三菱商事から生まれた、マザーズ上場の外食企業。その、優男風の社長、岡本晴彦氏を取り上げた記事。三菱商事から生まれたベンチャー外食企業と言えば、スープストックトーキョーを展開する(株)スマイルズ、そしてその、(アーティストでもあるという)遠山正道社長が有名だが、二人はまさに同時期に一緒に外食事業立上げの仕事をしていたとのことである。二人は良き仲間であり、かつ良きライバルなのかもしれない。
このレストランチェーンの事例は、「商品アーキテクチャの変化」あるいは「商品の雑誌化」の事例として見ることができる。94種類の店舗ブランドを持ち、立地に合わせて、適したブランドを組み合わせてフードコートを出店する。店舗ブランド一つ一つがトランプのカードのようなもので、それらを編集して提示する。ある店舗の売上が望ましくなければ別のブランドの店舗に素早く入れ替える。様々な切り口で新しい店舗ブランドを開発しては、それらを組み合わせて出店することで、店舗ブランド開発のリスクを減らし、市場変化への対応も早くする。・・・確かに新しい事業モデルだ。合理的だ。これぞモジュール化だ。記事に曰く、
(クリエイト・レストランツの)1社に発注するだけで様々な店を何件も揃えてくれるので、頼れる存在。デベロッパーのニーズを汲み取り、コンセプトのある、ちょっとおしゃれで、手軽に食べられるトレンドの食事を提供してくれる。
うーん、それはディベロッパーにとって便利だろうが、ちょっと軽くないか?そういえばスープストックトーキョーにしても、「スープなら、鍋に入れておけば一日持つし、すぐに暖かいものを出せるし、鍋の中身を変えれば品揃えをすぐに変えられるし、組み合わせ価値を出せるし・・・」という合理性のにおいを感じてしまって、ちょっと利用する気力がわいてこないのだが・・・。どちらもスマートすぎる雰囲気がする。頭のいいエリートっぽくて、好きになれない。
外食企業が人気を維持するというのは、例えば吉野家牛丼の練りに練り上げられ、磨きに磨き上げられた商品があってこそのものではないだろうか?あるいは(クリエイト・レストランツのような複数業態の複合店舗としては)グローバルダイニングのような、店内の接客エネルギーを極限まで高めようとするマネジメントがあってこそのものではないだろうか、と考えてみる。さて・・・
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複数業態の組み合わせ価値(=相乗効果価値やオプション価値などが含まれるだろう)を実現しようと思ったら、次の方法が考えられる。よく考えれば、そもそもバザールとか市場(いちば)というものは、そのような価値を狙ったものなのだ。
- 普通のテナント方式。ただし、店舗の新陳代謝が働きやすいような料金等テナント契約の仕方を工夫する必要はあるだろう。
- 施設側のマネジメントの権利を強めたテナント方式。例えば、入居する店舗に様々な条件を設け、また入居後も数値管理や共同の店員教育などによって、店舗運営に介入して質を高める。(ルミネなど)
- 店舗そのものを所有してしまう。店舗に対する全権をマネジメント側が持つ。つまり、市場の内部化である。
この3番目がクリエイト・レストランツの方式であると言えるだろう。クリエイト・レストランツは市場を内部化したのである。すなわち市場メカニズムをマネジメントのメカニズムで置き換えたのである。それによって、変化への対応スピードを速める、新規業態開発のリソース配分のムダをなくす・・・といったメリットを手に入れたのである。しかしその代わり、「重い体制」になった。クリエイト・レストランツであれば、2006年2月末の数字で、226店舗、社員835名、アルバイト等も含めると3742名の体制を抱えているとのこと。しかも、組織になってしまえば今後ずっと成長が求められることになるだろう。
複数業態の組み合わせによって場所に魅力を持たせる、そのような価値を生むビジネスをしようと思ったら、上記の3分類に沿って考えると、次のようなビジネスが考えられる。
- 1の場合には、ディベロッパーに契約アドバイスや店舗紹介をする、コンサルティング会社であればよい。
- 2の場合には、ディベロッパーに代わって場所のマネジメントをする、マネジメント代行会社であればよい。
- 3の場合には、リソースを内部に抱え込まなければならない。設計も、調達も、調理も、接客も・・・
結局、この3番目の事業ヴィジョンは消費者から見てあまり魅力的なヴィジョンではないように思う。というのも、そのように組織内で管理された店舗において、業態開発の強いインセンティブを持たせることができるだろうか。言い換えれば、そこに並ぶ店舗には「生命」が賭けられるだろうか。人為的に各種揃えられた「コンセプトのある、ちょっとおしゃれで、手軽に食べられるトレンドの食事」・・・はいずれ飽和して飽きられるんじゃないかと思う。
だから、マネジメントと個々のレストランとの関係に関しては、市場(いちば)のような、市場原理が働く自由度を持たせるような形にした方がいいのではないかと思う。その結果、最終的にマネジメント会社だけが残ってレストランは切り離されるのか、切り離されたとしても密接な資本関係を持つレストラングループ企業となるのか、わからないが、将来的にはそのようになっていくのではないかと思う。
そして最終的には、ディベロッパー、マネジメント会社、レストラン、という、コアコンピタンスのはっきりと異なるレイヤーに、組織が分かれて落ち着いてくるのではないだろうか。クリエイト・レストランツに就職するのだったら、将来何をやるつもりで入るのか考えてから入った方がよさそうだ。