<リクルートという企業は何なのだろうか?>
リクルートが創業者江副浩正氏の残した1兆4千億円の負債を14年間でほぼ完済しつつあることを受けたリクルート特集。限界破壊、創意無限、という威勢の良いキャッチ、特集のカバーにて社長を囲む新入社員達の写真につけられた「皆元気でノリがよく、社長がかすみそうだ」との説明書き。・・・この、リクルートというと必ずついてくるお定まりのノリには居心地の悪さを感じてしまう。
ん?カバー写真の新入社員全員が、手に情報誌を持っている。リクルートでは皆新しいものにチャレンジ、事業家輩出・・・みたいなこと言ったって、新しい情報紙を作って売るだけではないか・・・ひたすらできあがったレールの上を走っているのではないか?・・・と、ひがみも交えてやっかみも言いたくなってしまったりする。
しかし、いずれにせよ、売上高営業利益率30%を維持する世界というのはすごい。リクルート社とは何なのか、ということを少し考えてみたい。特集の中でも描写の切り口に混乱が見られるようである。そして、活力を生む風土とそれを支える人事制度がリクルート社の本質、ということはあるまい。
<偉大なフォーマット>
リクルート社の本質は、企業と大衆をつなぐ情報誌というフォーマットと、それを運営していくインフラ(装置、ノウハウ、営業体制含めて)を確立したことだと思う。フォーマットとインフラができたことで、その上で様々なビジネスの展開が可能になり、業績評価も、人材の能力評価もしやすくなり、人が成長し、活躍する余地が生まれたのだと思う。だから、この企業の偉大さは(=創業者の江副氏の偉大さは)、人がその上で創意を発揮できるフォーマットとインフラを発明したことだと思う。
人材輩出企業、企業家輩出企業と言われる企業にはそのようなところがあるのかもしれない。有名なミスミなどもそうかもしれない。社員から募る新規事業で有名だが、カタログというフォーマットとその運営インフラを構築することで、多彩なチャンスが生まれた。
このように考えながら読んでいくと、本特集の中では、(リクルート再建の立役者であった)高木邦夫元ダイエー社長のインタビューが出色のものだと思う。高木氏はリクルートのビジネスを次のように要約している。「あそこはずばり営業会社ですが・・・」「お客様である事業会社からもらった情報を加工、編集するビジネス」「ビジネスフレーム上はすべての情報やサービスを無料で消費者に提供してもいいんです。逆に広告主に満足してもらうためには、経済付加価値型になる・・・・だから個々に優秀な人材をたくさん集めるビジネスモデルになっていく。」
さて、しかし、高木氏の描写、分析の中でもとらえられていない側面が一つあると思う。それは、リクルート社を「人材を中心とした情報関連産業」と規定した場合の、「人材を中心とした」という部分である。実際には、リクルート社はかねてより、仕事・人材情報のみならず、住宅情報、旅行情報、車情報、飲食店情報・・・等も扱っているが、今後のリクルート社にとって、「人材を中心とした」というのがどのような意味を帯びていくのか?ということが将来のリクルート社の成長軌道とそこにおける組織運営の発展を描く上での鍵になると思う。
<成長機会を探るための枠組み>
リクルート社を「企業と大衆をつなぐマーケティング代行会社」と理解するとき、フォーマット(媒体)は前提とした上で、ビジネスの主要な軸は次の3つとなるだろう。
- 顧客企業 (売上規模/地域/業種セグメント ・・・)
- 大衆マーケット (年齢/地域/嗜好セグメント ・・・)
- 取り扱い対象 (仕事・人材情報/住宅情報/旅行情報/車情報 ・・・)
それぞれに対して次の成長機会を検討することができ、
- 面的拡大
- 取り引きの繰返し回数の増加
- 付加価値アップ
これを一表のマトリクスにまとめるといろいろな議論ができるだろう。
私としては、かねてよりリクルート社が「人材」という対象に対して深堀りしていかないのは何故かと思っていたが、あらためて全体像を描くフレームワークを構想してみると、リソースをそのように配分できるようなマネジメントの仕組みになっていないからではないか、ということに気づいた。「付加価値アップ」ということを指向した時に、現在無料情報誌で面的な成長機会を開拓している動きと矛盾することが、多々出てくることが想像される。
これからリクルート社が一定以上の成長を指向する時には、媒体運営カンパニーが共通インフラを与えつつ、取り扱い対象別のカンパニー制になっていくのではないだろうか。それぞれのカンパニー別に、コアコンピタンスも専門スキル群も、独自性が出てくるのではないだろうか。
いずれにしても、成長の切り口がこれほどいくらでも検討できる企業というのは普通はないと思うので、やはりリクルート社というのは、情報化社会の本格的到来をはるか前に先取りしてマーケティング・プラットフォームを確立した、お化け企業であることは確かなのだと思う。