2012/03/26
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>請求書と御見積書
請求書と御見積書
anjin3
以前から時々思っていたのですが、今日、会社の請求書をPCで作っていて、どうも気になって仕方がありませんので、春さんのお考えを聞かせてください。
現在の所、見積りでは、表題は「見積書」と「御見積書」が並存していて、「御見積書」が多数だと思います。そして、文は、「下記の通り御見積り申し上げます」となっています。
一方、請求書では、御請求書などは見たことがありませんが、多くは「御請求申し上げます」になっていることに気がつきました。他所からの請求書だけでなく、当方の複写式請求書もそのように印刷されています。
慣用的に、こうなっているのでしょうか。丁寧語というよりは、自分の行為に対する事だと思うので、「見積書」「請求申し上げます」でよいと思うのですが、いかがでしょうか。
2005-12-14 01:54:45 返信フォームへ 掲示板へ戻る
Re:請求書と御見積書
haruniwa
以下の解説、日記本文にも転載させていただきました。ご笑読くださいませ。
まず、「御」「お」が、自分の行為であっても、相手に関わっている場合には、関わる相手への敬意を表わすために、美化、丁寧化されることが原則。
たとえば、自分が書いた手紙であっても、相手に差し出すものだから、「お手紙にて、失礼いたします」などと、「お」をつける。
「請求」や「見積もり」の場合も、自分が見積もりを出したり、請求したりするのだが、相手のために見積もったり、相手に請求するのだから、相手との関わり上、丁寧に言おうとする。
本文では、「御見積り申しあげます」「御請求申し上げます」になる。
表題の差は、漢語か和語かの違いによるのだろうと思う。「みつもり」は「見る」と「つもる」が合わさった「見積もる」という複合動詞が名詞化したもの。和語意識が残っている。一方、請求は漢字熟語である。
「みつもり」は、和語由来なので、「おみつもり」にして抵抗がなく、「おみつもり書」と、複合名詞にして書くことに違和感がない。
漢字熟語のなかで、「する」をつけて動詞として用いられる場合を「する動詞」という。「掃除→おそうじする」「洗濯→おせんたくする」「食事→おしょくじする」などのように、日常生活でよくつかわれ、特に女性語として用いられる場合は、「お」をつけて丁寧化される。「お電話する」
2005-12-14 23:39:04 ページのトップへ コメント削除
Re:請求書と御見積書
haruniwa
漢語意識が残っている場合は、丁寧化は「御(ご)」をつける。「ご家族」「ご無事」「ご住所」「ご職業」など「する」をつけられない名詞のみの語と、「する」をつけて、「動詞」としても使われる語がある。
相手が動作をする場合「ご心配なさる」「ご質問なさる」「ご希望なさる」「ご来店なさる」など。
自分がした動作が相手に向けられている場合「ご招待する」「ご伝言する」さらに丁寧にいおうとすると、近頃増殖著しい「させていただく」を使う。「ご協力させていただく」など。
「請求」も、「つぎの通り請求します」より、「つぎの通りご請求申し上げます」
動作を含む漢字熟語を名詞として使い、複合名詞を作る場合、「質問欄にご記入ください」「ご質問欄にご記入下さい」「利用者名は、下の欄にお書き下さい」「ご利用者名は、下の欄にお書きください」どちらが、しっくりくるか、人によって受け止め方がことなり、丁寧の「ご」をつけるかつけないか、厳密に決まっているわけではない。
表題を「請求書」とするか、「御請求書」とするか。グーグル検索では、請求書が1,990,000 件、御請求書358,000 件。
現在のところ、「御請求書」が少数派といっても、こののち、「御請求書」のほうが多数派になっていくであろうことは、推察できる。
丁寧さの意識は、どの語であっても使うにつれ磨り減ってしまうから、より過剰に丁寧な方向へ向かう。
和語系の「御見積書」に比べ、「御請求書」が、今のところ少数派であるとしても、これから増えていくのではないかと思います。
2005-12-14 23:39:28 ページのトップへ コメント削除
Re:請求書と御見積書
anjin3
毎度、ご教授ありがとうございます。この間の敬語の復習ですね。尊敬・丁寧・謙譲の大体の把握はできていると思っていましたが、日本語が分からなくなりました。時代変化と活用の幅が広がった、と解釈しましょう。
「ご笑納ください」などは日本語的だと思いますが、「御納品書」「御納品させていただきます」などになってゆくとついていけないようです。^^;
2005-12-15 18:54:48 ページのトップへ コメント削除
Re:請求書と御見積書
florentmy
横からお邪魔します。
今日仕事で、「ご迷惑をおかけします」。。。と言ってから、「ご迷惑」の「ご」に固まりました。
相手への敬意を表すといっても、自分がかけた迷惑を美化していいものでしょうか。。。
あ、この1行目、「お邪魔」の「お」もですよね。。。
なんかむしかえしちゃったようで、「お手数」おかけします。。。
2005-12-15 23:44:48 ページのトップへ コメント削除
