読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

「多文化共生」以前の現状

2008-12-10 00:56:30 | 時事
 日曜日、福山市主催の世界人権宣言60周年記念「2008ふくやま人権・平和フェスタ」に行って来た。PTAの専門委員会会報のネタにするためだ。
 午前中は6分科会に分かれて報告とディスカッションがあって、私は先日PTAの講演会に来て頂いた講師の先生がおられる「外国籍市民」の分科会に出席した。

 地元FMラジオ局で今年から始まった多言語放送で、ポルトガル語の番組を担当している日系ブラジル人通訳の女性と、英語及びタガログ語の番組担当の女性英語教師のがそれぞれ日系ブラジル人労働者、国際結婚したフィリピン人女性の抱える問題について話をされた。それから去年NHKの特集番組で取り上げられた中国人研修生の相談を受けてトラブル解決に尽力をしている地元労組「ユニオンたんぽぽ」の書記長から、外国人研修生の労働実態や相談に乗った事例について詳しい報告もあった。

 日系ブラジル人労働者の現状

 この1、2か月、大量解雇のニュースが続々と報じられてあきれて物も言えないが、日系ブラジル人の置かれている状況はもっとひどいそうだ。国に帰りたくとも、今飛行機が3月末まで満席で取れない。3月まで住む家も収入もない。カトリック教会に駆け込んだり橋の下にビニールシートを張って寝泊まりしたりしている人もいるという。帰れる人はまだいいが、一生家族と日本に住むつもりだった人もいる。必死に仕事を探しているが、今は日本人でさえ仕事がないのに言葉もおぼつかない日系人はなおさらだ。「まさか、日本がこんな状態になるなんて夢にも思わなかった」と呆然としているという。まったく、日本人だって呆然としてるんだからそりゃあそうだ。

 今の状況はもう非常事態だと思う。災害とおなじだ。だから自治体も民間ボランティア団体も宗教団体も協力して、炊き出しや宿泊の世話などホームレス状態の人のサポートをしなくちゃいけないと思う。とにかく経済状況が回復するまで、みんなで死なないように助け合わなくてはだめだ。自分に何ができるかを考えていて、とりあえず地元のカトリック教会がそのようなホームレス対策をしているようだから行ってみようと思った。

 国際結婚したフィリピン人女性の現状

 日本人と結婚したフィリピン人女性のサポートをしている方からは、彼女たちの抱えるさまざまな問題について話があった。

 フィリピンから来日する女性はほとんどがエンターテイナービザだそうだ。ダンサーとして来日するのだが、実質的にはホステスなど水商売に従事させられる。嫌だと思っても家族に送金しなくてはいけないので何でもしなくてはいけない。店で知り合った男性と結婚するが、ほとんどの男性は「情けない男」。文化や生活習慣の違いをわかろうとしないで「フィリピンは貧乏で危険汚い劣った国」という先入観で決めつける。言葉がうまくしゃべれないのをバカにして暴力をふるう。親兄弟にも結婚したことを内緒にしている人がいる。姑が亡くなったと聞いてどうしてもお葬式に出たいと思い、こっそり行って大変なことになった人がいた。
 子供の教育も困難で、母親が文字や言葉を教えることができないので小学校段階からついていけない。このような子供にはマンツーマンで時間をかけて教えることが必要なのだが、今先生たちはとても忙しく、そういう時間がとれない。生活習慣や伝統の違いから地域社会でも家庭が孤立している。やはりここにも偏見がある。
 彼女らの側にも問題がある。子供が生まれたら洗礼を受けさせたい、女の子にはピアスをしてやりたい。だけどそれは日本社会では受け入れられないのだと言ってもなかなか理解しない。教育の大切さがわからない。高校を卒業したらそれでもういいと言う。保険や年金のことも勉強しようとしない。結婚しても国の家族を養うために働いて送金するのを当然と思っているので夫とトラブルになる。離婚率が高い。離婚しても養育能力がないと主張されて子供を引き取ることができない。日本人と結婚するとビザの更新期間が半年から1年になり、子供が生まれると3年になるのだが、離婚して子供を手放したら帰国しなくてはならない。帰りたくないので再婚を急ぐが、また同じような「情けない男」と結婚してしまって同じようにDV被害に遭う。
 日本の制度の問題もたくさんある。たとえば運転免許。免許を取りたくてもなかなか取れない。国際免許の試験は英語と日本語しかない。英語が苦手な人も多い。日本語が読めても試験の引っかけ問題のような複雑な文章は全然だめ。27回受験して落ち続けている人もいる。日本社会はとても閉鎖的だ。
 「もっと地域に出て地域の人たちと付き合いなさい」とアドバイスをしている。「ひどい人もいるけど10人に1人くらいはやさしい人がいるからそういう人と付き合って認めてもらいなさい」と言っている。


