「空疎な賃上げ」「こんな労組いらない」・・・という特集。労働組合の組織率は20%を割ったと言われ、従業員の労働組合への満足度もひどく下がっているという。このようになったのは、錦の旗印であった「賃上げ」闘争の意味がなくなったから。
- 賃上げによって会社が傾いたら元も子もない、グローバル競争の中で企業競争力の維持、ひいては雇用の維持が最優先・・・との企業の論理に屈した。
- 能力・成果主義報酬制度の浸透によって、従業員の利害が分断化し、一律の賃上げ闘争の意味がなくなった。
しかし、「企業」対「個々の従業員」の関係を見る時には、従業員にWebという新しいツールが与えられたとはいえ、なお、企業の方が立場の強い事実は変わらないのであるから、交渉力が均衡するように従業員が団体として行動する意味はある。企業と従業員の間には利害が相反する側面があり、しかもWin/Winの解を得る必要があり、そのためには、対等の立場で、オープンな交渉がなされる必要がある。
- オープンな交渉がなされない場合、労働市場が整備されてきた中では、優秀な従業員から順番に辞めていく、という形で従業員の側は意思表示することになるが、それでは問題解決は遅くなる。
- 経営側が主導する従業員意識調査アンケート、またそれに付随する従業員の意見を直接収集するセッション、といった形で、従業員の要望を集めることも可能だが、従業員の利害に関わることは従業員主導で事実や主張をまとめる方が双方にとって効率的だ。
・・・というわけで、従業員の立場を従業員団体として集約する意味はなおあると考えられる。ただし、従業員の要望を一つに集約し、経営者と価値ある交渉を行うことが容易にできるか、というとそれはまた別問題である。
意味のある要望集約のためには、「成果の性質」「働き方の性質」「キャリア形成の仕方」「モチベーションの源泉」等々が共通する集団で要望集約をする必要があるが、そのような集団が、企業別の集団ではなくて、職種別の集団になりつつあることは明らかであると思われる。職種別の切り口に立つことによって、
- 職種固有の仕事の成果や、その価値のアピールの仕方を、研究することができる。
- 職種固有の望ましい働き方を研究することができる。
- 職種の切り口で企業の垣根を超えて集まることで、能力形成やキャリア形成につながる新しい価値を従業員に対して生み出すことができる
当然、職種別組合への移行ということは一朝一夕に進むことではないが、働き手の情報交換と意見集約の場が、最初から「労働組合」の形を成している必要はない。組合に至らないまでも、職種別の動きを始めることが必要であると思う。
- 経営側も、従業員から情報を集める時には、単に慣習に従って職場別や階層別に集めるのではなく、従業員の関心時である「キャリア」に着目して、専門分野別あるいはキャリア志向性別に従業員を集めてみる。
- これまでの人事制度や組織単位によっては定義されていない、新しいキャリアの分類が生まれつつある場合には、キャリア志向性のアンケートをとるなどしてみる。たとえばソフトウェア産業であれば、SEが業務コンサルティング志向と、アーキテクト志向に分かれていくのを先取りする。
- 従業員の側も、様々な勉強会や社内ブログ・SNS環境を活かして、キャリア志向性が似た同志を見つけていく。
- 専門分野の人材が集まる学会や協会は、専門分野知識の共有のみならず、その専門分野知識を用いた価値創造と報酬取得のあり方、すなわち、職種としての立場の強化をこれまでに以上に重視して活動する。
- 労働組合も、企業内における、従業員の関心の多様化、利害の分断を認めた上で、職種別の動きを始めていく。
例えば、往年の代表的労組である全逓/全郵政を擁する郵政公社の労組などは、今後組織が「物流」「金融」といった、専門分野が全く異なる事業別になることは既に見えているのだから、事業別に論点を先取りして方針を策定していかなければ、従業員の期待にも経営の期待にも応えていくことはできないのではないか。しかるに、あくまでも全組合員一律の発想で、能力・成果主義の受け入れ方、という伝統的論点を中心に思考が回っているように見えるのが気になる。