つれづれなるまま(小浜正子ブログ)

カリフォルニアから東京に戻り、「カリフォルニアへたれ日記」を改称しました。

日本大学教員による「今国会での安全保障関連法案の廃案を求める声明」

2015-07-29 21:39:19 | 日記
 現在、国会で審議されている安保関連法案は、日本の立憲主義を破壊し、また戦争放棄の国是を変更しようとするものであり、成立させてはならないと考えます。この法案に反対する日本大学教員有志は、7月29日、「今国会での安全保障関連法案の廃案を求める声明」を発表しネット上での日本大学関係者の賛同をつのり始めました。
 私も呼びかけ人の一人です。ご賛同いただける日本大学関係者の方は、「安保関連法案廃案を求める日本大学教員の会」のサイトから賛同署名をお願いいたします。


今国会での安全保障関連法案の廃案を求める声明
     安保関連法案廃案を求める日本大学教員の会

 現在国会では,与党自由民主党・公明党によって,集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案(「平和安全法制整備法案」および「国際平和支援法案」)11件が上程され,議論が充分尽くされないままに7月15日には衆院特別委員会で強行採決のうえ可決,翌16日には衆院本会議で野党5党の批判をはねのけて可決されました。
 この法案は第二次大戦後70年間維持された「戦争放棄」という理念を破るものではないか,という不安が国民のあいだで高まっており,さらに圧倒的多数の憲法学者から憲法違反すら指摘されています。政府が説明をすればするほど反対意見が増加しているという結果も世論調査によって明らかになっています。それに対してこの間,多数の市民たちとともに全国の学生や大学教員も「自由と民主主義のための学生緊急行動(SEALDs)」や「安全保障関連法案に反対する学者の会」を組織して活発に抗議行動を行っています。
 こうした現状に鑑みるに,衆院で世論の動向を無視した拙速な「強行採決」を敢行したことは政権与党としての義務に悖るものでした。
 私たち日本大学教員の研究分野はさまざまで,日本の安全保障・憲法に対する考え方も一致するわけではありませんが,学問的真理を追究するという姿勢は共有されています。その観点から,憲法違反の疑いがあるうえ適用基準が曖昧でときどきの政権の恣意性を許容する法案を不適切と考えます。また未来の社会を担うべき学生の教育に携わる者として,今後日本国が国際的武力紛争そして戦争に積極的かつ無際限に加担してゆく可能性を開く法案を不適切と考えます。
 ここに私たちは安全保障関連法案を徹底的に審議したうえで,廃案とすることを求めます。
2015年7月29日
呼びかけ人:10学部37名
荒木田 英禎(工),飯田 隆(文理・哲学*),石井 直紀(理工),石川 晃司(文理),石浜 弘道(理工),井尻 直彦(経済),糸長 浩司(生物資源),小平 麻衣子(文理),小野 雅章(文理),片山 義博(生物資源),金田 耕一(経済),権 赫旭(経済),後藤 範章(文理),小浜 正子(文理),小林 信一(生物資源),小山 由美(薬),近藤 直子(文理),坂野 徹(経済),清水 みゆき(生物資源),杉本 竜也(法),高橋 巌(生物資源),竹内 真人(商),武廣 亮平(経済),丹治 信春(文理),土屋 好古(文理),長沼 宗昭(法),野口 邦和(歯),初見 基(文理),広田 照幸(文理),藤原 孝(法),松重 充浩(文理),水野 和夫(国際関係),村上 英吾(経済),安原 伸一朗(商),山岸 郁子(経済),山口 守(文理),吉田 洋明(理工)
[50音順・括弧内は所属学部](*同学部に同姓同名の方がおられるためこのような表記をします。)

高大連携歴史教育研究会

2015-07-26 01:16:47 | 日記
 高大連携歴史教育研究会の設立大会に出席する。高校と大学の教員が歴史教育の改革に共同して取り組むための組織で、この間、参加している大阪大学歴史教育研究会から誘われて呼びかけ人にも名を連ねた。全体会の前の呼びかけ人会から参加すると、なんと100人余りの中で女性は片手の指の数にも足りない。以前はそういうこともよくあったが、最近ではこういう場は久し振りだ。
 で、役員決めの際に、ほっておいたら男性ばかりになるのが確実だったので、「地域や高大や日本史・世界史だけでなくジェンダーバランスにも留意して」と発言してしまった。結果、第二部会長として運営委員-唯一の女性の-になってしまう。(事前に打診を受けていたが、できればこれ以上仕事を増やしたくはないと思っていたのに。。嗚呼、ジェンダーバランス)
 懇親会では、たくさんの高校の先生から『歴史を読み替える-ジェンダーから見た世界史』を使っている、と声をかけていただいた。高校教科書準拠の見開きで一項目、という現場で使いやすい形式が圧倒的に支持されているのを感じた。編者冥利に尽きることで、大変だったが出してよかった、としみじみ思う。高校の先生たちとの仕事は、大学の研究者とはまた違って楽しい。
(高大連携歴史教育研究会の仮設ホームページのURLは次の通り。http://kodairekikyo.blogspot.jp/)