 とてもシビアな報告で、腹が立ったのは、日本人女性にモテないからといって安易にフィリピン人女性と結婚して責任を果たさないダメ男のことだ。県北の農家なんかに国際結婚が多いと聞く。嫁は無給で黙々と働いて子供さえ産めばいいと思っている。「貧乏な国から来たんだからどういう扱いをしても文句を言わないだろう」と偏見を持ってひどい扱いをしたりする。威張りくさって暴力をふるうなんて最低だ。雇用だけでなく、結婚に関しても外国人労働者が下支えして日本を救済していてくれたのかと思った。
 
中国人研修・実習生の実情

 ユニオンたんぽぽは3年前に発足したばかりの労組だ。それが去年の4月に突然中国人研修生の相談を受け、それ以後怒涛のように相談が相次いで今月までに70件。最近少し落ち着いてきたそうだ。今手がけているのは今治のタオル工場。あまりの待遇の悪さと賃金未払いのため研修生が逃げ出した。未払い賃金の請求交渉をしているが会社が倒産し、多額の借金もあるので回収が難しいという。

 中国人研修生の問題についてはこのサイトにピックアップしてあるし、ユニオンたんぽぽの扱った件もネット上に載ってた。
『日本の事件から浮かび上がる中国人研修生問題』
「莫 邦富の中国ビジネス指南」(2008年7月7日)より

 話を聞いて思ったのは、研修生制度というものが欺瞞に満ちていてすでに破綻しているのじゃないかということだ。国際貢献とか技術指導とかそういう名目とはまったくかけ離れたものになってしまっている。そしてこの地域でもそうなのだが、すでに中国人研修生の労働力に依存しなくては経営が成り立たない中小企業がたくさんあるのだから研修生などという偽りの制度は廃止して、きちんと労働条件を保護した上で受け入れを認めるべきだ。

 「ひどい低賃金と長時間労働。残業が月250時間という事例もあった。過労死のラインが80時間だ。就業時間中トイレに立つことも許されない。トイレ一回罰金1万円を取っていた会社もあった。寮は狭い部屋に二段ベッドというタコ部屋状態。給料は月平均6万で衣食住は面倒をみることになっているが十分ではない。食費は一日500円支給という質素さ。研修制度では一年目は残業してはいけないことになっているが暗黙の了解でほとんどの受け入れ先が残業させている。二年目以降は技能実習生として法定賃金の時給を受け取ることになっているがほとんどはそれ以下。造船や鉄鋼など3Kの仕事でも時給600円くらい。過酷な労働状況でも文句が言えない。中国を出る時に送り先機関と契約書を交わし「受け入れ先の社長のいうことには絶対服従」「携帯、パソコン、電話など外部との連絡の禁止」「恋愛禁止」などと書かれたものにサインをして来ているからだ。「儲かる」と中国人ブローカーにだまされて実情をよく知らずに来た人や多額の仲介料を払った人もいる。」

 最近の若い中国人はみんな携帯もネットも自由に使って情報収集をする。携帯でこっそり録画された動画を見た。狭い寮の部屋で畳に寝そべってテレビを見ている男性。ミニスカートをはいた二人の女性が男性の足の上をふみふみマッサージしている映像。何人かの女性が携帯が見えないように立っていてその影から隠し撮りをしている様子。緊張した静けさの中でテレビの声とだらけ切った男性の姿だけが異様だ。
 これは県北の縫製会社の事例で、労働条件とセクハラのひどさに耐えかねて研修生が訴えてきたものだ。社長は賃金不払いは認めたが、映像があるにもかかわらずとうとうセクハラに対しては一切謝罪しなかったそうだ。
 最初、研修生たちは地元の警察に駆け込んだのだが、そこの署長は社長の友人だったので相手にしてもらえなかったそうだ。社長は地元の名士で青年会議所の会長などもやっていて、休日に友人を連れて飲みに行くときには研修生をホステス代わりに使っていた。(休みの日なのに接待!)そして研修生にパンツを下ろさせたりセクハラし放題。でも「親交を深めるために善意で飲みにつれて行ってやっていた」と主張しているそうだ。警察も仲間なんだからそらーとりあってもらえるはずがない。休みの日には寮にしけこんでマッサージなどの奉仕をさせる。上記の映像もゴルフに行って帰って疲れたからマッサージしてもらいに来たそうな。
 彼女たちは、それから労働基準監督署にも行ったが地元ではらちがあかないのでとうとう広島に出て行ってNHKに駆け込んだ。そうしたら、たまたま例の番組を作ったプロデューサーがいてユニオンに取り次いでくれたということだった。「地元では名士でいいお父さん、いいおじさんなのに外国人に対しては平気で差別的な扱いをする」と書記長が言っていたがまったく日本人として恥ずかしいと思った。

 自民党も経団連も、それから「移民立国」とか言っている人たちも、こういう現状をまずなんとかしてから移民の受け入れを決めてくれよと思う。