日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

河内守國助の丁子乱刃

2024-05-15 | 
 河内守國助二代は、丁子乱刃を得意とした江戸時代前期の刀工。父初代は堀川國廣の門人國儔に学んだ鍛冶で、この二代目が丁子乱刃の名手と謳われた。活躍の場は大坂。
 國助の丁子乱の刃文構成は、小互の目が寄り合って拳状になるのが大きな特徴で、後の刀工にかなり影響を及ぼしている。

1 刀 河内守國助
 寛文頃の作だが反りが四分五厘ほどで姿バランスは悪くない。本作のような微塵に詰んだ地鉄が大坂地鉄とも呼ばれるもので、すっきりとして涼やかな印象がある。刃文はわずかに高低変化のある互の目に小丁子が複合したもので、小互の目丁子が二つ三つと寄り合っている。これに足が盛んに入る。殊に足は先端が左右に開くようなところがある。帽子は小丸返り。






2 刀 河内守國助  
 寸法が長い刀を磨り上げたもの。地鉄と刃文構成は①の作とほとんど同じ。




3 刀 河内守國助
 地鉄の様子は同じく綺麗に詰んだ小板目肌だが、刃文の構成が少し異なる。基本定な小互の目丁子は同じだが、丸みの強い小丁子が複数連続する。また、焼頭が閉じて刃中に玉刃が生じており、数珠っ玉のようにも見える。一部刃中の足も玉状に丸みを帯びるのも興味深いところ。もちろん全体に足が盛んに入るのだが、足先辺りに沸匂の砂流しが掛かる。総体に一際華やかな出来となっている。









福岡石堂鍛冶の丁子乱刃

2024-05-03 | 
江戸石堂派に次いで、福岡石堂を俯瞰してみたい。
是次は、一文字の末裔と伝え、江戸の是一に入門して備前一文字伝を学んだ。その従兄弟に当たるのが守次。この両者はいずれも技量が高く、丁子出来の刃文を焼いて名高い。
 是次は是一の弟子であって、近江国石堂からの移住者ではない。筑前国福岡に居住していたことから福岡石堂の呼称がある。石堂系の鍛冶ではあるが、作風にちょっとした違いが見出せるのが興味深いところだ。
 所々写真のデジタルデータがないので、押形イラストを参照していただきたい。

1 刀 筑州住福岡是次
 多くの作例を眺めてみると、確かに小丁子に互の目丁子を交えた一文字風の刃文構成を専らとしているのだが、総体に穏やかな観がある。例えばこの刃文は、袋状の互の目丁子に小丁子が交じり、わずかに尖刃が交じり、焼も極端に深くならず、やや逆がかった足が入る。本作では写真の方が、逆足の盛んに入っている様子が判りやすい。帽子は乱れ込まずに先小丸に返る。地鉄は小板目肌に柾目が組み合わされて肌起つ風があるも、総じて綺麗に詰み、映りはさほど顕著ではないが淡く立つ。






2 刀 筑前國福岡住是次 
 是次作中では比較的出入りが複雑で、しかも小丁子が押し合うような構成に袋丁子が配された、華やかな出来。焼頭も比較的高く、鎬筋を越える部分もある。袋状の焼頭が尖り調子となる(烏賊の頭の呼称がある)ところがあるのがこの工の特徴。丁子足は逆がかって盛んに入り、葉、飛足も働く。帽子はごく浅く湾れ込んで先が小丸に返る。地鉄は良く詰んだ柾目鍛えで、鎬地が肌起つ風はあるも、総じて綺麗で、鎬寄りに淡い映りが起つ。


3 脇差 筑前國福岡住是次
 連続する互の目丁子が、穏やかに波が寄せ来るような、抑揚のある構成とされている。やはり逆がかっており、小足が盛んに入る。地鉄は小板目肌に柾目が交じり、良く詰んで淡い映りが起つ。帽子は浅く乱れ込んで先小丸に返る。総体に逆がかっているため、焼頭が三角に尖って見えるのが特徴的。




