思考の踏み込み

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形影神27

2014-10-06 05:56:50 | 
「ところで我が主よ、貴方は "この世" に生を受けて幾年になられる?」

そう言って肚は "形" に問いかけた。
主とは言っているが、実際に言葉程には従属の関係にある様には見えない。
むしろ "形" の方が "肚" に敬意を表している様に見えることさえある。



「さあ?何年だろうか?あまり気にした事はない。そういう事は "意識" 達が詳しいよ。」

「まあ年数は良いでしょう。
では、これまでのともかくも数十年の間に、"試練" にどれくらい出くわされたか?」

「試練?」

「左様。つまり "形" としての存続の危機、もしくは貴方と一心同体たる "心" に訪れた困難…。」

「…どうだろうか。はっきり覚えておるには及ばぬが、間違いなく何度もそういう事はあったー 。」

形は心と顔を見合わせながら、答えた。
肚は頷きながら、今度は "意識" に問いを発する。

「人の未来は全て "潜在意識" で思った通りに進んでゆく。 ー という言葉があるが、それを君はどう考えるかね?意識君。」

「…我が母の、力とその影響力は余りにも大きく、私程度では計り知れませぬ。しかし、その偉大な力を持ってすれば、あるいはそういう事も事実かもしれない…。」



「宜しい。では仮にそうだとして話をを進める。つまり、人が無意識の次元で思った通りに、その人生を歩んでいるのだとすればだ、何故にして人には試練などというものが訪れるのか、ということだ。」

「…。」

「試練とは先程も申した様に、形と心にとっては危機である。思った通りにそれが訪れるという事は、それを我らは無意識に必要としている、という事になる。」

「…。」

「そして一生涯平穏無事で、心身安らかに過ごせる者など居はしない。必ず何度かは試練にぶつかる。
繰り返すがそれは我らにとっては危機である。もし我々の本能が、その "カタチ" の安定や維持や発展に限っているとするならば、これは矛盾した現象ではないだろうか?」

「……。」

「だが、カタチが危機に出くわすとき、我々の中でそれを乗り越えようとする "力" が発揮される。
その力は生命力を高い次元で発露させ、我々の精神すら鍛え上げる。
だとすればだ…。」

「だとすれば…我々が時に向き合わされる試練とは…生命力の発揮の為に、我々自らが望んで招きよせている事象だとでも言うのですか?」

「そうだ!」



知性の脇から理性が久々に発言した。その内容に対して肚はひどく断定的に答えた。

「だが問題は、我々の中のどの部分がそれを要求しているのか、という事なのだ。」

誰もが顔を見合わせあって首をかしげた。
誰もそんな心当たりなどなかった。

だが、"直感" だけはある方向を見つめている。
それはその輪のやや外側、そう、魂と魄のいる場所だった。
そこからは相変わらず美しい琴の音が鳴り続けている…。