Re:丁寧語美化語
ていねいな言語表現というのも時代によって変わってきます。
会話の中で、相手に関わると思われる語は、自分の行為自分の物でも「お」をつける。自分が書いた物でも相手に差し出すのであれば「お手紙」と書いてさしつかえない。
「お」は丁寧語という範疇よりもさらに「美化語」になっていて、飲食業界などでは、外来語にはつかないとされる「お」も、「おビール」「おジュース」と、どんどん「お」がくっついていく傾向にあります。
~~~~~~~~~~~~~~
「お越」と「お来し」
haruniwa
漢字表記にはゆれがあります。
慣用的な使い方、当て字などがあり、この「漢字表記のゆれ」については、春庭が「誤読みから慣用読みへ」というタイトルでテーマにしたことがありますので、そちらを参照いただければ幸いです。
http://www2.ocn.ne.jp/~haruniwa/nipponia0502.htm
「お越し」ではなくて、「お来し」ではないか、というご指摘、漢字表記に関心を持っていらっしゃること、とてもすばらしいですね。
結論から言ってしまうと、どちらの表記も可能です。
「今までたどってきた年月とこれからの先の年月」という意味で使われる「こしかたゆくすえ」も、「来し方」という本来の表記のほかに、もともとは当て字であった「越し方」という表記も辞書にでており、社会使用上は、両方とも許容されています。
「来し」は、カ段変格活用の「来」(こ、き、く、くる、くれ、こよ)の未然形「こ」に助動詞「し」がついたものです。
しかるに、ことばは常に誤用があり、ゆれ動くもの。
平安時代の女性文学、女流日記などには、すでに「こし」のかわりに、「きし」という誤用→慣用表現が現れています。
「お越し下さい」という場合も、「越す」の連用形名詞「越し」を丁寧にした「お越し」に「ください」がついたものと考えることもできるし、カ変動詞「く」の未然形「こ」に助動詞「し」がついたものに、丁寧の「お」が加わって、「お来しください」になった、と考えることもできます。
昨日2006/07/08の春庭コラムに、もともとは「嶮悪」という漢字表記だったのが、「剣幕」に変った、という例をあげました。
漢字表記に、その時代その時代の「正書法」「ただしいとされる読み方」はあるのですが、ことばが、年ごとに変化し、移り変わっていくように、漢字表記も、誤字誤読を経たり、慣用的な読みかたを経て、かわっていくのです。
「お越し」と「お来し」は、現在ではどちらの表記も可能となっている、という考え方でよろしいと思います。
2006-07-09 19:05:04 ページのトップへ
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>請求書と御見積書
請求書と御見積書
anjin3
以前から時々思っていたのですが、今日、会社の請求書をPCで作っていて、どうも気になって仕方がありませんので、春さんのお考えを聞かせてください。
現在の所、見積りでは、表題は「見積書」と「御見積書」が並存していて、「御見積書」が多数だと思います。そして、文は、「下記の通り御見積り申し上げます」となっています。
一方、請求書では、御請求書などは見たことがありませんが、多くは「御請求申し上げます」になっていることに気がつきました。他所からの請求書だけでなく、当方の複写式請求書もそのように印刷されています。
慣用的に、こうなっているのでしょうか。丁寧語というよりは、自分の行為に対する事だと思うので、「見積書」「請求申し上げます」でよいと思うのですが、いかがでしょうか。
2005-12-14 01:54:45 返信フォームへ 掲示板へ戻る
Re:請求書と御見積書
haruniwa
以下の解説、日記本文にも転載させていただきました。ご笑読くださいませ。
まず、「御」「お」が、自分の行為であっても、相手に関わっている場合には、関わる相手への敬意を表わすために、美化、丁寧化されることが原則。
たとえば、自分が書いた手紙であっても、相手に差し出すものだから、「お手紙にて、失礼いたします」などと、「お」をつける。
「請求」や「見積もり」の場合も、自分が見積もりを出したり、請求したりするのだが、相手のために見積もったり、相手に請求するのだから、相手との関わり上、丁寧に言おうとする。
本文では、「御見積り申しあげます」「御請求申し上げます」になる。
表題の差は、漢語か和語かの違いによるのだろうと思う。「みつもり」は「見る」と「つもる」が合わさった「見積もる」という複合動詞が名詞化したもの。和語意識が残っている。一方、請求は漢字熟語である。
「みつもり」は、和語由来なので、「おみつもり」にして抵抗がなく、「おみつもり書」と、複合名詞にして書くことに違和感がない。
漢字熟語のなかで、「する」をつけて動詞として用いられる場合を「する動詞」という。「掃除→おそうじする」「洗濯→おせんたくする」「食事→おしょくじする」などのように、日常生活でよくつかわれ、特に女性語として用いられる場合は、「お」をつけて丁寧化される。「お電話する」
2005-12-14 23:39:04 ページのトップへ コメント削除
Re:請求書と御見積書
haruniwa
