人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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テロの脅威や原油高の逆風下でも業績が堅調な米コンチネンタル航空も、かつては最悪の航空会社と呼ばれて破綻し、そこから「従業員重視」の経営によって這い上がったという。そのCEOであるラリー・ケルナー氏のインタビューである。

コストを下げながら安全なフライトを実現するためには何よりも従業員のモラールとモチベーションが鍵になる、という視点のもとに、徹底した「労使一体経営」「従業員尊重経営」「チームワーク経営」を進めてきたようである。

その目的は、「明示的な契約関係」に頼らない、「期待されていることを汲み取る誠意」「信頼関係」に基づく従業員の行動を導き出すことである。そのために、経営と従業員との間で緊密なコミュニケーションをとり、金銭的報酬以外のモチベーションを提供するためにランチーパーティを開いたりするという。

まだ若いが人間味がありそうなCEOの写真を見ながら、「古き良き日本的経営」に近いのかもしれない、と思って内容を読み進めると、「社内の関係の作り」が、実は全く異なっていることに気づく。

日本社会において「関係」を担保するために用いられている、「皆」「周囲」「世間」・・・という集団システムが文面には全く登場しない。全て、「社員一人一人(個人)」と「会社」の関係として語られている。そして、「会社」を代表するのは、CEOである「私」である。

つまり、このインタビューの中では、全てが、「社員一人一人と、CEOである私との関係」として、すなわち、「あなたと私の関係」「個と個の関係」として、労使関係が語られているのである。

「私は敬意をもって社員に接するから、社員にもそうして欲しいということです。」

「社員が私を敬うならば、私は何が起きているかを皆に伝えます。」

「会社の最新ニュースは毎日3万~4万人の社員に電子メールで配られています。内容は単にその日の会社の出来事ですが、私が今日アジアにいることは社員全員が知ることができます。」

「(ピザランチの日・・・)私はヒューストン空港に出向いてフリードリンク付きのピザを社員に振る舞いました。」

「私は毎週金曜日に全従業員向けに「今週はこういうことがありました。来週はこんなことを行う予定です。」という内容のボイスメールを残します。」

「その中で「今週の優秀社員」を選んでいます。「あなたが人一倍頑張って仕事をこなしたのを、ちゃんと見てますよ」というメッセージです。」

「給与を全員に公平に支払うのも1つのやり方ですが、社員一人ひとりのことをしっかり見て「私はあなたを尊敬しますよ」という意思を示す仕掛けを作ることも重要なのです。」

・・・この「私」という表現がまるで旧約聖書の神みたいだが、英語という言葉の性質もあるとはいえ、このように、会社と社員の信頼関係を、法人と個人の一対一の信頼関係に、そして法人の代表者であるCEOと個人の信頼関係に、還元して表現しうるということが、新鮮ではある。

「暗黙的な期待を含む信頼関係のシステム」を機能させるためには、「皆」「周囲」「世間」といった、あいまいだが多元的なガバナンスが有効であり、それは日本のお家芸である・・・というように何となく考えていたのだが、そうとは限らないらしい。

このような、リーダーと個人との1対1の関係に還元する組織内コミュニケーションは、リーダーの資質に依存するところが大きいとも考えられ、リーダーの資質によっては短期間で壊れてしまう脆さも持っているのではないかと思うが、しかし、主体とプロセスが明確であるため透明性が高く、従って、問題の解決や改善のために有利だろう。

社員の多様化の推進が喫緊の課題となっている日本企業の企業内コミュニケーションのあり方も、一度思い切りそのような「個」重視の方向に振ってみることは「あり」だと思う。



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