日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

遠慮

2020-03-31 22:38:16 | 旅日記
先週末にお上のお触れが出て以来、荒んだ世相がますます露わになってきました。強い違和感を覚えるのは、「不要不急の集まり」が御法度とされていたにもかかわらず、いつの間にやら「不要不急の外出」が悪だという話にすり替えられていることです。大勢の人々が外出すれば人混みができます。籠った方が安全なのは事実でしょう。しかし、それにより死活問題に直面する飲食業、宿泊業は蔑ろです。当面乗り切れるだけの補償とともに「自粛」を呼びかけるならまだしも、そのような措置が検討されている形跡は全くありません。「自粛」により人出が減っているのであって、お上に責任はないとでもいわんばかりです。卑劣以外の何物でもない仕打ちには、到底納得できません。
もう一つ引っかかるのは、病原体との戦いであるかのような言い草です。彼等には手も足もありません。人類が勝手に撒き散らし、勝手に騒いでいるだけです。都市部に居住する労働者が一斉に働いて一斉に休むという生活様式が、病原体の跋扈を許しているという点では、身から出た錆といってもよいでしょう。しかるに手も足もない相手を敵と見立て、その敵を倒すために団結せよと叫びつつ、一部の人々を蔑ろにする思想には、戦時中の標語にも似た危うさを感じます。

そのようなわけで、「自粛」を叫ぶ風潮には到底納得しておらず、強制的に外出禁止となるまでは活動を続けるつもりでした。そうなる前に脱出してしまいたいとも思いました。しかしどうやらそうも行かなくなってきたようです。
契機となったのは高遠の情報です。祭りが中止されることについては早々と決まっていました。しかし、人出が減り、蝿のような遊覧ヘリも飛ばなくなるなら、それ自体はこちらにとって歓迎すべき出来事です。震災の年に眺めた淋しげな光景が再現されると思えば、それもむしろ一興とさえ思っていました。ところが、その後調べて分かったのは、公式サイトで花見の自粛が求められていることです。中止が決まった段階では、訪ねる分にはやぶさかでないような口調だったはずが、今は自粛と明記され、状況次第では閉鎖もあり得るという物騒な言及もあります。例年は万単位で見物客が押し寄せる全国区の名所です。それだけの人々が入れ替わり立ち替わり訪れれば、確率的にいってもその中に一人や二人の感染者が出てきます。ならば来るなと言いたくなるのも致し方なしではありますが。

震災直後の東北では、余所者の多くが自粛と称して引きこもる中、それでも訪ねてきた旅行者を歓迎しようという気概がありました。そのような気概が失われ、誰もが怯えているというのが当時との決定的な違いです。旅には現地の人々の善意に依存する部分が少なからずあります。静止を振り切ってまで押しかけ、迷惑をかけることは自分としても本意ではありません。それだけに、今季については見合わせもやむなしという考えに傾いてきた次第です。
ただし、仮に見送ったとしても、お上のお触れ通りに「自粛」するということではありません。現地の人々の心情を慮って「遠慮」するというのが自分の中での位置付けです。遠慮をするか強行するか、直前まで状況を見極めてから決断します。
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