三共は武田に次ぐ国内第二位の製薬企業、来年4月に三共と第一製薬との完全統合も決まっている。(現時点ではまだ第一三共という持株会社設立まで。)また、大衆薬のゼファーマも買収し、医療用医薬品のみならず大衆薬でも国内二位につけている。その第一三共の社長兼CEO、庄田氏のインタビュー。
稀に見る歯切れの悪いインタビューであると思われた。そして、その歯切れの悪さが、第一三共の置かれた立場もさることながら、製薬企業の置かれている立場を表しているようにも思え、興味を引かれた。
「A1でもあるがA2でもある」、という玉虫色の回答が、最初から最後まで終始一貫して続いていく。その様子が興味深いので、簡単に要点をまとめてみると・・・
- Q: ヘルスケアの市場をどう見るか?
- A1: ドラッグストアで販売される商品は、大衆薬から、健康食品、スキンケア商品などに広がっている。(=医薬品以外に拡散してしまっている。)
- A2: ドラッグストアの商品でも、臨床試験の結果に基づいて効能や安全性を保証できる製薬会社の強みが発揮できる。
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- Q: 事業領域を大衆薬に拡大するのか、医療用に集中するのか?
- A1: 現在市場環境が厳しい大衆薬を拡大する理由は、10年~15年という長い期間で見ると、大衆薬の市場が拡大していくと考えるからである。
- A2: しかし大衆薬強化が最重要なのではなく、最重要課題は、現状の事業の柱である医療用医薬品の、新薬候補のラインアップを強化することである。
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- Q: M&Aは、製品化と販売へのリソース集中のためか、新薬候補発見へのリソース集中のためか?
- A1: 新薬候補の製品化と販売を海外でも進めることができる企業規模をつけるために第一と三共は統合する。新薬候補化合物の創出力と企業規模とは一致しない。あくまでも、その候補を製品化して販売することに企業規模が必要。
- A2: (しかし)販売力を強化するためにさらに引き続いてのM&Aはしない。良い技術や新薬候補品を持っている会社とであればありうる。・・・(実は)売上規模は重視していない。良い新薬を創出できれば売上はついてくるから。
最後に、(業を煮やしたような)記者の質問。
- Q: 世界で圧倒的な競争力を持ちたいと考えている分野はあるのですか?
- A: 循環器、中でも血栓の領域。現在血栓の領域で、自分達ほど充実した新薬候補を抱えている会社はないから。
・・・しかしそれは結果として現在たまたまそうなっているにすぎないではないか、と思いながら読むと、最後に次のように駄目押しがなされる。
- Q: 日本発のグローバル企業を標榜していますがその具体的なイメージは?
- A: 今、社内で「第一と三共の完全統合後の将来像を白紙から描いてみてくれ」とお願いしているのですが・・・
IRに神経が使われる現在、なかなか見られないインタビューだと私は感じたが、しかしそれは第一三共の姿というよりは、製薬企業の姿を現しているように思われたのである。そもそも、ヘルスケアという領域に含まれる要素は、(美と病、富裕と貧困、革新性と安全性、物質と生命、等)矛盾に満ちている。しかも制度や規制で枠がはめられた中で企業活動が現在の形になっている。そこから、グローバルなヘルスケアのリアリティに向き合い、そこにおける矛盾を包括できるグローバル企業になるためには、2段飛び、3段飛びしなければならないのだろう。(・・・それは人類の置かれている姿そのもののようにも思われるが。)
次のいずれかを柱に事業展開する、ということを表明している製薬会社であれば、株を買いたいと思うし、(今から適うのであれば)就職してみたいと思うし、何よりも、面白い仕事ができそうだと感じるのだが・・・
ヘルスケアの世界的なバリューチェーンの中で、矛盾に満ちた諸要素のどこに焦点を当てて、様々な組織体が自らの位置づけを見直し、役割分担が組み直されるのか、言い換えれば、「ヘルスケアの産業アーキテクチャ」がどうなるのか、今後の動きを見てみたいと思うに至った。そして、この産業の世界的な形が見えてしまう前に、日本の製薬企業にもユニークなポジションを見出していただきたいと思い始めた。