人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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資生堂に昨年就任した前田新造社長が推進する、構造改革についての記事。花王・カネボウ連合への危機感を背景に、資生堂が大規模な改革に着手しているという。ブランド改革がその中心に来るもので、「商品カテゴリーごとにトップのブランドを作る」という目標に向けて、ブランドを統合・削減するとともに、集約したブランドの強化に向けて集中的にリソースを投入しているという。昨年のマキアージュも統合の結果のブランド、男性化粧品ブランドもウーノに統一という具合。機能別組織も解体し、商品カテゴリー別の8つのビジネスユニットに再編したという。

<社長のこだわり>

そして、前田社長は、長期的に育成すると決めたブランドに関しては、一つ一つの商品の作り込みにも細かく口を出すという。たとえば、アクアレーベルでは、「商品特性を一言でアピールする売り文句」にこだわり、「導入式スキンケア」という直接的な表現に行き着くまでに大変な試行錯誤と時間をかけさせたという。変わった訴求文句だが、「面白い、ほかにない売り文句だ」と前田社長は喜んだとのこと。前田社長自身、「これらのブランドはこだわって、こだわって作った。私自身、商品のにおい、粘度など細部にまで踏み込んで意見を言った。会社を代表するブランドなのだから、当然成否の責任は私にある。少しでも不安を感じたら、その都度開発者に問い直した・・・」と語っている。

これはすごいことであると思う。考えてみて欲しい。全社組織を商品カテゴリー別に編成し、カテゴリー別にトップブランドに育成するものを決めて、そのブランドの商品の細部に社長が細かく口を出すというのである。「意思決定の究極の集約化」である。企業の最も鍵となるところに最短距離で経営の意思を浸透させる組織運営である。別の言い方をすれば、企業の最も強い軸を「ブランド」と見なし、そして社長をチーフ・ブランド・マネージャーとして位置づけたということになろう。リソースを集中投入する総力戦に向けて意思決定の何を集中し、何を分散すべきか、ということについての、モデルケースになりそうである。

前の社長との段差がまたすごいと感じられる。前田社長の前の池田守男社長は、秘書室長などを経てきた管理部門系の人で、「私はクリスチャンで神学校出身、だからサーバント・リーダーシップ」などと、不思議なことを言っていたと記憶するが、その人に代わった人はマーケティングの本流を歩んだ人で、商品の細部に自らとことんこだわる人、というわけである。これだけの意思決定の集約化をはかり、またこれだけCEOのタイプが変化したのだから、「今度の改革は本物」と投資家が評価し、株価が堅調に推移しているというのももっともなのだろう。

<背景のコーポレートガバナンス>

さて、以上のように、経営のバトンタッチ、そしてそれに伴う変革を興味深く読んだが、実はこの経営者の配役の変化、そして施策の変化は、中長期的な経営改革のロードマップに沿って組まれていたのではないかと思えてきた。というのは、池田前社長の主な役回りは取引制度改革、生産拠点統廃合や早期退職などを含む所謂「リストラ」にあったと理解されるからである。そして攻めに転ずるにあたって前田社長に変わったというわけだ。

そして、資生堂には「商品をして全てを語らしめよ」という規範があるというが、前田社長のこだわりはそれを地を行くものでもあろう。

このように、背景に厚いコーポレートガバナンスが感じられる。それが、暗黙知的なものなのか、それとも明文化されたものがあるのか、特定の人々(たとえば福原家)の意思に帰着するのか、わからないが、資生堂を資生堂たらしめ、トップメーカーたらしめてきた背景、基盤について興味がわいてきた記事であった。



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