読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

斎藤美奈子「男性誌探訪」

2007-11-07 21:58:47 | 本の感想
 今、図書館で借りて読んでいる本は、斎藤美奈子さんがAERA誌上で連載したコラム(2000年)をまとめた本「男性誌探訪」だ。この本が出た時に新聞の書評に載ったので読もうと思ってメモしていていたのにそのままになっていた。それが図書館の普段は行かない000番台の棚の前にたまたま行ったら目に入ったのだ。ヤッタ!みつけた!私は斎藤美奈子さんの評論が大好きだ。「こんなこと書いちゃって大丈夫なの?」とちょっと心配になるほど斬新な分析と小気味のよい毒舌、それにあのわかりやすい文章。「買って損した」気分になる本は一冊もない。
 この本も実にわかりやすくおもしろい。女性誌がすでに確立された伝統のある様式を持っており、いわば開発の進んだ雑誌界の「先進国」であるのに対して、男性誌はまだまだ探索の余地のある「秘境」なんだと。そこでそれを最初におおまかに3タイプにわけてある。
(A)名実一致型
 最初から男性読者に対象をしぼり、結果的にも男性読者が大部分をしめていると思われる雑誌
 例/メンズファッション誌、紳士用エロ雑誌など。
(B)やもめサークル型
 とりたてて「男性用」の看板を出しているわけではないが、取り扱い領域の人口がたまたま男性に偏っていたために、結果的に男性読者が大部分をしめてしまったと思われる雑誌。
 例/釣り雑誌、鉄道マニア雑誌など。
(C)女性読者排除型
 同じくとりたてて「男性用」の看板を出しているわけではないが、女性に嫌われそうな匂いをふりまくことで、実質的に女性読者をしめだしていると思われる雑誌。
 例/ある種の月刊誌、週刊誌など。


なーるほど、週刊ナントカと名のつくもろもろの週刊誌を読むとなんだかイヤーな気持ちになるのはわざと女性に嫌われそうな匂いを振りまいていたのかー。その代表が「週刊ポスト」
 
一冊の中に同居する知的パパとエロオヤジ
 「週刊ポスト」は七つの顔を持つ雑誌である。
 ①飛行機会社の機内誌リストから外されるヘアヌード掲載誌。②「過激な性表現」が新聞社の広告コードに抵触し、表現を変えさせられるエッチ掲載誌。ここだけ見れば、「ポスト」はほとんど妄想が肥大したエロオヤジ雑誌である。
 だが、「ポスト」の実態はそれだけではない。③週刊誌らしく政治経済ネタに目配りするのはもちろん、④大相撲の八百長や首相の金脈をスッパ抜くような社会派であり、⑤週刊誌界きってのマイホームパパであり、同時に⑥ホワイトカラーの大卒サラリーマンを意識したインテリ雑誌だったりもするのである。

 微笑ましい家族サービス情報と悩ましいヘアヌード写真、知的な書籍情報を妄想全開のエッチ記事とが共存しているのが、ひとまず「ポスト」の特徴なのだ。支離滅裂というよりも、これは本音と建前、表と裏、オンとオフが呉越同舟した状態と考えるべきだろう。

おお、なんとわかりやすい!それにしても、こういう複雑なスタンスの雑誌がよく読めますなあ、みなさん。
 最近ちょっとカチンとくる広告を出していたのは「プレジデント」だった。
 「プレジデント」2007年バックナンバー
 「学歴格差」に「給料格差」「金持ち家族・貧乏家族」金金金ですよ。おまけに昨年創刊されたらしい「プレジデントファミリー」では「お金に困らない子の育て方」。格差不安をあおって、「うちの子だけは勝ち組に」という親の欲に付け込んだなりふりかまわない商売根性。そら、「ゆとり教育」なんてお上がいくら掛声かけてもだれが支持しますかって。「男性誌探訪」では・・・
 
 力、力、力で押す。私ごときにいわれたかないだろうけど、こういうノリって懐かしいかも。今日よりも明日がよくなると信じればこそみなぎる力。頑張れば必ず報われると思えばこそのパワー。「24時間戦えますか」だったころの前のめりな雰囲気を思い出す。いまの会社って、こういう風じゃないじゃないですか。世の中デフレスパイラルとかいってんのに。
 ああそうか。みんながイケイケだったころ、「プレジデント」は戦国時代だったのか。それでいま、やっと近代に突入したってことなのか。

ふふふ、で、今は現代の入りかけってとこですか?ストレス多いねえ。会社だけでもストレスだらけだろうに、子供の将来まで「イケイケどんどん」のノリでハッパをかけられちゃ、たまったもんじゃありません。
 
二倍二倍の前のめり人生の裏にひそむ人生哀歌。勃起薬が売れるわけだわ。


 もう、どれもこれもおもしろい分析で全部引用したくなっちゃうんだけど、これなんかもすごく思い当たる。「週刊新潮」
 
 「週刊新潮」のグラビアは一種独特だ。同じ出版社系列の週刊誌「週刊ポスト」「週刊現代」がヘアヌードなんかにまだ商品価値があると思いこんでいるのに対し、「週刊新潮」が考える「絵になる女=女の商品価値」は別のところにある。

どう独特なのかは中略
 
 こういう視線のあり方を俗に「小姑根性」という。「週刊新潮」がどちらかといえば高年齢の男性に支持されているのは、こういう小姑根性的執拗さ、底意地の悪さゆえだろう。小姑根性がいちばん発達しているのは、ほんとは「男の老人」じゃないかという気が私はするのである。晩年の谷崎潤一郎とか川端康成とかを思い出せばわかるでしょ。

