人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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ソニーのリチウムイオン電池の問題、自動車のリコールの問題など、大規模な品質問題の多発を踏まえ、「日本のモノ作りにおける品質は低下しているのではないか」、という懸念が各界で表明されており、その振り返りの特集である。品質問題の要因が複合化していることをとらえて、それを本特集では「複合品質汚染」と呼んでいる。また、モノの品質問題のみならず、JALやJRなど輸送機関の事故の問題なども、広義の品質問題に含めてよいだろう。そのような、昨今の「品質問題」をどのように理解し、今後に向けてどのようなアプローチで臨んだらいいのだろうか。本特集を読みながら、着眼点を整理しておきたい。

ソニーのリチウムイオン電池問題の原因が完全に解明されていないことが象徴するように、技術が高度化し製品やシステムが複雑化する中で、従来の常識が通用しない領域にさしかかかっていることは背景の一つとしてあるだろう。一方では、雇用形態が多様化し職場の一体感が失われる中で価格・スピードが最重視され、品質に対する意識が低下し、品質教育や改善活動が活力を失ったり現場力が低下したりという、ヒューマンファクターも確かに存在する。(技術の変化や商品ライフサイクルの変化など)新しい状況の中で、品質に関するアプローチをどのように組み立て直したらいいのか、ということについて、我々は知見を持っておく必要がある。

昨今の品質問題の背景は次の3つに整理できるだろう。

  1. 品質に関する慢心とマンネリ化を脱することができていない ―― 過去30年間、日本企業が品質に注力して一定の成果と名声が得られたことを背景に、QCサークルの活力低下に見られるように、品質に対する経営優先順位や従業員の意識がマンネリ化している。
  2. 技術の高度化、製品の複雑化 ―― 一方では品質管理に求められるレベルが従来の常識を超えつつある。あらゆる問題の「兆候」を事前にとらえ、問題の顕在化を予防するようなレベルの高さが求められるようになっている。
  3. 品質を支える職場環境の変化 ―― 雇用形態の多様化、若者の意識の変化、そしてコスト削減圧力による現場の疲弊などの状況に対応できるような、新しいチーム作りの方法が求められている。

私が観察するところでは、新しい状況に対応して品質プログラムのレベルを高め、内容を入れ替えていかなければならなかったところ、従来のアプローチから脱却できず、品質プログラムの価値のおいしいところを海外勢に持っていかれてしまった、という印象がある。そこには、戦略性の弱さや、コンセプチュアルフレームワーク形成力の弱さなど、日本の弱点が現れてしまっている印象がある。それは例えば、

  1. 品質管理プログラムの牙城のISOへの明け渡し。企業横断的にQCを推進してきた日科技連がISO取得支援に重点を移していることが象徴するように、品質保証テーマを国際機関のISOがとりまとめ、規格化、標準化を進め、日本企業としてもそれに合わせなければならなくなってしまった。
  2. 一方ハイエンドな手法はシックスシグマに持っていかれてしまった。(QCとシックスシグマとは同じだと思うのだが、シックスシグマは高い目標と洗練させた手法を際立たせている点で訴求力があると言えるだろう。)
  3. 品質を含みながらもそれを超えるアプローチへの脱却に成功していない。守りの品質管理だけではなく、製品企画、そしてイノベーションをも先導できるような思考プロセスが欲しい、と感じられてきて、QCもその方向に脱皮しようとしてそのための手法がある程度まとめられたが(新QC7つ道具など)、断片的なツールのまま発展が止まってしまった。

そしてその結果として現在、例えば、企業の教育研修体系を洗い直してみるとわかるのだが、多くの企業では教育研修体系そのものが(90年代のコスト削減時代に教育研修予算が削減されたこともあり)未だ旧態依然としたままであることが多いのだが、しかもその中で、基礎教育としての「品質教育」が見事に欠落しているのである。ロジカルシンキングとか、コーチングとか、そういうマネジメントスキルは強化されつつあるのだが、「人材育成」と、「品質教育」とが(担当部門としても)乖離してしまっており、品質教育がQC活動とともに取り残されてしまっている印象がある。

そのことは、教育研修プログラムを提供するベンダーで現在、「品質」のテーマに注力している企業がほとんどないことにも現れている。そして、そのことが問題であるという指摘はベテラン世代からしばしば耳にする。「従来であればQCの文化が根付いていたので仕事の共通言語にすることができた『要因解析のツリー図』といったものを、若手の社員が知らなくなってしまっており、チームで仕事を進める上で大変に困る」という声を聞くが、私もベテラン世代に近い世代の一員として、その通りであると思う。

「品質を軸にした仕事の進め方の教育」が、現在、空白状態にあると言ってよい。空白状態を埋めるための、核となる思想や、コンセプトが、供給されていないのである。そこに大きなニーズはあり、現場の渇きはあるのだが、ソリューションがもう一歩のところで提示されていないのである。ソリューションを提供しきれないハードルが、そこにはあるのである。職場のQCサークルという過去の成功パターンが逆に足を引っ張ったことも確かなのだが、それだけではないハードルがあるのである。そのハードルとは何だろうか?そのハードルを越えるために何が必要だろうか?何から始めるべきだろうか?

詳しくは本業のネタになってしまうので書けないのだが、日経ビジネスの本特集の中に紹介されている、LSI大手のロームの事例などは大変に参考になるように思う。ロームのホームページの中にも出ているのだが、「品質」を経営目的とし、品質管理の対象を、4つのM(Man人, Machine機械, Material材料, Method方法)と広く捉えることによって、施策や打ち手の幅が非常に広くなっている。そして、4つのM全てを品質管理の対象とするということは、4つのMを一体的にとらえて施策を組み立てることのできるフレームワークが必要であることを意味する。

また、小説「ザ・ゴール」で有名になったTOC(Theory Of Constraint)の提唱者、ゴールドラット氏の指摘も参考になる。ゴールドラット氏は、「4ヶ月でモデルチェンジするパソコンに見られるような、短い製品開発ライフサイクルに対応するためには、同時に3つ、4つの開発チームを管理する必要があり、それを成功させるためには会社全体でのオペレーションの改善が不可欠になる」と語っており、その指摘は、開発プロセスの標準化・プログラム化の重要性を示唆している。



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