人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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小飼弾氏の印象的なエントリ、「俺たちはES細胞じゃない - 労働が市場化しない理由」。

経済学のイロハである需要と供給の法則がなぜ実地で働かないかは、中卒でもわかる。タイトルどおり、労働者はES細胞じゃないからだ。

池田氏の労働市場流動化の重要性の指摘に対する、一つの障壁として提示されている。労働者がES細胞でないから労働市場が流動化しない。しかし逆に言えば、ES細胞であれば流動化できる。そしてES細胞力は人によってそれこそ10倍、100倍、1000倍の差がありうる。そしてES細胞力を鍛えることはできる。そのメソッド化もできる。

転職活動をしたことがない人が転職活動をすると、それはきつい。他流試合をしたことがなく、いわゆる「つぶしがきかない」、「会社を辞めるにやめられない」状態。潜在的には市場で売れるものを持っている筈ではあるのに、その客観化の仕方、取り出し方も、対象との距離の置き方もわからず、まごつくことになる。面接では何もプレゼンできないか、的外れに特殊化されたプレゼンをしてしまうか、どちらかになる。

逆に言えば、実はコンサルタントという職種の人間はES細胞力で生きているようなものなのである。ある意味、プロジェクト毎に転職しているようなもの。そしてどのようなところに行っても、行った最初の週から付加価値をつけることができなければならない。高度技能者の流動性を考える上では、コンサルタントという職種のことを考えるといいかもしれない。

そしてES細胞力を意識的に強化することは大いにできるのである。他流試合を定期的に行うことが重要であることもさることながら、ES細胞になるための体系的なメソッドを作ることもできる。今世の中にあるものは、ロジカルシンキングとか、部分的なものにとどまる。体系化が本格的に試みられていいと思う。

実は、

何千、何万という職能分析と給料が地域別に出ており、自分がどこに行けばいくらで雇われるかがわかる

状態を作ろうとすれば、その過程では職種と職種の間の共通項や、技能の発展段階を整理することになるので、それはES細胞力強化のメソッド化に直結する。「鶏が先か卵が先か」だが、流動化状態を作っていけば、そこに尺度もメソッドも登場するだろう。もっとも、放っておけば良い尺度やメソッドができるものでもないが。イノベーションが必要。M&Aは強制的に高度技能者の流動化状態を作っている点で労働市場/労働者に良い刺激を与えている。イノベーションにつながるだろう。


技能形成/発揮のメソッド化。ピアノの演奏技能を身につけることで言えば、「○○才の時から○○年やってきて○○の曲を弾いたことがある」という技能形成の意識ではだめで、「音階、和声、楽曲形式をかっちり身につけて、音階を弾く、和声をつける、楽想を展開するといったところを自由自在にして、対象(楽曲)に戦略的に立ち向かえる」ようになる必要がある。それはあたりまえのことのようではあるが、ピアノを弾く人が10人いたら、まだ9人は、「○○先生について○○才の時から○○年やってきて○○の曲を弾いたことがある」というように自分のキャリアを表現すると思う。この点、他流試合の機会が多い/流動性が高いポピュラー音楽系の方がよりメソッド化されているように思えることが面白い。

ビジネスマンでもしかりである。「自分はいろんなことやってきましたので適応力には自信あります」ではだめで、「自分は器用なタイプなのでたいがいのことはこなせます」でもだめで、「何でも喰らいついてやります」だけでもだめで(実はこれが重要だったりするとしても)、何を土台にして、何と何を組み合わせて、どのようなアプローチで物事に対応するか、ということを説明できなければならない。


思い出話。15年くらい前、マネジメントコンサルタント(いったん大企業のヒエラルキーから外に出て放浪したりしてキャリアを崩してしまったので、コンサルタントになるしかなかった)の仕事を始めたばかりの頃、問屋のコンサルティングに入ることになった。物流の現場など見たこともなかったのに、倉庫に行って、何か価値を加えなければならない。途方に暮れるとはこういうことだ。あなたならどうしますか?

実はやり方がある。朝、倉庫の長のところに行って、「今日はどのような予定ですか?何が起こりますか?」と聞くのである。あるいは週初め、「今週はどのような予定ですか?何が起こりますか?」と聞くのである。一日が終わってみると、あるいは一週間が終わってみると、まずほとんど、想定通りになっていない。あとは、何故か、ということを追求していくのみである。

このようなことを切り口にして切り込んでいきながら、対象が徐々に見えてくるのであった。これはサバイバル戦術のようではあるが、同時に、ビジネスというものが何を共通の土台(OS)にしており、何を業界固有のアプリケーションにしており、何を企業固有のオプションにしているのか、という対象のアーキテクチャに根ざしてもいる。まずは「時間軸の中のPDCA」というOSの機能に焦点を当てたわけだ。アーキテクチャを見い出すことが、メソッド化の基礎になる。

アーキテクチャは公共財でもある。そのことを、流動化の条件整備の費用負担の議論につなげることもできるだろう。



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