日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

四谷赤坂麹町 - まるしげ夢葉家

2020-04-21 18:34:23 | 居酒屋
業務が在宅での対応に切り替わったことにより、通勤の手間が省かれました。その一方で気になっていたこともあります。昼夜を問わず世話になってきた赤坂の店の動静です。
多くの飲食店を生殺しにする卑劣なお触れが下されたその晩、見舞いを兼ねて「まるしげ」訪ねました。通常営業を取り止め、持ち帰りのみに切り替えて営業するというのが店主の弁でした。その様子を確かめるべく再訪するのが懸案の一つだったわけなのですが、ようやく実行に移すと、思わぬ結果が待ち構えていました。時間を短縮しながらも営業するとの張り紙が出ていたのです。こうして四日連続の外呑みと相成りました。

さすがの人気店にも閑古鳥が鳴いており、カウンターに三組の先客がいるだけです。四組目となるこちらが片隅に案内されると、次に来た一人客はテーブルに通されました。できる限り間隔を空けるための配慮でしょう。手伝いの青年、お姉さんらの姿もありません。店主と主力の料理人二人による最小限の布陣が敷かれる中、わずかなお客が静かに酒を酌む様子は、語弊を恐れずいうなら通夜のようでもあります。
それでも日頃の品数が一切絞られていないのは大したものです。その気概に応えるべく気前よく飲み食いし、土産の品まで所望するも、それでようやく五千円でした。何回足を運んでも、これでよいのかと思うほど安いのが当店の特徴の一つです。他のお客の支払もたかが知れているでしょう。店に立つ三人組の日当にすらならないかもしれません。わずかばかりの売上のために続けるより、潔く休んだ方が得策だったのではないでしょうか。しかし、それでも店を開け続ける理由が、何となく分かってきたような気がします。
日替わりの品書きには、山菜、空豆、ホタルイカ、筍など様々な春の風物詩が、契約農家の名とともに綴られています。懇意にしている農家から折々の食材を取り寄せ、手頃な価格で提供するのも当店のよさの一つです。長年の付き合いを考えれば、「自粛」するから今年は要らない、また来年と軽々しく言えないのは想像がつきます。持ち帰りに切り替えたとしても、品数は自ずと絞らざるを得ません。それがあえて短縮営業を選択した理由の一つでしょう。店主の誠実さに改めて感服させられる出来事です。

営業はさせたくない、しかし補償はしたくないという勝手な理屈に基づいて、飲食業を生殺しにするかのような政策は卑劣以外の何物でもありません。それでも不平を腹に収め、社会の一員として決められたことに従い、それぞれ工夫を凝らしつつ奮闘している現状には敬服させられます。震災直後の東北人もそうでしたが、飲食業の皆様方は我々が思っている以上の気概に満ちているようです。それすらも不要不急と批判する理由が果たしてあるでしょうか。
「暗いと不平を言うよりも、進んで明かりを灯しなさい」とは先人の言葉です。人々が「自粛」と称して閉じこもり、あまつさえ他者への疑い、敵意を露わにする中、荒んだ世界に明かりを灯すこの店に、心から感謝したいというのが本音です。

まるしげ夢葉家
東京都港区赤坂2-14-8 山口ビル2F
03-3224-1810
平日 1700PM-100AM(LO)
金曜・祝前日1700PM-300AM(LO)
土日祝日定休

ブラウマイスター
益荒男
早瀬浦
お通し(なめろう)
刺盛五点
山菜とホタルイカのぬた
チャーシュー、やや台湾風
ベロベロ焼きビーフン
コラーゲンの王様
牛すじカレー
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