日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

鐘は上野か浅草か - ぬる燗

2016-06-19 22:24:03 | 居酒屋
二軒で徳利を四本空け、腹はあらかた満ちて時計も10時を回りました。あとはホッピー通りで軽く一杯やって締めくくるかという状況です。しかし再度「ぬる燗」の前を通ると、満席だった店内がようやく落ち着いています。今更入ったところで中途半端になるのは明白ながら、次の機会がいつになるか分からない状況で素通りするのも惜しまれ、そのまま暖簾をくぐりました。
かつては和装のお姉さんが店主とともに店を仕切っていました。それが店主一人になった今、結果としてこの店のよさがより明確に感じられてきたような気がします。酒と肴の充実ぶりは当然として、一見すると無口で無愛想にも思える店主の間合いが、何かにつけて絶妙なのです。こちらが品書きを一読したのを見計らったかのように最初の注文を聞いたり、二合目の酒とともに和らぎ水を差し出したりといったところはまさにそうで、注文した刺身も意図した通りの間合いで出てきました。常時満席に近い店内を一人で仕切りながら、お客の一挙手一投足に目を配る周到さは、先日訪ねた盛岡の「とらや」の女将を彷彿とさせます。無駄に愛想を振りまかず、最小限の言葉でさりげなく伝えるところについても同様です。しかもこちらは調理までこなした上での芸当だけに、なおさら特筆に値します。看板の時間が迫り、予想通りの中途半端な滞在ではありましたが、今回もこの阿吽の呼吸を体感できたのは幸いです。

ぬる燗
東京都台東区浅草3-20-9
03-3876-1421
平日 1800PM-045AM(LO)
日祝日 1700PM-2230PM(LO)
月曜他不定休

白隠正宗・寧音
お通し(とうもろこし焼ひたし)
かつお刺し青唐辛子醤油かけ
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鐘は上野か浅草か - みのり

2016-06-19 21:15:19 | 居酒屋
一年ぶりなら手堅く行くと申しました。しかるにそのつもりで「ぬる燗」へ向かうと、カウンターがあらかた埋まったかなりの盛況。しばし時間稼ぎをしてから戻ると、店内は落ち着くどころかさらに混み合っており、これでは当分取り付く島がなさそうに見えます。当てがないまま待つよりも、ここはむしろ新規開拓するよい機会と発想を切り替え、ひらめきだけを頼りに一軒の店へ飛び込みました。訪ねるのは「みのり」です。
名酒場が点在する浅草の中でも、ひときわ情緒に満ちた観音裏で、通りすがりの酒場に飛び込むのも一興という考えはかねてからありました。しかし、土地勘に乏しい浅草の、余所者がほとんど来ない観音裏で、全く初見の店へ飛び込むには多少の覚悟が要ります。それだけに、暖簾をくぐるまでには必要以上に逡巡しました。そのような中で決め手となったのは、小料理屋然とした古い店構えです。ただし、真新しい暖簾と行灯からして老舗ではなく、若い店主が居抜きで造った店のように見受けられました。つまり路線としては「ぬる燗」に近く、一見でも比較的気兼ねなく入れ、適度な予算で酒が呑める店だろうと推察したわけです。そしてこの直感に誤りはありませんでした。
長い染め抜き暖簾をくぐって磨りガラスの引戸を開けると、白木のカウンターがまっすぐ延び、突き当たりには畳の小上がりが。カウンターの頭上の庇と行灯も、洗い出しの床も純和風の装いです。ガスの元栓が等間隔で並んでいることからして、かつては鍋物を看板にした店だったのかもしれません。ややかしこまった店構えに合わせたか、調理、器、盛り付けといったものには大衆的な居酒屋以上の仕事が込められており、燗酒は袴つきの徳利で供されました。ただし黒板の品書きは価格を含め居酒屋のそれで、一捻り加えた肴には果たして「ぬる燗」に相通ずるものが感じられます。
恰幅のよい店主は饒舌ながらも、無闇に愛想を振りまくわけではなく、付かず離れず適度な間合いの客あしらいが堂に入っています。一昨年暮れの開店ということは、まだ一年半ほどの若い店です。自分と入れ替わりに出た先客も、後から入ってきた二人組も若い年代でした。店主が彼等の兄貴分のような存在になっているのでしょうか。客層が若いということは、時間帯によっては騒がしくなるのかもしれません。しかし、お客が引けた頃を見計らい、店主相手に一献傾けるには上々の店という印象です。小一時間ほど滞在の後、名刺を頂戴して席を立ちました。

みのり
東京都台東区浅草3-33-9 宮下ビル101号
03-6320-7089
1700PM-2300PM(LO)
月曜及び祝日定休

龍力・初亀
お通し(あんきも・めかぶ)
谷中しょうが正油漬
天然真鯛と明石タコのマリネ
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鐘は上野か浅草か - 志婦や

2016-06-19 19:53:14 | 居酒屋
活動が停滞する夏場こそ、身近な酒場を訪ね歩く好機でもあります。相棒を車検に送り出し、その足で浅草にやってきました。約一年ぶりともなると選択肢は手堅いところに自ずと絞られ、「志婦や」の暖簾をくぐります。
教祖が数多の著作・番組で激賞してきた有名店です。それだけに安定感は比類なく、浅草で呑むならまずはここだと、万人に自信を持って勧められます。見方を変えると、これはある程度まで紋切り型ということでもあり、再訪を重ねれば重ねるほど、既に分かりきったことの再確認としての性格を帯びてくるのが実情です。具体的にいうなら、いかにも江戸っ子気質の店主、女将と大女将、その三人を中心に手伝いの板前とおばちゃんが小気味よく立ち回るカウンター、慣れた様子で酒を酌む一人客の洗練された所作、簡素ながらも季節感に満ちた品書きといったところがこの店の美点であり、それらは今回も何一つ変わりません。
しかし、再確認のようでありながら、新しい発見が毎度一つや二つはあるのがこの手の店の常であり、同じ店に通うことの楽しみでもあります。前回訪ねたのは去年の五月、開け放たれた玄関と夏らしい品書きは一見したところ当時と同様ながらも、「あゆ塩焼」の短冊に、わずかな季節の移り変わりが表れています。この時期に再訪してよかったと実感する一幕でした。

志婦や
東京都台東区浅草1-1-6
03-3841-5612
1630PM-2300PM(日祝日1530PM- )
月曜定休

菊正宗・京の春
お通し(昆布佃煮)
とり貝ぬた
あゆ塩焼
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