院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

タイガーマスク現象

2011-07-06 11:11:14 | Weblog
 案の定タイガーマスク現象は、いっときの線香花火のように終わってしまった。養護施設のランドセルは実は足りていたという話もあった。

 養護施設の子は、学校に入るときよりも出てからのほうが大変だ、とは東京の某私大教授・畏友T君の弁である。T君は日本でもっとも優秀な児童精神科医の一人だと私は思っている。

 T君の話では、養護施設の子が中学を卒業した後、次のような困難があるという。

(1)我が国の高校進学率は1974年に90%を超えたけれども、養護児童の高校進学率は1991年の統計でもなお65.7%に留まっている(うち定時制11.1%)。

(2)一般家庭の中卒就職者の一年間の離職率は38.9%であるのに対して、養護施設出身者の中卒就職者のそれは8ヵ月で51%である(1984年)。

 若いうちの転身がいちがいに悪いとは言えないがと前置きした上で、これらの数字は養護児童の青年期が一般家庭の子どものそれと比べて、ずっと困難が多いことを示唆するとT君は言う。

 養護施設には18歳まで滞在できる。だが、15歳以上でまだ養護施設にいる者が20%を超えるに至っている(養護児童の高年齢化、1990年)。一般家庭でも15歳で家を出る者はほとんどいないのだから、これは当然と言えば当然の傾向である。

 さらにT君が指摘する驚くべき数字がある。

(3)一般人口から養護児童が生じる確率は0.1%である。一方、両親のいずれかが養護施設出身者であるような養護児童は3%から9%もいる(1985年、1986年)。これは昔から「養護問題の再生産」という用語で関係者には知られていたことである。

 家庭というよりどころのない養護児童は、青年期のさまざまな時点で困難につきあたり、守ったり導いてくれる人がおらず、以上のような数字が出てきたと考えられる。

 のんきにランドセルなぞ贈っている場合ではないのである。