4 刀 筑前國福岡住守次 
 是次に良く似た刃文構成。本作も、確かに丁子を伴っているも、逆がかった互の目丁子が主体。焼はさほど高くなく、あまり派手にはならない構成。逆がかっているため、互の目丁子の頭が削がれて三角(烏賊の頭)になる。小板目鍛えの地鉄は良く詰んで潤い、鎬寄りに映りが起つ。帽子は浅く乱れ込んで先端が小丸に返る。刃中に砂流しが掛かる。




5 脇差 筑前國福岡住守次
 小丁子の連続する刃文構成。焼頭が尖り調子であるのは、是次と同様に逆がかっているため。所々にやや深まった袋状の互の目丁子があるも、鎬筋を越えることはない。帽子は浅く乱れ込んで先が尖り調子に小丸に返る。地鉄は小板目鍛えの所々に柾肌が交じり、淡い映りが起つ。




6 脇差 筑前國福岡住守次 
 守次としては比較激しい出来。高低変化のある丁子が押し合うように焼かれ、丁子が処々寄り合って菊花のように見えるところもある。総体に逆足が長く射しているも、所によっては刃先に向かう。帽子は乱れ込んで先が丸く返る。地鉄は柾気が強く肌起ち、鎬寄りに映りが起つ。


7 刀 筑前國福岡住守次
 特に激しい刃文構成。焼が深く鎬筋を大きく超えるところもあり、処々棟焼を施している。大房で逆がかった丁子の連続で、焼頭が袋状に広がり、或いは小さな尖刃を伴って地に深く突き入り、或いは烏賊の頭のように三角となり、これに伴う小丁子はというと複式に焼かれて目立たず、刃中には足が盛んに入り、これを長い金線が切り裂くように走り掛かる。帽子は特に焼が深く乱れ込んで先小丸に返る。地鉄は柾気を交えた小板目鍛えに波紋を映したような映りが起つ。守次の中でも特に華やかな作品となっている。


江戸石堂派の諸工の作風とは自ずと異なる印象を読み取ってほしい。




武蔵大掾是一の丁子乱刃

2024-04-30 | 
 石堂派の丁子乱刃を俯瞰し、その魅力を再確認している。もちろん鎌倉時代の太刀は貴重だが、江戸時代の丁子出来も優れていることを理解してほしい。
 武蔵大掾是一は、近江國より江戸に出て活躍した、江戸石堂の中心をなす一人。


1 刀 武蔵大掾是一
 地鉄は柾気を交えた小板目鍛えで総体に良く詰み、微細な地沸が付き、焼刃に迫るように乱映りが鮮明に立つ極上の地相。刃文は互の目に丁子を交え、地に突き入るような互の目に小丁子が複合された袋丁子となり、総体にやや逆がかり、しかも出入りが高低変化に富んで華やか。小沸と匂の複合になる焼刃は明るく冴え、逆がかった小足の盛んに入る中に金線砂流しを伴う沸筋が流れ掛かる。帽子は湾れ込んで先が小丸にごくわずかに返る。
 是一の丁子刃には焼頭が揃い調子のものと、出入りが複雑なものとがあり、また小丁子主調のものや蛙子丁子、袋丁子とが複合されるものなど多様で、技量の高さが窺いとれよう。






2 脇差 是一
 総体に小模様の互の目丁子出来ながら、刀身下半に地に突き入るような袋丁子を焼いている作。小丁子は焼頭が揃い気味で、小足が盛んに入り、葉も交じって刃中は華やか。帽子は乱れ込んで沸付き、先掃き掛けて焼き詰め風にごく浅く返る。地鉄は柾気交じりの小板目鍛えで肌立ち、鎬地近くに刃文を映すような映りが鮮明に立つ。




3として袋丁子、蛙小丁子、小丁子などが押し合うように焼かれた作の押形イラストを紹介する。これも刃に迫るような映りが立ち、逆がかった長い足が盛んに射す。残念ながら写真のデジタルデータがない。







