老人医療費負担の増加に伴い赤字の健康保険組合が多くなっている中、ムダな医療費支出を減らすべく、健康保険組合の逆襲が始まった、という記事。
超高齢者社会を前に、健康と医療の問題は次の3つの側面を含んでいる。いずれの側面からもボリューム(金額)の大きい大問題である。
1.国家としての課題
2.企業にとっての課題
2-1.医療費の一部を負担することから
2-2.従業員の健康が職場の生産性に影響するから
3.個人にとっての課題
「国」と「企業(及び健康保険組合)」と「個人」とが、どのように役割分担をしていくか、ということは、今後の国の姿を現すように思う。特に、健康診断データの扱いが今後どうなるか、ということは焦点になるのではないか。健康診断データが、健康のコストパフォーマンス改善の基礎となる。個人情報保護法の制約があるとはいえ、「企業」も「健保組合」も「個人」も健康診断データを取得・管理し、活用することは可能である。
大きな方向性としては次の2パターンがありうる。健康管理が今後の企業会計上のパフォーマンスに大きな影響を及ぼす以上、人事部門としても、健康管理の将来ヴィジョンとポリシーを持ち、健康保険組合と共有しておいた方がいいかもしれない。
【パターン1】企業父権主義の健康診断
- 企業として健康診断データを詳細なレベルまで取得し、徹底活用する。職場評価、人事評価や昇進昇格判断にあたっても使用。
- 個人別にカスタマイズされた健康指導を実施。また健康指標の統計データを駆使して、部門別/職種別/階層別/雇用形態別/地域別等に分析したり、勤務時間や会社業績等のデータとの相関関係を分析して健康増進の施策を打ち出す。
- 医療費の企業負担割合を増やすとともに、その代わり、医療行為の効率性(使用している薬品など)も監視。
【パターン2】個人主義の健康診断
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企業としては、個人の健康診断結果データは管理しない。
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その代わり、(健康診断ポータルなどを通じて)個人の健康診断データや統計値を個人に開放し、時系列分析、統計値との比較やベンチマーキングを支援。健康診断は完全無料にするなど、個人が健康データを取得することは積極支援。
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医療費の企業負担割合は減らし、自己責任を強調。
どちらのパターンであっても、健康保険組合はその方向性に協力できるだろう。
◆(以下は記事の中に出てきた面白いと思ったデータのメモ)
後発医薬品の活用
- 33兆円の国民医療費。
- そのうち7兆円を薬剤費が占める。
- そのうち後発医薬品が占めるシェアは数量ベースで17%。
- (デンソー健保の場合)使用量と薬価差をかけた金額が多い「薬価削減額トップ20」の医薬品を新薬から後発品に置き換えるだけで、全てを後発薬にした場合の6~7割の効果が得られる。
「社会保険診療報酬支払基金」にかけている費用
- 年8億枚を超えるレセプトを、4500人の審査委員でチェック。一枚あたり費用は114円。
- 年間886億円の業務費用。
- 効果は300億円程度にしかならない。
大規模健康保険組合の影響力
- トヨタ自動車健康保険組合の組合員数は、被扶養者まで含めると、愛知県だけで100万人/愛知県の人口は700万人
従業員の健康が人件費に与える影響
- 三菱電機の傷病欠勤日数(4日以上連続)は3万3580日(2000年度)。人件費ベースで換算すると8億8千万円。