人材マネジメントの枠組みに関するメモ
半蔵門オフィス 過去ブログアーカイブ
 



デルの革命 - 「ダイレクト」戦略で産業を変える

日本経済新聞社

このアイテムの詳細を見る

「オーナー意識」・・・これはデルのキーワードなのだが、IT活用が進んだ企業の教育研修を考える上で普遍性を持つ価値観になると思う。

さて、企業経営について学ぶ上では、経営者によって書かれた本は大変役に立つ。経営者の視点に入り込むことで、企業を構成する様々な要素を関連づけて、統合した形で理解することができるからである。全ビジネスマンの教科書になってよいものとしては、古くは、古典になった米GMのアルフレッド・スローンの「GMとともに」、新しくはGEのジャック・ウェルチの「わが経営」やIBMのルイ・ガースナーの「巨象も踊る」等があるが、DELLの創業者マイケル・デルの「デルの革命」もその一つであると思う。

デルの業績は以前のように好調でない、とか、デルの商品やサービスには以前のような魅力がなくなった、とか、いろいろと言う人はいるとは思うのだが、「ダイレクトモデル」という革命的ビジネスモデルの記録として、そして何よりも、そのビジネスモデルを抽象的な構成物としてではなく、それが従業員一人一人にとってどのような意味を持つのかという側面から語っている点で、不朽の価値を持っていると思う。

というのも、どのように素晴らしいビジネスモデルも、それが従業員によって生きられなければ絵に描いた餅である。デルのビジネスモデルは後から第三者的に見れば一枚の図表で表現できるものかもしれないが、しかしそれは、マイケル・デルのアイデアに基きつつ、従業員全員によって実現され、検証され、発展させられてきたものなのであるから、従業員の視点からビジネスモデルが具体化されるメカニズムが見えることが貴重なのである。組織論、人材マネジメント論として読む価値がある。

というわけで以下、以前に読んでメモをとったものを引っ張りだしてきているのだが、本書をあらためてどう解釈するか?「ここには教育研修のあるべき姿が示されている!」と解釈するのである。


世の中の人材マネジメントの動向としては、人件費配分の是正(=年功的配分からの脱却)が一巡し、景気回復を受けて、採用及び人材育成に再び焦点が当たってきていると言ってよい。90年代から2000年代前半を通じて、人材育成にとって冬の時代が続いたが、再び日の光が当たるようになった。しかし、バブル以前から大きく手を加えられることなく残っていた人材育成制度やプログラムは、旧態依然とした「階層別研修」であった。人材育成へのニーズは大きいのだが、ニーズと手段との間にギャップが感じられているところであると思う。

もちろん、次のような個別の強化課題に対しては対応がなされてきたし、

  • 経営者候補人材の早期選抜・育成
  • 成果主義に伴う、管理職の評価能力育成
  • 最先端の知識を身につけさせる、専門教育の充実

また、キャリアの多様化に合わせて、一律の押し付けの教育研修ではなく一人一人がキャリア計画に合わせて自分でコースを選択できるようにしよう、といった動きはあるのだが、それでも、10年以上かけて段階的に学んでいく階層型のモデルであることには変わりない。そして、そのような階層型教育研修のモデルには、全くもってインパクトが感じられていない!教育研修は死語になったとまでいかなくても、教育研修があってもなくても大して変わらないのではないかと皆が思っている気配がある。

企業組織が固定的な階層構造であることをますます止め、データを中心にフラット化し、ネットワーク化しつつある中では、教育研修も階層構造を脱しなければならない。個人と組織の業績向上に直結することが実感できるようなものにしなければならない。ITによって業績向上のための情報やデータは誰でも活用できる素地が整っているのであるから、その活用可能性を開くものにしなければならない。教育研修のミッションを変えなければならない。従来のような、「経営戦略を受けて必要なスキルセットを有する人材を調達・育成する」といったトップダウンの発想を脱しなければならない。


そこで、教育研修の新しいミッションとして援用できるのが、「社員にオーナー意識を持たせる」というデルの組織運営のポリシーなのである。教育研修のミッションは、「経営戦略を社員一人一人が体現できるようにすること」にある。そうでなければ、日々の競合の動きに対応することもできなければ、現場主導の改善が日々積み重ねられていくこともない。

デルのダイレクトモデルにおける組織運営は、まさにそのようなものになっている。そしてそこにおいては、インターネット販売である強みを活かしてリアルタイムに得られるデータを組織全体で活用できるメリットが最大限に発揮されている。そしてそれは、従業員の不断の能力向上と一体化しているものであって、日常の業務が教育研修そのものであるとすら言える。その内容は例えば、

  • 一言で口にできる「ダイレクトモデル」というキーワードの浸透によって、ビジネスモデルを徹底
  • さらに、「ダイレクトモデル」を実現するための行動規範を「ダイレクトモデル3つの戒律(汝の顧客を知れ・・・etc.)」として明確化し、全社に徹底
  • 市場の細分化により、組織ユニットの自律性と成長機会を維持
  • 「投下資本利益率」に基づく業績評価指標と、その指標の改善の仕方の理解を全社に徹底
  • その他、重視すべきKPI(Key Performance Indicator, 顧客のダウンタイムの最小化etc.)の明確化と実績値の公開
  • あらゆるオペレーションデータの共有
  • データを用いた仮説検証サイクルを組織横断的に実施
  • 顧客からのフィードバックや、組織内での360度フィードバックの日常化
  • ・・・


オペレーション情報に組織のどこからでもアクセスできる組織における「教育研修」とは、デルのように、情報を用いて従業員にエンパワーできるようにするものになるだろう。それは、業績が上がるメカニズムや求められる行動を、従業員一人一人の腑に落ちるまで浸透させ、自律的にPDCAサイクルを回すことができるまで習熟させるものになるだろう。そのメニューは次のようなものから構成されることになるだろう。

  • 業績評価指標に関する徹底した理解
  • 業績向上のメカニズムに関する徹底した理解 (ABC(アクティビティ・ベースト・コスティング)、BSC(バランスト・スコアカード)を活用)
  • 各職場において何がなされなければならないかの徹底理解 (月単位、週単位、日単位でのスケジューリング)
  • コンピテンシーおよびスキルモデルの理解
  • PDCAサイクル、仮説検証サイクルの回し方の理解と実践
  • 360度フィードバックプログラム
  • 改善活動の相互共有と、ベストプラクティスの拡大
  • ・・・


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 2007/06/25号... 【書籍】EA Us... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。