秦守久の華やかな丁子乱刃

2024-04-24 | 
秦守久(東連)

石堂派の丁子乱刃を俯瞰している。武州石堂派の秦守久は美濃から江戸に移住し、東連の号を用いた江戸前期慶安から寛文頃の刀工。互の目丁子出来の刃文を得意とした。時に重花丁子を焼いて一文字に迫った。
先に紹介した他にも作例を紹介する。ただし、遺されている刀は極めて少ない。

1 刀 武州住石堂秦守久
 地鉄は、鎬地が肌起つ柾目鍛えで、平地は小板目肌が良く詰み、淡い乱映りが起つ。匂に小沸を交えた刃文は、焼頭が鎬地を超えるほどに高い大振りの互の目丁子と小互の目、小丁子で、これらが不定形に焼かれており、帽子は浅く乱れ込んで先小丸ながら焼詰め風に棟に抜ける。焼頭がオタマジャクシのように丸みを帯び、小丁子はその合間に連続し、処々に尖刃を交える。飛焼も焼頭がちぎれたようにみられる。刃中には小足が入り、細い砂流しが流れ掛かる。研磨の状態から、この写真では判り難いだろう。押形イラストを参考にしてもらいたい。






2 刀 武州住秦守久
 総体に小板目鍛えながら、鎬地も肌起つことなく、微塵に詰んで地沸が付き、鎬寄りに断続的な乱映りが起つ。刃文は細やかにしかも不定形に乱れる小互の目丁子。帽子もそのまま乱れ込んで、先は小丸風ながら乱れの調子が続き、わずかに返る。焼は鎬筋を越えることはないが、比較的深めの互の目で、焼頭は丸みを帯びたり尖刃を伴うなど、この工の特徴が顕著。刃中には逆がかった小足が盛んに入り、処々に砂流しが掛かる。これも研磨の関係上写真は余り参考にならない。イラストの方が、刃文の特質が理解できる。




 いずれも刃文だけをみれば一文字と間違えるだろうが、地鉄が、江戸時代の大きな特質でもある鎬地が柾目鍛え、平地が小板目鍛え主調となる。時代観は定まるだろう。だが、映りの様子や刃文の複雑さ、単調にならない点などは古作に紛れるみどころと言い得る、しかも、一文字に比較して、明らかに洗練味があるところが魅力の一つで、江戸時代の作品の良い点と考えていいだろう。









日置光平と常光 江戸時代の華やかな丁子乱刃を俯瞰している

2024-04-19 | 
日置光平

石堂派の作風を紹介している。先に紹介した常光の兄とも近縁の工とも考えられているのが光平。光平には刀の遺例が少ない。一説には無銘にされて古作に紛れさせたとか。それほどに、古作に紛れるような丁子出来の刃文が優れていたということである。

1 脇差 出羽守源光平
 小沸を交えた匂出来の刃文は、焼頭が高低変化に富む小丁子の連続だが、焼頭が地に突き入るような尖り調子となる傾向が強い。焼頭がやや丸みを帯びて袋状となる刃を交え、刃中には鋭い足が盛んに射す。帽子は乱れ込んで先が小丸に返る。
地鉄は小板目肌が良く詰んだ中にうっすらと板目肌が浮かび上がる上質な肌合い。映り(写真には映らない)は穏やかに自然に起ち、この流派の特質が鮮明となっている。






2 脇差 秦信法橋源光平
 こちらも尖り調子の小丁子を主体とするが、地に深く突き入る丁子が丸みを帯びた袋丁子となり、袋の中には小丁子が複式に配され、焼きの高さは時に鎬筋を越えるところもある。また、焼頭が離れて飛焼となる。小丁子が寄り合って鋭い小足が盛んに入り、高低広狭の変化が特に強く感じられる。鎬地は柾目肌で肌立ち、平地は小板目鍛えにうっすらと板目肌が交じる程度の極上の肌合いで、丁子状の映りが鮮明に現れている。帽子はわずかに乱れ込んで先が焼詰め風となっているのは珍しい。写真のデジタルデータがないので写真を提示できない。押形イラストで細部の様子を確認してほしい。


