書籍もあり、邦訳も出ているのだが、それをテレビ番組化したもののDVDを、フリードマンが亡くなったのをきっかけに、さっと見た。映像で振り返る20世紀から21世紀への経済政策史。DVDで3巻。素晴らしいコストパフォーマンスのプログラムである。(日本の放送局がこれほどの映像を集めて編集することができるとはちょっと考えられない。)なお、ウェブサイトにて本番組の解説や、本番組のために行われたインタビューの全文が載せられており、ディスカッションもできるようになっており、知識資産の活用ができるようになっている。(これも素晴らしい。)
これからの職や職場を考える時、グローバル資本主義に対する姿勢を明確にすることは欠かせないと思うが、そのための素晴らしい基礎情報になると思う。これは映像である必要がある。言葉は英語だけれども、映画のような口語英語ではない普通の英語だし、英語の字幕もついているからいざとなったら辞書引けるし、またたとえ言葉がよくわからないとしても、映像で見る意義は大きいと思われる。
次の3部構成。
- 第1巻:欧米における、大きな国家派(ケインズ派)と小さな国家派(ハイエク派)の、経済政策をめぐる覇権競争の歴史
- 第2巻:共産圏の崩壊と資本主義市場への組み込み
- 第3巻:ITと金融が一体となったグローバル経済への驀進とそのリスク、生まれる格差
ケインズ、ハイエク、フリードマン・・・理論的な支柱を与えた経済学者達の映像とインタビュー。チャーチル、ネルー、レーガン、サッチャー、ゴルバチョフ、ワレサ、クリントン、・・・歴史の転換点でのリーダーの映像。そして、ロシアや、ボリビアや、チリや、メキシコや、ポーランドや、英米や、ドイツや、中国や、シンガポールや、日本の様々な映像。そしてそれらの映像を通して、記憶から薄れがちな、例えば次のようなこと、を振り返ることができる。
- 二次大戦後、英国で労働党が政権をとって基幹産業に対する国の支配を高めたのはどのような背景によるものであったか。
- どのような背景で、レーガン、サッチャーが同時に登場したのか。
- グローバリゼーションの是非に向けての議論の第一ラウンドが、米国の裏庭である中米を米国経済に組み込むかどうか、すなわちNAFTAを結成するかどうか、ということをめぐって行われたこと。その論戦が父ブッシュ、クリントン、(EDSの創業者でもある)ロス・ペローとの間で行われたこと。(ここでクリントンは中庸の論によって勝利を得ている。)
底本となるテキストがしっかりしているので、重要なテーマは押さえられていると思うが(例えば、市場を支える所有権制度、といったことにも触れられている)、テレビ番組なので経済理論的には必ずしも突っ込まれていない。しかし映像の前に、そのこと自体はそれほど重要ではないと思われる。
というのは、経済政策の問題とは、それ自体の効率性や効果性を評価できる「機械の設計」ではなく、つまるところ、「人間の経済活動に対していかにインセンティブを与えるか」という問題だからである。それぞれの時代、人々は何に飢え、何を渇望し、いかに行動を起こすインセンティブを持っていたのか、ということが重要であり、それを考える上では、このような「映像」の助けが有効なのである。
逆に言えば、このような「映像」を見ることによって、「経済政策とは機械の問題ではなく、人々へのインセンティブの付与とコントロールの問題である」という原点に気づくことができる。