「日本一売る!」というテーマにて、各界のトップ営業マン/販売員の特集である。つくづく思うに、「売る力」というのは、これはもう天性のものであって、努力だけでは一定レベル以上はどうしようもない面がある。それだけに、昔も今も販売の本質は変わらない筈だと思う。昔から語られ続けてきた「トップセールスマンはここが違う」というテーマを日経ビジネスが今扱うことで、何かが出てくるのかどうか。
しかし、販売環境が様変わりした中で、売れている現場においては、きっとかつてとは違う新しい売り方がなされている筈である。それを支える新しい知識/スキル/コンピテンシーの共通項を本特集から見い出すことができるだろうか。
インターネットを通じて、購買に必要なあらゆる情報を消費者は手にすることができる。合理的な判断は消費者の側でできる。それにプラスアルファとなる「何か」があるから、そこから売れる、逆にその「何か」がなければ売れないのだろう。その「何か」とは何だろうか?
環境の変化/新しい状況にいち早く対応して、新しく販売の現場でつけられている付加価値を見い出し、形式知化して広げていくことがマネジメントの役割になる。・・・そのようなマネージャーになったつもりで本特集を読むことにする。
紹介されている事例を抜き出すと、例えば次のようなものである。
- ベンツ販売日本一 ――― レクサスに刺激されて買替えの腰を上げたトヨタ車オーナーの取り込みに焦点
- 薄型テレビ販売日本一 ――― カタログスペックによる説明ではなく、店頭でのリモコン操作による機能説明
- 旅行販売日本一 ――― (インターネットで既に十分に情報を得ている)顧客の決断の後押しと送り出し
- 投資信託販売日本一 ――― 投信初心者向けに、徹底した説明と、購買ハードルの除去
- 試食販売日本一 ――― スーパーのその日の特売品を組み合わせたレシピの提案
- 化粧品販売日本一 ――― 化粧品が本当に顧客の肌に合っているかどうかの徹底したこだわり
- 婦人靴販売日本一 ――― 先鋭化したファッション婦人靴一つ一つを履く上での木目細かな注意点の体系化
すなわち、個々の顧客の「その時の状況」、購買行為の「コンテキスト」に焦点を当てた活動がなされているかどうかがポイントであると言える。言い換えれば、「インターネットでは代替できない、インターネットに勝てる部分は何か」ということが踏まえられているかがポイントである、と言える。
しかし、「インターネットでは代替できない自分の価値は何か」という問いに明確に答えることは意外と簡単ではない。あえてシステマティックに考える必要がありそうである。ウェブサイトをマーケティングのプラットフォームとすることで広告の位置づけや機能が変わるなど、マーケティングのプロセスが大きく変わっていっているのだから、広告の機能が変わっているのと同じように、販売行為の機能も変わっている筈である。
従来のマーケティングプロセスのモデルとして有名だった、
- AIDMA (Attention > Interest > Desire > Memory > Action) が
- AISAS (Attention > Interest > Search > Action > Share) に変わっていると言われている。
そうであるとすると、後者のAISASのプロセスの中で、営業マンの機能を再定義していかなければならない。そしてそれを、行動やKPI(鍵となるパフォーマンス指標)に落とし込んでいかなければならない。問うべきは、顧客が自社商品をGoogleでサーチするとどのような結果が出てくるか自分は知っているかどうか、サーチ結果に対して自分はコメントできるかどうか、購買した後のユーザーのシェアの場に自分は仲間として嫌味なく参加してその場に価値を加えることができるかどうか、・・・といったことになる。
ただしもちろん、
- オタクユーザーにも張り合えるような、徹底した商品知識の習得
- 何百人という顧客の顔と名前、前回購入した商品や注文したメニュー等を覚えるような、徹底した顧客への注意
・・・といった、カリスマ営業マン/販売員/店員が昔も今も変わらずに持つ要素はありそうである。