中洲で呑むといいながら、その中洲の歓楽街を通り抜け、櫛田神社に向かって博多川のほとりを歩き、境内を通り抜けて本日の一軒目にやってきました。その名も「博多べい」です。
以前も語った通り、自身博多の街で最も心惹かれるのが、那珂川を表とするなら裏というべき博多川の周辺です。那珂川とは対照的な、控えめの明かりが水面に映り、その畔では櫛田神社の御神燈が夜通し灯り、戦災を逃れた古い町家が、古式ゆかしい町名とともに残って、猥雑な繁華街とは全く違う情緒に満ち満ちています。そんな昔ながらの博多の街に、行きつけの店を持てれば最高だろうという考えがかねてからありました。そして、それに最もふさわしいと思える店にも、ある程度目星をつけてはいたのです。それが他ならぬこの店でした。しかし、以前満を持して乗り込もうとしたときには休業で振られ、再挑戦を図るも今度は看板で振られてしまい、果たせないまま今日の今日まできてしまったというのが実情です。
二度あることは三度あるの格言が脳裏をよぎる中、店先の窓から中をのぞくと、カウンターには空席がたしかにあります。その空席が予約席でないことを願いつつ木戸をくぐると、以前振られたときに見覚えのある店主と、若い助手とが迎えてくれ、三度目の正直にしてついに宿願達成と相成りました。
そこまで恋い焦がれたこの店の、何がそこまでよいかといえば、まずはその立地でしょう。櫛田神社の山門と鳥居の真正面に、古い町家に混じって建つ狭い間口の二階建ては、いかにも心惹かれる店構えをしています。正方形の大きな窓から、一階にカウンター、二階に座敷があるのは承知していました。そして今回初めて乗り込むと、見かけと同様、あるいはそれ以上に細長い空間であることに気付きました。何しろカウンター席に腰を下ろせば、壁に背中がつきそうです。食器棚がなく、皿、鍋、桶の類がカウンターの上に並んでいるのも、食器棚を造れないほど間口が狭いことを物語っています。しかし、塗り壁で仕上げられほどよい明かりに照らされた、ジャズピアノの調べが流れる店内は落ち着いた雰囲気で、一人酒を酌むには申し分ありません。
そんなカウンターの造りを鑑賞するのもそこそこに、一杯目の注文を聞かれたため、まずはエビスの生を選択。きめ細かい泡からしても、そこらの店とは違います。それを受ける突き出しは鰆の焼き魚で、組み立てを考えつつ一杯目をあおるには好適です。
メニューブックを開くとまず現れるのが、九州沖縄各県の郷土料理を並べた見開きです。それも、関東人が思いつく月並みなものではなく、あえて一捻りしてくるところは心憎いものがあります。次いで惣菜、揚物、肉、魚、さらには珍味、酒肴、ご飯ものに季節のおすすめと、店の規模にしては驚くほどの豊富な品数です。これなら序中盤終盤どこをとっても隙のない、万全の布陣が構築できます。まずはご当地名物のゴマサバ、次いで唐津産のアラ、最後は晩秋らしく小鍋を選ぶということで腹は決まりました。
髭面の店主は終始にこやか、かつ物腰柔らかで、一見に対しても懇切丁寧です。こうなると俄然居心地もよくなってきます。福岡の地酒が寒北斗一本なのが玉に瑕ながら、それを差し引いてもなお期待を相当程度上回るよい店でした。
博多の飲食店はそれこそ無数にあります。今後この店一辺倒で通すことはおそらくないでしょう。しかし、博多で最初に立ち寄る店を選ぶときには、ここが候補の筆頭に挙がり続けそうな気がしています。
全てのお客に聞いているのか、今回料理の味わいについて二度ほど聞かれました。しかし、咄嗟のことゆえグルメレポーターのような気の利いた物言いができるはずもなく、頓珍漢な返答しかできなかったのは残念でした。次に博多へ戻ってくるまで、多少なりとも語彙を磨いて、店主を納得させる一言を吐いてみたいものだと思います。
★博多べい
福岡市博多区冷泉町6-12
092-271-5662
1800PM-2300PM(LO)
月曜定休
