眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

『ミツバチのささやき』

2018-04-06 14:36:11 | 映画・本

何を書いていいのかわからないまま、ただ時間だけが過ぎた「ひとこと感想」その10。

フランコ独裁政権下のスペインで作られた映画(1973)で、公開当時(1985)雑誌などで話題になっていたのを今も覚えている。一度観たいと思っていたのが、今回やっと、それもスクリーンで観られることになって、とても楽しみにしていた。

今もチラシが机の上にあって、少女(アナ・トレント)が真っ直ぐこちらを見ている。映画を観る前は、なんて可愛いんだろう・・・と見とれたけれど、観た後は、その「無垢」という言葉を結晶にしたような瞳が眩しく、切なく、じっと見つめることが出来なくなってしまった。


「スペインのある小さな村に『フランケンシュタイン』の巡回上映がやってくる。6才の少女アナは、スクリーン上の怪物を精霊と思い、姉から怪物は村外れの一軒家に隠れていると聞いて、ある日その家を訪れる。そこでひとりの謎めいた負傷兵と出会い・・・」(チラシより)

内戦終結直後(1940年)のスペインの田舎を舞台に、6才の少女が生きるリアルとファンタジーの区別が曖昧な「現実」を、考え抜かれたきめ細やかな演出で描いたこの映画は、内戦による国土の破壊、人々の人間性の荒廃という形を借りて、実は制作当時の独裁政権下の不自由さ、息苦しさをあちこちに散りばめている・・・と、昔聞いたことがある。

けれど、今の私にとってこの映画は、幼い頃の姉と私の日常を一々思い出させる・・・そんな種類の作品だった。丁寧に仕立てられたお揃いの服で、どこに行くにも一緒という姿が、余計にそう感じさせたのだろうか。〔映画の中の姉妹の方が、ずっと可愛いのは置いといて(^^;)

この年齢での年の差というのは、ごく僅かでも大きい。妹のアナは、姉の言葉にまだ疑いを持たない。自分の言葉も、そもそも「自分」というもの自体も、アナはまだ意識したことがないだろう。

けれど、一日にほんの数回、汽車が村を通るとき、アナはそこに「見知らぬ何か」を感じる。「どこか遠く」から来て、どこか遠くへ去っていく列車は、アナの知る世界の「外」を感じさせる。

アナは、「これまでの世界」が物足りなくなったというか、少しだけ窮屈?にも感じるようになって、どこかに新しい扉がないか探してみたい・・・そんな「気分」になったのだろうか。映画の中の怪物も、怪我をしている見知らぬ人も、彼女の眼にはこれまで出会ったことのない「精霊」で、それに近づくことは「新たな扉」を手探りすること・・・そんな風な気がしたのかもしれない。

姉妹には世話をしてくれる女性〔雇い人)がちゃんといるけれど、両親はそれぞれ自分の内面だけに目を向けているかのようで、子どもを愛しているのは本当でも、きちんと目を向けているようには見えない。夫婦の間にも距離がある。(「戦争」は「すべてを奪い去り、破壊した」のだ)

そんな中で、アナの変化〔成長)に気づいている大人は、私にはいないように見えた。(大体、昔大人はそうだった。自分たちのことだけで、生活を支え日々暮らしていくだけで、本当に大変だったから)

アナは父親との行き違いもあって、家を出て、ひとりで「扉」を開けようとする・・・


アナの物語と、20年後の私の場合とでは、もちろん時代、環境、事情が全く違っている。それでも、姉の言葉をそのまま信じ、自分自身の言葉をまだ持たなかった妹が、一人きりになって(望むと望まざるとに関らず)新しい「扉」に惹かれ、それを開けようとした・・・という経験は、私にとってはある種親近感を感じるものだった。

映画のラスト、アナは自分の経験したことに自分なりの決着をつけたかに見える。それでもこの先、アナが「精霊」に会うことはもうないだろう・・・と私は思った。アナは「扉」を開けて、新たな世界に踏み込んだのだ。そこにいるのは、「精霊」とはまた違う存在のような気がした。

子どものリアルとファンタジー。成長によって得るものと失うもの。そして、新たな扉を開けるときの危険・・・さまざまなことがアタマに浮かび、文字通り映画の海に浮かんでいたような時間を過ごした。私にとっては、言葉以外のモノに満ちた時間だった。

映画自体については、自分が内容を理解したかどうか、甚だアヤシイ。それでも、この映画はそんな人間にとっても「名作」だったんだなあ・・・と、ここまで書いてみてつくづく思う。(スクリーンで観ることが出来て、本当に良かった!)



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2 コメント

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お久しぶりです(^_^) (お茶屋)
2018-04-30 14:39:16
「私にとっては、言葉以外のモノに満ちた時間だった。」
映画監督にとって最高の賛辞だと思います(拍手)。
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ようこそ~(^^) (ムーマ)
2018-04-30 23:02:07
「最高の賛辞」と言われて驚きました(ウレシイ驚き!)。
私、この映画のこと、全然わかってないんやろな・・・って
観た直後も、半年後に感想書いてるときも
ず~っと思ってたので(^^;。

わからなくても心に残る映画って、ちゃんとあるんだなあ・・・って
今しみじみ思ってます。
来て下さって書き込んで下さって
ほんとにありがとうございました。
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