ここに押形刃文イラストを紹介した以外の作品も、多くは押し合うように密な小丁子の連続になる刃文で、その高低変化のある中に突き入る丁子の頭も複式に小丁子が焼かれたり、尖り調子となるものが多い。鋭い足が盛んに入るのも特徴と言えよう。



対馬守常光

対馬守常光は江戸時代前期の慶安から元禄(最晩年)頃の江戸の刀工。
 いくつかの作例を紹介するが、先に紹介した一例のように、一文字を手本にしながらも、直刃調の穏やかな作風から丁子の出入りが複雑で華やかな出来まで多彩である点をまず心にとどめておきたい。
 今回は写真のデジタルデータが少ないのでこの点はご容赦願いたい。


 脇差 橘常光
 比較的穏やかな出来ながら、互の目の焼頭が丸みを帯びて地に突き入るようなところがあり、また焼頭に尖刃がわずかに交じる。刃中には小足が入り、焼刃は匂口が締まって明るい。帽子は浅い湾れ調子となり、先端は小丸に返る。地鉄は平地が小板目鍛え、鎬地が柾目鍛えで肌起つ風があり、イラストには描かれていないものの乱映りが起ってこの工らしい出来。受領前の作とみられている。古い資料のため写真のデジタルデータがない。押形イラストを参照願いたい。写真よりむしろ細部の働きが理解できるかと思う。



 刀 対馬守橘常光
 焼幅が比較的低いながらも小丁子の頭に多彩な形状が窺える作。地鉄は細やかに詰んだ小板目肌。地沸が微塵に付き、これもイラストには描かれていないものの刃文を映したような映りが鮮明に起つ。小互の目丁子の焼頭は丸みを帯びた刃、尖刃、矢筈状の刃、雁股状の刃となる。帽子は穏やかに乱れ込んで先わずかに掃き掛けて浅く返る。



脇差 対馬入道常光
 延宝八年、五十代中頃の作。まず地鉄は、鎬地が柾目鍛えで肌立ち、平地が良く詰んだ小板目肌。地沸が付いて鎬寄りに乱映りが鮮明に起つ。小丁子乱の刃文は、焼頭が高低躍動的に変化をしながらも、鎬筋までは達せず、丸みのある丁子に頭の尖った丁子が交じり、複式に焼かれた丁子に伴い、盛んに入る小足も長短変化に富む。焼刃は匂を主調にわずかに小沸がつく。帽子は焼刃の調子のまま小模様に乱れ込み、先端は小丸に返る。



脇差 対馬掾橘常光
 逆がかる小丁子乱の刃文構成。地鉄は小杢を交えた小板目鍛えで、古風に肌起ち、地沸が付いて刃文を映したような丁子映りが鮮明に起つ。互の目の頭が小模様ながら地に突き入る風はこの工の特徴。殊に、押し合うように焼かれた小模様の丁子の所々に焼の深い部分が交じっているところ、小丁子に尖刃が交じる点も大きな見どころ。総じて匂主調の鮮やかな焼刃で、長短の足も無数に射して刃中は華やか。帽子は一転して端正な焼刃となるも、先端は焼詰め風にごくわずかに返る程度。
 とある解説書に一文字と常光(常光個人ではなく石堂派という意味であろう)の見分けどころの一つとして、「・・・(一文字の作に比較して)帽子に品位が足りないことなどで・・・」と、意味不明な説明がある。近代の先生方は、複数の作品を比較説明するにあたって「品位が足りない、◯◯に劣る」などのような言葉を安易に使っている。ばかげた説明であることは容易に判るだろう。そもそも、刀の評価をランク付けしなければならなかった江戸時代の悪弊なんだ。そんな説明を鵜呑みにせず、本質に目を向けてほしい。


5として、参考に重花風の複雑な丁子出来の刃文押形イラストを示しておく。