鈴木宗男バッシングに連座する形で逮捕され、背任等の容疑で有罪判決を受け(控訴中)、現在は著作活動等に従事している、元外務省国際情報局の主任分析官、佐藤優氏による「自壊する帝国」を(積んでおいたものを)漸く読んだ。最初の著書「国家の罠」に続いて出版社の賞などを受賞した、大変評判になった書籍である。
内容は90年代の共産主義崩壊過程のロシアの裏話だが、「同志社大学で神学を学んだ異色の外交官による生の情報活動」という貴重なアプローチによる、貴重な時代の貴重な証言である。ドストエーフスキーから抜け出してきたような人達のリアルな会話。「ロシアの人達って昔も今も次の2軸の中で揺れ動きながら『ドストエーフスキーの登場人物』しているのね」と思ってしまった。次のようなマトリクスの上に、登場人物一人一人のポジショニングや心のエネルギーのベクトルをプロットしてみたくなる。
信仰
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習俗――――――――科学
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無神論
右上より時計回りに、
科学的信仰(神学)
科学的無神論(破壊)<<ロシアインテリゲンチャの伝統だとか
習俗的無神論(退廃)
習俗的信仰(民衆)
ロシアで例えばモスクワ大学卒の人を採用するとしたら、その人達の内発的な動機を知るために、このような軸の中でその人のパーソナリティを位置づけてみると良さそうに思える。そして、どうやら、ロシアに赴任するとしたら、ドストエーフスキーは今なお役に立ちそうである。
日本で人材を分析・分類するとしたら、上記のような分類軸は全く無効なので、やはり国民性というものは大いにあるのだな、と思う。中にどっぷりと漬かっていると良い着眼点が出てこないので、外国の人に、日本人のパフォーマンスの特性やキャリア形成指向性が予測できるようなパーソナリティの分析軸を提案してもらいたいものだ。例えば、次のようなものはどうだろう?うーん、今ひとつだな。
武士
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職人――――――――商人
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農民
(追記)
なお、本書の情報は貴重な情報ではあることは確かですが、この本のために時間を使ってよかったとまでは思いません。ロシアや共産主義に関心のある人限定ですね。それは、本書の情報が、ミクロ情報、点情報に終始しているから、ということに尽きます。しかも、登場人物は全て何らかのエリート。そして、いくら著者が本格的な会話のできる人物(貴重な外交官!)だからといって、日本の外交官に対して継続的に情報提供に応じる動機を持つエリートというのは、既にそれだけで「怪しげな人達」であるわけです。ですから、その時代の「全体像」はまた異なったものである可能性があります。上のマトリックスでいうと左側の2つの象限のダイナミズムが全然わからないのです。もちろんこの本は、ある特定の対象をある特定のアプローチで扱ったものにすぎないので、文句を言うべきことではなく、この本が貴重な証言であることには変わりないと思います。