坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

セザンヌ展 人間的でローカルな画家の足跡

2011年11月30日 | 展覧会
来年、国立新美術館で3月末から開催される〈セザンヌーパリとプロヴァンス〉展は、10年ほど前に横浜美術館、愛知県美術館で開催されたセザンヌの大型回顧展以来となる100%セザンヌ(本展のリリースのキャッチコピーとなっています)の展覧会です。



本展の見どころは、これまでポスト印象派として、20世紀美術を先導する構成的な造形と抽象化への道のりに焦点をあてた企画展が中心でしたが、今回は副題にパリとプロヴァンスとあるように、前衛的なアートが集結するパリと自然豊かな南仏の故郷、エクスのプロヴァンスを移動することで、セザンヌの芸術的発展がいかに広がっていったかを見ていきます。
画像は、本展の監修にあたった世界的なセザンヌ研究者であるドニ・クターニュ氏が企画した二つの場所における成果の美術展のカタログです。今回は、それを統合した企画展となっています。
ポール・セザンヌ(1839-1906年)は、1860年代に画家を志してパリに出ます。70年代に入り当時世に出た印象派の輝くような明るい色彩に影響を受け、第1回印象派展に出品するなど、モネやピサロら前衛的画家の仲間入りをします。



この作品は、1861年頃の若きセザンヌの才能が発揮された珍しい作品です。
家族の別荘の大広間を飾った壁画、連作「四季」で、銀行家であった父も息子の画家としての才能を認めたそうです。



この作品は、70年代の印象派の明るい画面の作品の代表作です。パリ近郊で、ピサロと一緒に戸外制作をして、パレットで色を混ぜない、筆触を分割する印象派の技法を学びます。家並みや緑に印象派らしいタッチがみられますが、前景に斜めに道を配した構成などすでにセザンヌらしさが見られます。



この作品も水浴する3人の女性像を描いた代表作ですが、水浴という古典的モチーフを南仏のアトリエで自然の木々と人間像のフォルムの構築的探求を推し進めています。ルノワールの水浴図の女性の滑らかな肌のマチエールとは異なります。



本展は、そのプロヴァンスのアトリエを再現して公開します。セザンヌの静物画に登場するオブジェなどが初来日します。
人生の後半は故郷エクスに滞在し、引きこもって制作していた印象の強いセザンヌですが、晩年までパリとの往来は続いていました。当時鉄道が交通手段となって一般にもピクニックに出かける人が増えたといいますが、長い時間をかけて移動したセザンヌの心境はどのように変化していったのでしょうか。
パリのサロンでは落選が続き、失意のままに故郷をかえったセザンヌは豊かな自然の風土に癒され、さらなる独自の道へと心を燃やしていったのでしょうか。

◆セザンヌーパリとプロヴァンス/3月28日~6月11日/国立新美術館(港区六本木)〈開館5周年記念展〉

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