本日の晩酌 -貴-

昨秋呑んだ酒の中でも、とりわけ忘れがたいのが東洋美人の限定酒だと申しましたが、それに勝るとも劣らないほど強く印象に残った酒がもう一つあります。同じく福岡の日本酒バーであおった「貴」のひやおろしです。東洋美人と共にグルメ雑誌などで何度となく取り上げられた、今をときめくこの蔵だけに、何を今更といった向きもあるでしょう。実際のところ、都会の料飲店でも呑めるこの酒を、わざわざ酒販店で買い求める必然性を感じることは通常ありません。しかし、このひやおろしだけは特別で、呑み屋で三回あおっただけでは飽き足らず、酒販店の店頭から消え去る前に自ら買い求めた次第です。
それでは何が特別なのかといえば、ひやおろしの王道を行く円熟味に満ちた味わいの中にも、一瞬鼻をくすぐるような隠し味が潜んでいるとでも申しましょうか。それが具体的に何なのかを的確に表現するのは、自分の乏しい語彙では不可能で、複雑玄妙の一言でごまかすしかありません。この酒の真髄を理解できるのは、さらに一年二年と時期を変え味わい尽くしてからのことになりそうです。

★貴 特別純米ひやおろし
永山本家酒造場(山口県宇部市)
アルコール分 15度以上16度未満
原料米 山田錦
精米歩合 60%
日本酒度 +5
酸度 1.6
杜氏 永山貴博
東京都港区 鈴木三河屋にて購入