かつてソニーで物流/ロジスティクスを統括し、現在大学でロジスティクスを教えている水島康雅氏による巻頭言。水島氏は、(売上高向上、生産性向上に次ぐ「第3の利益源」と言われた)物流の重要性、及び(組織の縦割りを崩す)全体最適指向性を指摘し、「物流こそトップが手がけるべき仕事」であると指摘し、「チーフ・ロジスティクス・オフィサー(CLO=最高物流責任者)」という職責に値する経営者が出てくることを期待している。
チーフ・ロジスティクス・オフィサーという言葉が出てきたので、この際、所謂CXOと呼ばれる職種が成り立つための条件や、CXO職の設置が組織に与える影響について考えてみたい。CXOとしては、CEO、COO、CFO、CIO(Information)、CHO(Human Resource)から始まって、ソニーの出井前会長が自ら就任したことで話題になったCQO(Quality)であるとか、あるいは同じCLOでも、今回のChief Logistics Officer のほかにも、Chief Legal Officerもあれば、Chief Learning Officerというのもある。所謂CXO職として次のようなものがこれまでに存在した例があるということである(「真の経営幹部CxOを日本で育てる法:田中滋」より)。
CAO Chief Accounting Officer 最高会計責任者
CAO Chief Administrative Officer 最高総務責任者
CBO Chief Business Officer 最高業務責任者
CCO Chief Communication Officer 最高コミュニケーション責任者
CCO Chief Compliance Officer 最高遵法責任者
CDO Chief Development Officer 最高開発責任者
CEO Chief Executive Officer 最高経営責任者
CFO Chief Financial Officer 最高財務責任者
CHO Chief Human resource Officer 最高人事責任者
CIO Chief Information Officer 最高情報責任者
CJO Chief Judicial Officer 最高法務責任者
CKO Chief Knowledge Officer 最高知識管理責任者
CLO Chief Legal Officer 最高法務責任者
CLO Chief Logistics Officer 最高ロジスティクス責任者
CLO Chief Learning Officer 最高学習責任者
CMO Chief Marketing Officer 最高マーケティング責任者
CNO Chief Network Officer 最高ネットワーク責任者
COO Chief Operating Officer 最高執行責任者
CPO Chief Production Officer 最高生産管理責任者
CPO Chief Privacy Officer 最高プライバシー管理責任者
CPO Chief People Officer 最高ピープル責任者
CPO Chief Project Officer 最高計画責任者
CQO Chief Quality Officer 最高品質責任者
CRO Chief Risk Officer 最高リスク管理責任者
CRO Chief Revenue Officer 最高レベニュー責任者
CSO Chief Strategy Officer 最高戦略責任者
CSO Chief Safety Officer 最高安全責任者
CTO Chief Technical Officer 最高技術責任者
CVO Chief Visionary Officer 最高ヴィジョン策定責任者
部門長のことをCXOと呼べば良いわけではないだろう。CXOとは何をする人達だろうか?CXOと呼ぶことのできる条件は何だろうか?その設置は組織にどのような影響を与えるものだろうか?
本巻頭言で指摘されている、物流の重要性、全体最適指向性は、次のような例によって説明されている。
しかし、物流を一括してアウトソーシングしてしまえば、受託先としては原価計算を行い、料金体系を見直し、コストダウンを図るようになることは当然であると思われるから、物流管理を集約すべし、望ましくはアウトソーシングすべし、という結論にはなっても、物流を経営マターにすべし、ということにはならないように思う。
(企業の置かれた状況によって違うべきことはもちろんであるが思いっきり一般的に言って)物流の統括責任者はチーフ・ロジスティクス・オフィサーとして経営チームに入るべきものだろうか。
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機能部門の統括責任者が経営チームに入るとしたら、それは、次の3つの条件がある場合だろう。
- 達成すべき目的や成果が明確である。つまり責任が明確である。
- 環境変化への対応にリアルタイム性が求められる。
- 環境変化への対応のパラメータが人・物・金にまたがり、人の組織化や調整が必要である。
言い換えれば、経営チームに入る必要があるということは、その機能が本質的に他機能と複雑なインターフェースを持ち、すなわちモジュール化できず、契約ベースの機能遂行に乗らないことから、組織の高いレベルからのリアルタイムでの調整が必要になる、ということだ。
「顧客」を相手とするビジネスにおいては、物流機能が本質的にそのようなものであるとはちょっと考えられない。物流の理想は物流レスである。商品の個別性を、大きさや重量などの物としての特性に還元し(無名化し)、インターフェースを極力単純化し、モジュール化し、集約することにこそメリットがある。そこからイノベーションも生まれてきた。コンテナの共通化、ハブ空港・・・
これが、相手が「顧客」ではなく、逃げ回る「敵」であると、話は全く変わってくる。戦争においては、敵の裏をかくロジスティクスは経営そのものになるだろう。しかしビジネスにおいては、競合他社に対するロジスティクスというのはあまり想定できないし・・・
物流機能の統括者が経営チームに入るべきであるとすると、それは望ましくない状態が起こっている場合になると思う。あくまでも、物流が志向すべきは、それが日々の経営マターにならないような安定性である。それと同じような意味で、CQO(Chief Quality Officer)やCCO(Chief Compliance Offficer)を設けるというのも、事柄の本質に反するように思う。それらはシステムによって担保されなければならない。
ある企業のCXOを7つ設定して経営チームを組むとしたら、Xに来るものは何か、ということを考えてみると、その企業の形や状態が見えてくるように思う。例えば、CRO (Chief Risk Officer) が必要な企業も、必要でない企業もある。