日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

四谷赤坂麹町 -おく谷-

2014-11-18 21:47:43 | 居酒屋
曇り空の月曜を一日はさんで晴天が復活。雲一つない乾いた青空と、都心から筑波山、房総半島、南アルプスまでが見渡せる透明感はまさに冬です。冷たい風が吹きすさぶ夜、中二週で荒木町に戻ってきました。訪ねるのはもちろん「おく谷」です。

過去にも語ってきた通り、この店のよさとは、車の往来もない静かな路地裏の佇まいにあると思います。大通りから車力門通りに入って鉤状の角を曲がり、「タキギヤ」の脇から建物と建物の間をすり抜けると、街灯の明かりもまばらな薄暗い小路があり、その一番奥にスポットライトで照らされた扁額が見えてきます。
縦長の暖簾をくぐって引戸を開けると現れるのが、手前テーブル二つ、奥に8席ほどのL字カウンターという、店構えに違わずささやかな店内です。その店内に先客の姿はなく、しかし手前のテーブルにはピザの皿が。遅い時間になってお客が引けると、店主、女将、大女将の三人が、このテーブルを囲んでまかないをとることは分かっています。おそらくは先客が引けたところで、他のお客はもう来ないだろうと見込んで、早めに支度をしたのでしょう。そのようなところへ無粋にも飛び込み、やや恐縮しつつ席に着くところは、一昨年鹿児島の「菜菜かまど」を訪ねたときと似たような展開となりました。

目の前に整然として機能的な厨房、頭上に品書きの黒板というカウンターからの眺めがよく、低い天井と適度な照明が心地よく感じられるところは、語弊を恐れずいうなら麻布十番の「はじめ」を彷彿とさせます。ただし、てらいのない家庭料理を宗とする「はじめ」に対し、一ひねり加えられているのがこの店の品書きの特徴です。たとえば今日のお通しは、ちくわとおくらとピーマンを煮込んだもので、何と呼んだらよいか即座には見当がつきません。しかし、寒い夜には温かいお通しが有り難い心遣いです。
純和風の店構えと意表を突く品書きの組み合わせといえば、思い出すのが以前も引き合いにした弘前の「弦や」ですが、エスニックを中心にしつつ純和風の品をいくつか揃えた「弦や」の品書きは、いわば変化球を主体に直球を織り交ぜた組み立てです。対するこの店の品書きは、一見すると直球のようでありながら、ことごとく手元で微妙に変化する癖球と形容するのが合っています。これは取りも直さず狙いが絞りにくいということでもあり、黒板をしばし眺めて逡巡するのがこの店での常です。そして、絞りきれないまま初球が投じられるのも常であり、店主から注文を聞かれて菜の花となめこのおひたしを咄嗟に注文。これを振り出しにして焼たらことつくねを続け、今回は比較的直球寄りの組み立てとなりました。それでいながら、ポテトサラダ、コンビーフキャベツ炒め、カニコロッケと続ける大衆酒場的な組み立ても捨てがたかったと、後々仮想してしまうのは、それだけ注文が絞りにくいからに他なりません。
とはいえ、このような一喜一憂が、この店の楽しみの一つでもあります。これで注文の品は揃いました。水入らずの団欒をほほえましく横目にしつつ、カウンターで一人静かに杯を傾けます。

おく谷
東京都新宿区荒木町8
03-3351-6451
1800PM-2230PM(LO)日祝日定休

モルツ・明鏡止水
お通し
菜の花なめこおひたし
特選焼たらこ
タイ風つくね焼
糠漬け(おごり)
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