漢語意識が残っている場合は、丁寧化は「御(ご)」をつける。「ご家族」「ご無事」「ご住所」「ご職業」など「する」をつけられない名詞のみの語と、「する」をつけて、「動詞」としても使われる語がある。
相手が動作をする場合「ご心配なさる」「ご質問なさる」「ご希望なさる」「ご来店なさる」など。
自分がした動作が相手に向けられている場合「ご招待する」「ご伝言する」さらに丁寧にいおうとすると、近頃増殖著しい「させていただく」を使う。「ご協力させていただく」など。
「請求」も、「つぎの通り請求します」より、「つぎの通りご請求申し上げます」
動作を含む漢字熟語を名詞として使い、複合名詞を作る場合、「質問欄にご記入ください」「ご質問欄にご記入下さい」「利用者名は、下の欄にお書き下さい」「ご利用者名は、下の欄にお書きください」どちらが、しっくりくるか、人によって受け止め方がことなり、丁寧の「ご」をつけるかつけないか、厳密に決まっているわけではない。
表題を「請求書」とするか、「御請求書」とするか。グーグル検索では、請求書が1,990,000 件、御請求書358,000 件。
現在のところ、「御請求書」が少数派といっても、こののち、「御請求書」のほうが多数派になっていくであろうことは、推察できる。
丁寧さの意識は、どの語であっても使うにつれ磨り減ってしまうから、より過剰に丁寧な方向へ向かう。
和語系の「御見積書」に比べ、「御請求書」が、今のところ少数派であるとしても、これから増えていくのではないかと思います。
2005-12-14 23:39:28 ページのトップへ コメント削除
Re:請求書と御見積書
anjin3
毎度、ご教授ありがとうございます。この間の敬語の復習ですね。尊敬・丁寧・謙譲の大体の把握はできていると思っていましたが、日本語が分からなくなりました。時代変化と活用の幅が広がった、と解釈しましょう。
「ご笑納ください」などは日本語的だと思いますが、「御納品書」「御納品させていただきます」などになってゆくとついていけないようです。^^;
2005-12-15 18:54:48 ページのトップへ コメント削除
Re:請求書と御見積書
florentmy
横からお邪魔します。
今日仕事で、「ご迷惑をおかけします」。。。と言ってから、「ご迷惑」の「ご」に固まりました。
相手への敬意を表すといっても、自分がかけた迷惑を美化していいものでしょうか。。。
あ、この1行目、「お邪魔」の「お」もですよね。。。
なんかむしかえしちゃったようで、「お手数」おかけします。。。
2005-12-15 23:44:48 ページのトップへ コメント削除
Re:丁寧語美化語
ていねいな言語表現というのも時代によって変わってきます。
会話の中で、相手に関わると思われる語は、自分の行為自分の物でも「お」をつける。自分が書いた物でも相手に差し出すのであれば「お手紙」と書いてさしつかえない。
「お」は丁寧語という範疇よりもさらに「美化語」になっていて、飲食業界などでは、外来語にはつかないとされる「お」も、「おビール」「おジュース」と、どんどん「お」がくっついていく傾向にあります。
~~~~~~~~~~~~~~
「お越」と「お来し」
haruniwa
漢字表記にはゆれがあります。
慣用的な使い方、当て字などがあり、この「漢字表記のゆれ」については、春庭が「誤読みから慣用読みへ」というタイトルでテーマにしたことがありますので、そちらを参照いただければ幸いです。
http://www2.ocn.ne.jp/~haruniwa/nipponia0502.htm
「お越し」ではなくて、「お来し」ではないか、というご指摘、漢字表記に関心を持っていらっしゃること、とてもすばらしいですね。
結論から言ってしまうと、どちらの表記も可能です。
「今までたどってきた年月とこれからの先の年月」という意味で使われる「こしかたゆくすえ」も、「来し方」という本来の表記のほかに、もともとは当て字であった「越し方」という表記も辞書にでており、社会使用上は、両方とも許容されています。
「来し」は、カ段変格活用の「来」(こ、き、く、くる、くれ、こよ)の未然形「こ」に助動詞「し」がついたものです。
しかるに、ことばは常に誤用があり、ゆれ動くもの。
平安時代の女性文学、女流日記などには、すでに「こし」のかわりに、「きし」という誤用→慣用表現が現れています。
「お越し下さい」という場合も、「越す」の連用形名詞「越し」を丁寧にした「お越し」に「ください」がついたものと考えることもできるし、カ変動詞「く」の未然形「こ」に助動詞「し」がついたものに、丁寧の「お」が加わって、「お来しください」になった、と考えることもできます。
昨日2006/07/08の春庭コラムに、もともとは「嶮悪」という漢字表記だったのが、「剣幕」に変った、という例をあげました。
漢字表記に、その時代その時代の「正書法」「ただしいとされる読み方」はあるのですが、ことばが、年ごとに変化し、移り変わっていくように、漢字表記も、誤字誤読を経たり、慣用的な読みかたを経て、かわっていくのです。
「お越し」と「お来し」は、現在ではどちらの表記も可能となっている、という考え方でよろしいと思います。
2006-07-09 19:05:04 ページのトップへ