育てます。殺したら同じ繰り返しなの。」

そう言うと女の子は震えているネズミを自分のふところに入れてやりました。

「ありがとう、北斗。私の名はフク。」

毛嵐がはれて湖があらわになると、そこは一面の花畑でした。

それと同時に、白い剣士がゆらゆらと陽炎になって消えたのです。


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