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『水戸黄門』のメッセージの限界

水戸光圀こと徳川光圀が生まれた1628年は家光の治世であった。
光圀が10歳くらいにときに島原の乱、24歳のときに由比正雪(=由井正雪)の乱。

水戸光圀こと徳川光圀の隠居時代は江戸幕府が始まって90年後。
徳川の支配を強め、鎖国を継続することが太平の世につながるという思想が根強い時代だっただろう。
このような時代を描いた作品において徳川の長老が主人公であれば、反徳川や開国派は必然的に「悪玉」とされる。
光圀が印籠で相手を平伏させているように、『水戸黄門』は「身分制度の中で上位の者が絶対的に正しい」という価値観に基づいたドラマである。

これでは現代人に受け入れられるほうが不思議であり、40年もこの定番が続いたほうが異様である。
いくら『水戸黄門』のスタッフが「人と人の絆」などとテーマにしたところで、結局は、江戸時代初期の価値観を体現したドラマになっている。

『水戸黄門』第41部最終回で海外との貿易を考えた商人(演:松方弘樹)が光圀と手を組もうとした。これはのちに開国後に坂本龍馬が夢見たことだったが、光圀はその商人の要請を断り、密貿易に加担しない意志を傳えた。商人は「密貿易とされる御政道が悪い」と言ったが、徳川家の人間である光圀が御政道を根本から否定するわけがなかった。

1700年に光圀が没したのち、光圀の遺志はどう受け継がれたか。
まず、光圀は生前、甲府宰相・徳川綱豊を第6代将軍として推しており、これは光圀没後9年たってそのとおりになり、綱豊は第6代将軍・家宣となった。
また、第2部における光圀(演:東野英治郎)は生類憐みの令に否定的であった。第43部の光圀(演:里見浩太朗)は憐みの令を人名尊重と動物愛護の法規として多少は肯定的に見ており、全面否定はしないものの、末端の運用の仕方が悪いとしていた(そこは第2部も同様で、人間が犬に土下座するよう強要したり、犬を殺した人間が死罪になるのは、柳沢吉保の行き過ぎと言う解釋であった)。結果として光圀が推していた家宣は綱吉の葬儀より前に憐みの令を廃止した。

では、鎖国と密貿易についてはどうか。
天保~幕末の水戸斉昭(徳川斉昭)攘夷論者で、井伊直弼がアメリカと独断で日米修好通商条約を締結し、斉昭と対立。つまり光圀の親戚の子孫である斉昭は開国に反対していたわけだ。
もし元禄時代に柳沢吉保が独断で鎖国を解いていたら、光圀は反対したであろう。
一方、斉昭の息子であった慶喜は将軍になると、1年で大政奉還して、政権を朝廷に明け渡した。

光圀の考えは家宣と斉昭に受け継がれ、光圀が武器としていた葵の紋の権威は慶喜の時代には失墜していて、その慶喜が江戸幕府を自ら葬り去ったことになる。

まんたんウェブ電子版2011年10月24日(月)付7時配信の記事によると、12月19日の最終回スペシャルは以下のような話である。光圀(演:里見浩太朗)が最後の旅(おそらく12月12日放送で当初予定されていた第42部最終回)を終えて数年後の水戸藩江戸屋敷からスタート。格之進(演:的場浩司)は深雪(演:藤谷美紀)と結婚し、2児の父。助三郎(演:東幹久)は日本史編纂の資料を求め、日本各地を巡って江戸に戻る。水戸藩江戸屋敷では助三郎と志乃(演:大村彩子)の婚礼の準備が進められており、助三郎の母・静枝を初代志乃役の山口いずみが演じる。光圀と格さんの義父・厳兵衛(演:横内正)が誘拐され、藩を改易となり浪人となった人が開墾した村に連れて行かれる。名主の惣右兵衛(演:伊吹吾郎)は老公に代官の悪政を訴える。幕府轉覆を企む龍神党という謎の一味も出現するらしい。

幕末には倒幕派が英雄だったが、光圀の時代では倒幕派は悪役にされていたというわけだ。
また、第41部では「5代目」助三郎(演:原田龍二)と美加の結婚が描かれたが、放送から1年たって「6代目」助三郎(演:東幹久)と志乃の結婚が描かれる。42年の間に話が何回リセットされているのだろうか。

なお、2代目助三郎・里見浩太朗と3代目・あおい輝彦の共演は『水戸黄門』では珍しい組み合わせであろう。
このSPでは横内正、大和田伸也、伊吹吾郎という20世紀の『水戸黄門』の歴代格之進役が別の役で出演しており、里見浩太朗が助三郎を演じた時代はこの3人の時代と重なる。
TBSナショナル劇場『水戸黄門』において3代目助三郎にして5代目光圀である里見浩太朗は、同番組の歴代格之進役6名全員(横内正、大和田伸也、伊吹吾郎、山田純大、合田雅吏、的場浩司)と共演している。ただ、助三郎役だと、前後の杉良太郎、あおい輝彦との共演は珍しいだろう。

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