のしてんてんハッピーアート

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静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

ジイジと北斗15(新スケール号の冒険)

2021-04-08 | 物語 のしてんてんのうた

(15)

 

「反乱軍の話しを詳しく聴かせて頂けませんか、王様。」博士は北斗艦長を抱きながら顔を王様の方に向けました。

「なぜそんなことを聴くのだ。そなたたちの目的が今だこちらには分からぬのだぞ。」

「申し訳ありません、王様。」

博士ははやる心を詫びてから話を続けました。

「この子がスケール号の艦長、北斗と申します。まだ小さい故、御無礼はおゆるし下さい。」

「その子がこの猫の艦長とな。。」王様は抱いている猫と北斗を見比べながらつぶやきました。

「ごろごろごろ」スケール号は喉を鳴らしています。

「ぱふぱふ うっキャー」

「機嫌がよさそうだの。」

「おむつがきれいになるといつもこうなんですよ。」

「子が可愛いのはいずこも同じだな。大事にするがよい。」

「ありがとうございます。王様。」

博士は礼を述べてから、決心したように話を核心に持って行きました。

「私たちがここに来た理由を申し上げます、王様。ただそれを理解していただくためには、長い退屈な話が必要だったのです。おゆるし下さい。」

「すべてを信じたわけではないが、考えさせられる話ではあった。」

「ありがとうございます。私達は太陽系の地球という星に棲んでおります。実はその地球に一人の子が生まれたのです。」

「。。。。」

「生きているのが不思議なくらい未成熟で、あらゆる手を尽くしても原因が分からず成長が止まったままなのです。このままでは死を待つしかしかありません。それでも両親はその子に名前を付けました。のぞみという名です。どこかに見えない原因がある。ある一つの言葉を信じて私たちは、のぞみ赤ちゃんの身体の中にあるこの原子系宇宙にやってきたのです。」

「つまりこういうことなのかな。。」

話しを反芻しながら考えをつなごうとするように王様は続けました。

「我がバリオン系宇宙は、そなたたちの太陽系宇宙とつながっていると。。。言うのだな。。」

「そして、太陽系で生まれたその、赤子の身体は。。つまり我が宇宙の素粒子星が手をつなぎ合って出来ている身体だと。。。しかしそんな手は何処にもないぞ。」

「その手こそが、この空間なのです王様。宇宙語でつながっている空間です。私たちが見守っているのぞみ赤ちゃんは、あなた様が守っておられる、まさにこの宇宙なのです。」

博士も慎重に話を進めます。スケール号の隊員たちも、王様の従者たちも緊張した面持ちで聴き入っています。

「先ほど王様は反乱軍と戦っておられるとおっしゃいました。」

「降ってわいたような話だ。得体のしれぬものが動いている。経験したことの無い戦いというしかない。」

「失礼ですが王様、その戦いの真の目的をご存知ですか。」

「このバリオンを守るためだ。そなた、この私を愚弄するつもりか。」

王様はかかえていたスケール号を放して博士に向き直りました。スケール号は王様の足元から逃げるように博士の後ろでうずくまります。

「そうではありません王様。どうか聞いてください、王様。」

博士は矢継ぎ早に言葉をつなぎました。

「王様がその戦いに負けたら、のぞみ赤ちゃんはおそらく生きていけないのです。」

「何だと。。」

「バリオンを守るということが、のぞみ赤ちゃんを生かすということなのです。そう考えてみてください。そうすれば王様が持っておられる太陽族の強大な力は、のぞみ赤ちゃんをヒトに成長させるという大いなる目的のためにあるのだと分かって頂けるでしょう。」

「。。。。」しばらく王様は言葉を失っていました。

「王様、太陽族の使者として申し上げます。どうかこの事実に目を向けて頂きますようお伝えいたします。今申し上げたことはおひさまの言葉だと信じていただきたいのです。」

博士は再び膝を折って使者の礼を示して奏上したのです。

 

「我らには代々受け継がれている伝説がある。。。」王様は遠い目をしました。

 ここにありて、  しかもはるか彼方にあるもの。

 我ら、  太陽族の生まれた理由がそこにある。

何度も聴かされてきた太陽族の伝説を今、王様は全く別の方向から覗き見ているような気がました。

「はるか彼方にあるもの」その「彼方」に対する考え方が横の意識から縦の意識に変ったのです。思いもしなかった新しい考え方でした。

太陽族は横に拡がって存在しているだけではなかったのです。考え方を縦の意識に変えたら、横にいる太陽族が互いに手を結び合ってより大きな太陽族を生み出している。そんな世界を思い浮かべることが出来るのです。小さなものが集まって大きなものに、逆に見れば大きなものの中に小さなものがあるという縦のつながりが見えるようになったのです。

「我ら太陽族は横に並び立っているだけではない。それは縦に縦に、己のこの身そのものが一つしかないものに捧げられて存在している。」伝説はそのことを伝えていた。そう考えると太陽族の伝説がこの上もないほど重々しく大きな意味を持って王様に迫ってくるのでした。

