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暴力の人類史(スティーブン・ピンカー):大風呂敷が、事例とゲーム理論で楽しく読める

2015-09-11 03:51:55 | マクロ経済

 The Better Angels of Our Nature : Why Violence Has Declined

 ハーヴァードの心理学教授、大風呂敷で楽しめる大作だ。600頁の上下は読むのに結構時間がかかる。下巻はゲーム理論などで実証しているが、上巻が破格の面白さだ。知見の宝庫だ、そのうちのいくつかを:

・聖書はWikiみたいなもの、キリストの十字架は拷問で、処刑が贖罪の「良い知らせ」で神の慈悲

・「ホッブスの罠」、安全保障のジレンマで「不信」が攻撃のインセンティブに

・攻撃者、被害者、傍観者はそれぞれ略奪、報復、法を担う三角形

・狩猟採集民族は戦争が多い、非国家社会も戦争が多い

・初期のリヴァイアサン(ホッブス:国家)により生活での心配が減少、しかしリヴァイアサンの発達で専制君主が出現し暴君・聖職者・泥棒政治家が跋扈

・14世紀に比べ20世紀のイギリスは殺人件数が95%減少、中世は「子供じみていた不作法」、Second Nature(習慣)の未確立、GropeCunt(赤線)など性的で粗野、食卓では自前のナイフが危険→フォークとセットに変化

・国家・通商が相互作用し、中央集権化、暴力の独占、貨幣取引、官僚と分業など発展し経済成長

・アメリカは南部に犯罪が偏在、暴力の加害者は15~30、ベビー・ブーマーの年齢が70年代の狂乱と重なる→コーホート分析以上に暴力的になった

・CAD(不良男)がDAD(子育て男)に連続体になる(ヤンママみたいなものか)

・17,8世紀に専制政治と政治的殺人が減少、「穏やかな通商」と「民主制」(Free Rider Problemを乗り越え恩恵は国民全員に行きわたる)

・20の大罪:人口調整後では安史の乱、モンゴル帝国の征服、中東奴隷貿易、明朝滅亡、ローマ滅亡の順で宗教、国家戦争、経済略奪など

・戦争の規模と確率はべき乗則(これは有名)

・戦争の強硬化は「戦死した兵士の死を無駄にしない」というサンクコストの誤謬

・独裁政権は国家間戦争、大規模な内戦、ジェノサイドの可能性が高い

・マルクス主義は歴史的「ツナミ」で大虐殺、階級を民族に読み替えたナチス台頭の一因

・テロによる死亡確率は低い、恐怖こそTerrorismの本質

・レイプ減少はフェミニスト運動の功績

・いじめ:ジョックスにいじめられるゴス( https://en.wikipedia.org/wiki/Jock_(athlete) )は過大

・情報が文化の向上に貢献:「文化」三部作 トマス・ソーウェル(経済学者)、参考 アーヴィング・ごっふマン「行為と演技」、キャロル・ダヴリス「なぜあの人はあやまちを認めないのか」、ロバート・トリヴァース「欺瞞と自己欺瞞」

・「内なる悪魔」は人の失敗や不幸を喜ぶ「シャーデンフロイデ」

・暴力の分類:目的のための手段、優位確保(エゴディズム)、リベンジ、サディズム

・しっぺ返し戦略は有用

・Empathy(共感)、Einfuhung(感情移入→ヴォリンゲルの「抽象と感情移入」)が由来、Sympahy(同情)、Conpassion(思いやり)に似た意味で使われる、暴力の抑止となる

・平和主義のジレンマ解決:リヴァイアサン(罰則付加)、商業(利益付加)、女性化(虚栄心減少と屈辱感の減退)、共感と理性(平和の重視と敗北・勝利の効用減少)

 とても面白い、本年必読の名著だ


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