 おお、そうだったのか。あの朝日新聞の記者がどうしたこうしたという針小棒大のイヤミな記事は、ニュース性というより小姑根性から書かずにはいられなかったのだな。私は、一体いつから新聞記者がタレント並に騒がれるようになったのかと首をかしげていた。例の『ヒゲの殿下発言批判の朝日論説委員は「とうふ屋」になる』なんて記事には「それがどうした!」と非常に不愉快になった。こういう底意地の悪い詮索にさらされるんだから論説委員もたいへんだと同情してしまいます。ただ、バルセロナで豆腐を作ろうが作るまいが別にかまわないけど「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」みたいのだけは絶対やめた方がいいと思うな。あれは不味いです。

 読んで気持ちが悪いのは「週刊ポスト」も「週刊新潮」も「週刊文春」も大差はないが、最近間違えて買ってしまって、とびきり気持ち悪かったのは「週刊SPA!」だ。何に間違えてしまったかは秘密だけど。気持ち悪いのもそのはず、分析の見出しは、
二〇代サラリーマンの自虐と憂鬱
仕事はダメ 女は怖い
 その昔流行った古い言葉を私は思い出してしまったよ。まず「三無主義」。無気力・無関心・無感動。無責任を加えて四無主義。無作法を加えて五無主義ともいった。何を語っても何をやらせても、ドヨ~ンとしてんの。あと「3D」。「だって・でも・どうせ」が口癖の人たちのこと。不満の多いOLあたりを揶揄する言葉だったが、これもいまや若い男性の専売特許になったのか。だめ押しで、もうひとつつけ加えれば「でも・しか」ね。「でもしか教師」なんていうつかい方をする。「これでもまーいっか」「これしかやることねーし」な感じ。
 自信もなければ覇気もなく、かといて開き直れるわけでもない。不安がいっぱいの彼らの心情は、第一特集のタイトルにも如実にあらわれている。

 日本経済はもうダメだしー、どうせオイラは偏差値低い大学しか出てねーし、就職してもいいことねーし・・・・・・。若者系の雑誌に不可欠な「女の子問題」関連の特集も同様である。
<「入籍拒否オンナ」の超つれない本音>
<女たちの「H猛特訓」迷走白書>
<勃発!「浮気ウォーズ2001」>
<男30歳/このまま結婚できなかったらど~なる>
<「モテる/モテない男」の残酷的最新基準>

ギャー!これ、ほとんど2ちゃんねるの独身男性板でっせ。
それで独特の臭気があったのだな。くわばら、くわばら。

 私は普段はあまり雑誌を買わない。今はたまに文芸誌を気まぐれに買うだけだ。でもずっと以前は12月になると「主婦の友」か「すてきな奥さん」を買っていた。12月号にはふろくとして家計簿がついているからだ。家計簿だけじゃない。カレンダーだとか園芸手帳だとか「奥様便利帳 家事の裏ワザBOOK」なんてのもついていたりしてお得なのだ。
 ところが、あれは1999年の12月だった。書店でいつものように家計簿付きの「主婦の友」を買って帰って来て、何気なく記事を読んでびっくりした。
「失業、転職、借金、病気・・・・・・(お金の苦労物語)」
「低金利、ボーナス減に『勝つ』知恵で 一円でもふやす!貯める!得する!」
「おかずなしでもOK 食費減にも役立つ あつあつ簡単スープ 具だくさん汁 100円 50円 30円」
 な、なんじゃー、これは!一年ぶりに買った雑誌はお金と節約の話ばかりだった。ためしに一年前の「主婦の友」を引っ張り出して読んでみたが、「クリスマスのお部屋のコーディネート」だの「大掃除お助けテク」だの「お正月の生け花」だの、要するに普通の主婦雑誌だ。この変化は何で?と納得いかなかったのでもう一度書店に行き、今度は「すてきな奥さん」を買ってきた。なんと同じだった。瓜二つの「お金の苦労物語」。いったい、私が一年間ぼーっとしていた間に、世間では何が起こっていたのか?ものすごく不安になった。
 友人が来たときにその2冊の雑誌を見せ、これ、どう思う?と聞いてみた。「夫の失業」「借金地獄」「無理なローン」「ストレスからないしょの高額商品購入」いろんな崖っぷち家族が写真入りで家計の収支を全公開している記事だ。「ふーん、よくある話じゃないの。この家は、あと1年して子供が保育園に入ったら奥さんパートに出てなんとかぎりぎりセーフ。この家はちょっときついね。年収400万切っているのに3800万の家建てて正気かね。しかもゆとり返済。ご主人自営業だし。今でも普通じゃないくらい節約してるのに、これ以上逆さまにしてもお金は出てこない。そのうち行き詰って家売るね。で、この人はもうダメね。早いとこ自己破産しなきゃ。」そ、そんな当たり前みたいに・・・。世は不況の真っただ中だった。
 これは師走だからそういう世知辛い記事が出たのかと思っていたら、「反響が大きかったので第二弾、第三弾をやります。」といってその後もずーっと、その類の貧乏特集をやりだした。なんてこった。私はそれ以後主婦の雑誌を買うのをやめてしまった。家計簿もつけなくなった。その代わり「週刊エコノミスト」だの「日経ビジネス」だの「日経マネー」だの「サンキュ!」だのを時々買うようになった。世の中がどう変わってしまったのか知っとかなきゃいけないと思ったからだ。無理をして日経新聞を購読し始めたのもその頃からだった。ともかく経済に明るくならないとこれからは生きていけないのだと不安に駆られたからだった。それから8年。
 私はちっとも賢くなってはいないし、失敗ばかりだった。日経新聞もこの間やめてしまった。今日、「主婦の友」「すてきな奥さん」を見ると、ガツガツした緊迫感がなくなって、もとのポワンとした雰囲気がもどっているようなのでちょっと安心した。