スーザン・マン著『性からよむ中国史-男女隔離・纏足・同性愛』刊行

2015-07-15 22:06:41 | 日記

 スーザン・マン著『性からよむ中国史-男女隔離・纏足・同性愛』(小浜正子・L.グローブ監訳、秋山洋子・板橋暁子・大橋史恵訳、平凡社、2015年6月)が刊行された。中国ジェンダー史共同研究の翻訳グループで2年ほど前から取り組んできたのだが、きれいな本に仕上がって感慨ふかい思いでいる。
 本書は、明清時代の伝統社会から二一世紀の現在にいたる中国で、家族観や性のとらえ方がどのように変化した/しなかったかを描いたものである。著者のスーザン・マン氏はアメリカアジア学会(AAS)の会長も務めた彼の地の中国史学界のリーダーの一人で、この本は、カフォルニア大学ディヴィス校の退職を前に、英語圏の研究の精華を若い学生向けのテキストとして集大成したものだ。取りあげられるトピックは、身体の変形や装飾、異性愛と同性愛、家の中に隔離される良家の女性と社会から排除される独身男性など狭義のセクシュアリティにかかわるものにとどまらず、政治や法、医学、芸術、スポーツと広範にわたっている。そしてそれらのトピックは、国家、身体、他者(外国対中国、漢民族対少数民族)、公民性といった大きな分析枠組の中に位置づけられ、叙述されている。専門外の方にも興味深く読んでいただける本だと思うので、さわりの部分のいくつかを紹介しよう。
 清代中期の理想の男性像は、『紅楼夢』の主人公・賈宝玉のような女性を思わせる優雅な容姿の洗練された文人であった。深窓の令嬢と繊細な感情をやり取りする貴公子の恋愛と親の決める結婚との緊張関係は、中国文学のおきまりのテーマだ。一方、『三国志演義』の花形の張飛のような武人は、もっぱら男性間の大義の誓いに生き、女性に対してはまったく関心を示さない。理想の男性像とは、階層や洋の東西や時代によって一律ではないのだ。
 理想の女性像は、清代の漢族社会では纏足で表象された。長期間の入念な手入れにで形づくられ手製の美しく刺繍された纏足靴をはいた小さな足は、貞節・忍耐・勤勉などの漢族女性の美徳の体現だという。じつは満州族の清朝は纏足を禁じたのだが、夫にしか見せてはならない良家の女性の足を検査はできず、逆に清代に纏足は広がった。漢族男性は服従の印に満州族の風習の辮髪を強要されて、頭は隠せないので従うしかない彼らは、家族の女性を纏足させて漢族のプライドを保持したのだ。
 しかし19世紀になると、普遍的文明の体現者を自認する西洋人が中国を訪れ、纏足を「後進国の野蛮な風習」と考えてその廃絶を説いた。中国の近代的改革をめざす漢族知識人もこれに同調して、纏足は中華文明の精粋から遅れた中国の象徴へと意味を転換させられた。以前はさげすまれた纏足しない天然の足の「天足」の女性は進歩的で、纏足の女性は落後しているとされて、評価は逆転したのである。
 伝統中国社会ではまた、同性愛嫌悪(ホモフォビア)も見られなかった。男性同性愛を示す「断袖」という言葉は、漢の哀帝が腕枕で眠っている愛人董賢を起こさないために袖を断ち切った故事から来ている。清代には、エリート男性と「相公」(女形役者)との恋愛遊戯は公認されていた。女性間の関係は注目されることがより少なかったが、広東には非婚女性が「自梳女」(みずから髷を結う女)として共同生活を送る習慣があるなど、地域によって独自の風俗も見られた。中国伝統社会の人々の考え方は、キリスト教の原罪の観念意識の影響下にあった西洋とは大きく違ったのだ。だが近代に西洋的な観念が流入すると同性関係は周縁化されてスティグマを押しつけられた。それは近年まで続いて、今ではむしろ、同性婚が公認されるようになった西洋社会より中国社会の方が抑圧が強そうだ。
 本書の多彩な内容はまだまだ尽きない。ここで展開されるさまざまなジェンダーの側面からも中国への興味が広がればと願っている。

LGBT(セクシャル・マイノリティ・ニューズ)問題を考える授業

2015-07-07 22:30:20 | 日記
 一般教育の「ジェンダー論」で、特別講師をお招きして「LGBT問題を考える」授業をしました。
 来て頂いたのは、NPO法人Re Bitの薬師実芳さん。自身のLGBT当事者としての経験から、この問題への理解を深めるための出張授業などをするNPOを立ち上げたパワー溢れる25才です。
 授業では、セクシャリティーの多様なあり方について、自身のライフヒストリー、LGBT問題の現状と今後の展望などを語って頂き、学生たちは本当に熱心に聞き入っていました。質疑の際にはたいへん鋭い質問がどんどん出て、薬師さんもたじたじ。いろいろなことを考えるきっかけをいただけたと思います。
(上の写真は、多様なセクシャリティを認める社会を! のシンボルカラーの六色の虹の小鬼のマスコット。先週、アメリカ全土で同性婚が合憲になって、お祝いにちょっと流行したレインボーカラーの褌と太鼓を身につけてます。)