「わしはな、その点で迷いに迷った。その揚句、
武の道は将軍家に委そうと思った。
朝廷は学問・芸能の道をとる」
「「それこそ江戸の思う壺でっせ。
武の道を捨てたら、政も捨てなあきまへん」
「捨てたらええがな」
院は気楽そうに云われたが、実は断腸の思いでいられることを岩介は直感した。
「岩の云う通り、幕府の思う壺かもしれん。けど
幕府は学問・芸能の恐ろしさを全く知らへん。
そこが付け目や、今に見てみい。
朝廷が政も武も捨てた京都は、見るかげもなくさびれる思うとるかもしれんが
その逆になる筈や」
昂然と院はそう宣言された。
(花と火の帝~下~より)
この本で一番感動したところだ。
まさに後水尾院の「英断」だったように思う。
「おもう事なきだにやすくそむく世に あはれ捨て々もをしからぬ身を」