ヱビス・寒北斗・雪中梅
突き出し
ゴマサバ
あらの天ぷら
まぐろとネギマの小鍋仕立て
以前も語った通り、自身博多の街で最も心惹かれるのが、那珂川を表とするなら裏というべき博多川の周辺です。那珂川とは対照的な、控えめの明かりが水面に映り、その畔では櫛田神社の御神燈が夜通し灯り、戦災を逃れた古い町家が、古式ゆかしい町名とともに残って、猥雑な繁華街とは全く違う情緒に満ち満ちています。そんな昔ながらの博多の街に、行きつけの店を持てれば最高だろうという考えがかねてからありました。そして、それに最もふさわしいと思える店にも、ある程度目星をつけてはいたのです。それが他ならぬこの店でした。しかし、以前満を持して乗り込もうとしたときには休業で振られ、再挑戦を図るも今度は看板で振られてしまい、果たせないまま今日の今日まできてしまったというのが実情です。
二度あることは三度あるの格言が脳裏をよぎる中、店先の窓から中をのぞくと、カウンターには空席がたしかにあります。その空席が予約席でないことを願いつつ木戸をくぐると、以前振られたときに見覚えのある店主と、若い助手とが迎えてくれ、三度目の正直にしてついに宿願達成と相成りました。
そこまで恋い焦がれたこの店の、何がそこまでよいかといえば、まずはその立地でしょう。櫛田神社の山門と鳥居の真正面に、古い町家に混じって建つ狭い間口の二階建ては、いかにも心惹かれる店構えをしています。正方形の大きな窓から、一階にカウンター、二階に座敷があるのは承知していました。そして今回初めて乗り込むと、見かけと同様、あるいはそれ以上に細長い空間であることに気付きました。何しろカウンター席に腰を下ろせば、壁に背中がつきそうです。食器棚がなく、皿、鍋、桶の類がカウンターの上に並んでいるのも、食器棚を造れないほど間口が狭いことを物語っています。しかし、塗り壁で仕上げられほどよい明かりに照らされた、ジャズピアノの調べが流れる店内は落ち着いた雰囲気で、一人酒を酌むには申し分ありません。
そんなカウンターの造りを鑑賞するのもそこそこに、一杯目の注文を聞かれたため、まずはエビスの生を選択。きめ細かい泡からしても、そこらの店とは違います。それを受ける突き出しは鰆の焼き魚で、組み立てを考えつつ一杯目をあおるには好適です。
メニューブックを開くとまず現れるのが、九州沖縄各県の郷土料理を並べた見開きです。それも、関東人が思いつく月並みなものではなく、あえて一捻りしてくるところは心憎いものがあります。次いで惣菜、揚物、肉、魚、さらには珍味、酒肴、ご飯ものに季節のおすすめと、店の規模にしては驚くほどの豊富な品数です。これなら序中盤終盤どこをとっても隙のない、万全の布陣が構築できます。まずはご当地名物のゴマサバ、次いで唐津産のアラ、最後は晩秋らしく小鍋を選ぶということで腹は決まりました。
髭面の店主は終始にこやか、かつ物腰柔らかで、一見に対しても懇切丁寧です。こうなると俄然居心地もよくなってきます。福岡の地酒が寒北斗一本なのが玉に瑕ながら、それを差し引いてもなお期待を相当程度上回るよい店でした。
博多の飲食店はそれこそ無数にあります。今後この店一辺倒で通すことはおそらくないでしょう。しかし、博多で最初に立ち寄る店を選ぶときには、ここが候補の筆頭に挙がり続けそうな気がしています。
全てのお客に聞いているのか、今回料理の味わいについて二度ほど聞かれました。しかし、咄嗟のことゆえグルメレポーターのような気の利いた物言いができるはずもなく、頓珍漢な返答しかできなかったのは残念でした。次に博多へ戻ってくるまで、多少なりとも語彙を磨いて、店主を納得させる一言を吐いてみたいものだと思います。
★博多べい
福岡市博多区冷泉町6-12
092-271-5662
1800PM-2300PM(LO)
月曜定休
ヱビス・寒北斗・雪中梅
突き出し
ゴマサバ
あらの天ぷら
まぐろとネギマの小鍋仕立て