著者のハーヴァードでの自動車生産分析は80年代後半、MITのCusumano ( http://web.mit.edu/cusumano/www/ )の研究が懐かしいが、Havardでもやっていたのだと知った。当時は、日本の「トヨタ方式(Lean Production)」が世界の注目を浴びた。丁度、日本がバブルでイケイケだった頃で、当方はそのころ貧乏なMIT生活だった。帰ってきたら、踊るポンポコリンとシーマ現象に驚いた記憶がある。
MITではアメリカ製造業の再生に向け、記念碑的な“Made in America”の出版がある。(https://mitpress.mit.edu/books/made-america )
本作も自動車生産分析の論文や経歴を基にしている。製造業(Manufacturing)の中でも一部部分で、生産管理の「物理的」だ。しかし、現在我が国の製造業では「化学」が安定的に成長している( http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5250.html )、またバイオなど「生物」への言及がない。
さらに、Lean ProductionはSupply Chain(資材供給)が災害時などに脆弱性(勝ち残った一部の企業に集約し依存)があり、冗長性(Leanの反対で在庫と分散)もある程度必要と認識されている。行き過ぎたAmazonのサービス志向により、宅配への要求が高くなりヤマトが音を上げているのと同じだ。
MITの花形の歴史を考えてもわかる、90年代はDARPAと協同でインターネット、次の2000年代はメディア・ラボ、現在は生物でバイオ、MIT Kendall SQなどゲノム大手のBio Gen (https://www.biogen.com/ )の本社が2年前も増築中だった。ボストンはゲノム長者で不動産も値上がりと聞いた。
生産の主体と場所、方法の変化がある。IT オタクの会話と嗜好に合わせた都市と場の創造。郊外の工場からクリエイティブといわれる知的生産として都心(オフィス)産業に。CRO(治験)やソフトウエア開発は都心工場といえる。
筆者の御職のアーキテクチャーとして複合したテクノロジーの相関関係(構成要素・機能と役割・評価の関連など)の分析は次の2軸を定義しているが、その評価と位置付けがマトリクスとならず混乱している。しかも本体と要素に区分しているから、立体マトリクスになる。
1軸目:①モジュラー(1対1)、②インテグラル(複合関係)
2軸目:③クローズド(設計情報が企業内のみ)、④オープン(他の企業も使える、USBなどが事例)
3軸目:⑤製品、⑥製品の構成要素(例えばLCDパネルなど)
多能工がチームとなり、素早い対応で「擦り合わせ型」が得意でインテグラル型に生産性の優位性、さらに改善、本社は改善した場合でも雇用を守り人材を転用。
これに対しアメリカと中国は移民や農民工を分業(単能)で活用(アメリカでは煉瓦壁の向こうに仕事を投げ渡すとしてプロセス管理がなかった、GMの本社も機能分類のビル形式だ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BC%E3%83%8D%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%BA )
論説全体に「昔の未来」のような感じで自動車生産から考えた未来のようだ。この著作において昔はよかったという、同じ手法の展開を狙っているがこれは古い。また生産の特化した分析でマーケティングへの着目がない。80年代の冷戦期、我が国は「高負荷価値」という製品の品質と高価格で他国への優位性と収益確保ができた時代だ。つまりは需要面への分析が薄く、「安くていいもの」の供給面の「伝統的」論文だ。
現代は「擦り合わせ」よりも、「独自で真似されない(propriety)」が重要だ。さらには、独自性を実現する起業活動へのエンジェルやファイナンスが重要で、さらにそのような人材が集う都市の「場」づくりが必要だ。
上記のアーキテクチャーの今後には、独自の部品を作る優位性が指摘されている。これは、構成要素の分解で同心円状の区分だ。プロセスでも企画・開発・製造の中で一部分を請け負うなどの分業や発達がある。これは真言密教の曼陀羅に通じる。
胎蔵界 同心円で製造の要素
金剛界 製造のプロセスと相互関係
このようなまとめ方が現代の技術に通じるのには驚く(吉阪隆正先生も曼陀羅様式を好んでいたのがやっと分かった)
なお、サービス業にも指摘があり「経験の流れ」(お客視点での活動と受けるサービスの対応)指摘は当たり前すぎる。サービスは「在庫ができない」のはMBAの1週間目に習う常識だ。在庫できないため、マニュアルでの共有や、ゲート・キーパーによる管理が起こる。知的産業の継承・内部教育・組織体制も同じだ。MBAではOrganization Behaviorとして必須科目だ。ファシリティ・マネジメントとして古いが参考になる書はManaging the flow of technology ( http://faculty.babson.edu/krollag/org_site/org_theory/socialization_notes/allen_manage.html )
「物理的」なトンカチ仕事(村上春樹 命名)は楽しい、しかし、今では改善やチームより考える、創造的な頭や人材がもっと重要だ。都市はゆるやかなコミュニケーションの誘発ができる「場所」づくりが肝になる。ものづくり工場から創造し続け起業する場として街への転換がある。今後の、生産についての教育でもMOT( https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%80%E8%A1%93%E7%B5%8C%E5%96%B6 )のように、経済、ファイナンス、マーケティングも理解する人材育成が要点だ。PL/BSの読めないエンジニアは要らない。
M ITのシンボル( http://archive.is/wrAO )は手と頭 、ここのSloan Schoolを卒業したのを名誉に思う。