思考の踏み込み

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形影神31

2014-10-10 07:34:20 | 
"影" が口を開く。

「根元とか、本質とかまで辿ればそこに区別はないだろう。
彼ら魂魄も、性の力も、感情達も。

…しかしそれは淵明殿の言われた "力" の変形でしかない。言葉の表現を限定させて正確にする事も悪くはないが、"言葉" にそれをやらせれば "言葉" は矮小化してゆくだけだろう。」





肚。

「たしかにそうかもしれませんな。」

影。

「要するに、それらの "力" の中でも性の力は支配力が圧倒的に強いのだ。
それほどにしなければ、形を繋ぐという事は容易な事でないという証だろう。

ところが、それほどの性の力でさえ、我らにとっては主体ではないということだ。
そして我々の中にはそれに気づくことの出来る能力までご丁寧に備わっている。
それが乖離性の問題であり、性の問題の本質だろう。」

「おっしゃる通りですな。」

この辺りまでくると、さすがの肚も言葉で説明する事に困難さを感じていたのか、影の発言を喜び、そのまま続きを促す仕草をした。
影は小さく頷き、ゆっくりと一息吸い込んでから ー 、 呼気と共に語り始めた。


「生業の問題とても同じだろうよ。
"性" が形を繋ぐ為に必要な行為とすれば、"生業" は形を維持させる為に必要な行為。
ところが我々の主体たる魂魄にはどうしても嫌いな事がある。」

「それは?」

意識が影に聞いた。




「それは汚れること。

…それとその存在の自主性を侵害されること。」


ー 自由とか尊厳とか、権利なんてものは彼らの本能だろう。
意識や理性や知性の生み出したモノではない。
それを言語化して法制化までした人々はよくやったといってやって良いだろう。

だがそんなものはそんな言葉ができる遥かな昔から存在していた。

それは "生業" を確立させて "形" の自主性を獲得していない様な者たちでさえ ー 例えば ー まだ口も聞けない赤子だろうが、寝たきりの病人だろうが、痴呆の老人だろうと、それは厳然と備わっている。
犯罪者も、社会不適合者でさえもそれは変らない。
それを侵される事を嫌う。
また何人もそれを侵し得ない。





そして汚れの問題だ。
生業の問題ばかりは生易しくはない。
汚れる事を避けられない時も珍しくはない。止むを得ないこともいくらでもある。
それでも彼らはそれを嫌う。
我々もまた、その感覚を共有する。
結局のところ…。

"影" はそこまで言って口をつぐんだ。
言語化するという事の難しさを影も感じ始めている。
皆、次の発言を待った。
暫く時を置いて影は一気に語った。



「我々は彼らと同体であり、彼らは我々である。"我ら" は一つである。
彼らの主体性を忘れ、彼らの望まぬ事をすれば、全てそれは我々に帰ってくる。だがしかし。
それは違うよ…。間違ったとき、彼らはちゃんとそう教えてくれる。
それを "乖離" と呼ぶことはだから間違っている。
乖離ではなくて、回帰なんだ。
本来の状態に回帰させてくれる彼らがくれた恩恵だ。
それは対立するべきものではない。
どちらも必要な事であり、どちらもここにいる全てのモノ達にとって欠かせないことだ。
我々はどうすべきか、どこに向かえばよいのか、全てはその "調和" にこそ答えがある…。」