「のぞみと申したな、その赤子は。我らとは無関係のものと思うておったが、我らそのものと考えてもいいというのだな。」

「その通りです王様。」

「それで赤子を助けられるのか。」

「王様、この子を抱いてやってもらえないでしょうか。」

博士は唐突に話を変えて、北斗艦長を差し出しました。それに釣られたように王様は北斗艦長の小さな体を抱き取りました。そしてそっと顔を近づけたのです。

「良い香りだ。北斗と申したの。」

「はい、」

「ハヴパブ」

バリオン王の腕の中で北斗艦長は右手をまっすぐ伸ばして自分の握りこぶしを見つめていました。

「まるで剣を持った勇者のようだの。」

王様は笑いながら言いました。

「その子が教えてくれたのです王様。ここには宇宙語がないと。」

「また奇妙なことを。。先ほどから云っておるな、宇宙語とは何のことだ。」

「言葉が生まれる前の言葉なのです。その子はまだ言葉を知りません。ですが元気に生きております。ここ数日だけでも随分重くなりました。」

「一体何を言いたいのだ。」

王様は苛立つて博士を見ました。けれども北斗が可愛い声を上げると、その目は再び北斗に向けられました。その頬は誰が見ても緩んでいるように見えました。

「言葉は太陽のようなものです、王様。闇の中から必要な意味を照らし出して見せてくれます。けれどもその反面、光のために夜空の星は見えなくなってしまいます。しかし言葉の太陽がない北斗は、まだ夜空の姿がそのまま見えているのです。それが宇宙語なのです。」

「なるほど、言葉は太陽か。明るいと見えぬものもある。それは分かるが。。。」王様は北斗の重さを腕に感じながら言いました。

「王様。北斗はその全身が宇宙語のかたまりなのです。どうか言葉でなく心で見てやって頂きたいのです。この子がなぜここに宇宙語がないというのか、王様に何か心当たりがございましたら、のぞみ赤ちゃんを助けられる原因も分かるのではないのかと、いちるの望みを持ってやってきたのです。」

「心当たりがあろうはずがなかろう。」

「・・・・」

「解決できぬ不安はあるがの。太陽の紋章を持つそなた達なら、この不安を晴らす力をもたらしてくれると思うておったが、お互いに求め合っていたとはの。」

「ㇵヴハヴうっきゃー、はふはふ」

北斗が王様の腕の中で手を振りました。その時右手が王様の髭をつかんだのです。王様が思わずその手から髭を引き抜きました。すると北斗が王様の顔を見て笑い声をあげました。何て屈託のない笑顔でしょうか。可愛い頬を上げ三角に口を開いた曇りのない笑顔に癒されないものはいないでしょう。その笑顔を見た時、王様の心に或る一つの閃きが起こったのです。

「艦長が笑ったでヤすよ!」もこりんのびっくりした声です。

「艦長がこんなに笑ったのは初めてだよ。そうだよね。」ぴょんたはみんなの同意をもらって喜びを何倍にもしたいのでしょう。

「王様はすごいダすなぁ。艦長を笑わせたのダすからね。」ぐうすかだけが王様を褒めました。

北斗艦長のまわりに集まってきたのは隊員たちばかりではありません。王様の従者達も喜び顔で集まってきました。二度三度髭を引っ張られてもそのたびにキャッキャと笑う子供の姿に王様はまんざらでもない顔をしています。

でも度々自慢の髭を引っ張られてはたまりませんので、王様は北斗を博士に渡して言いました。

「博士、我が宇宙に宇宙語がないという話、今意味が分かったぞ。」

「王様、!」博士の顔に火がともったように見えました。

「笑いだ。この笑いなのだ。」

王様は憑き物が落ちたような顔をして、博士の腕に抱かれた北斗を愛おしそうに眺めました。

王様は人の心を動かす呪術者でもありました。スケール号は真っ先にその洗礼を受けたのです。心を見るものは、時としてたった一つの閃きから、ものごとの深い理解をつなげることがあります。この時の王様はまさにそうでした。

それというのも、王様には心に引っかかって解決出来ない問題があったのです。魔法使いの起こした反乱軍が瞬く間にストレンジ星を征服してしまったのです。反乱軍とは、魔法をかけられた民なのです。その魔法がなぜ短時間にこれだけのことをやってのけたのか、その力が分からないまま、ストレンジの王は敗走。その姫は捉えられてどうなっているのか。敵の正体が分からず、このままぶつかれば同じ民同士が無駄に殺し合うことになるのです。しかし反乱軍は倒さなければならない。王様は目先の対応だけでスケール号を襲った大船団を駆逐した事にも心を痛めているのです。しかし何もしなければこの先同じことが何度も起こるでしょう。王様を悩ませていたものは魔法使いに対する戦い方が分からない焦りと不安だったのです。

ところが、北斗の笑い声と笑顔に触れたとたん、その不安が氷解したのです。魔法使いの魔術はストレンジの民から笑いを奪ったのだと思えたのです。王様はストレンジから笑いが消えたのは、侵略者の攻撃が原因だと思っていました。しかし、まさにそれ自体が魔法使いの魔術だったのではないか。そう考えた時、この世界に宇宙語がないという意味が全身にしみわたりました。北斗のこの笑いが宇宙語そのものだとしたら、ストレンジ星に起こっている未曽有の危機は、笑いの宇宙語が魔法の力で消されているそのことが発端だと考えられるのです。笑いを奪われた民は、希望を失い喜びを忘れてしまう。先の見えない不安と猜疑心に見舞われ、自分の生活が地獄のように思えてくる。そして簡単に反乱に誘われる。そうであるなら、反乱軍の武力にだけ目を奪われていては影を相手に戦うことになる。調べてみる価値が十分にあると王様は考えたのです。

太陽族の使いがもたらしたものは、まさに王の欲するものだったのです。そしてそれは同時に、スケール号の求める原因に他ならなかったのです。その後王様と博士の会談が共通の敵チュウスケという魔法使いにたどり着いたのは言うまでもありません。

 

 

 

 

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