つれづれなるまま(小浜正子ブログ)

カリフォルニアから東京に戻り、「カリフォルニアへたれ日記」を改称しました。

マンチェスターにて-学術の文理融合と博物学

2013-07-25 17:00:55 | 日記
慌ただしく前期の仕事を一段落させて、イギリスはマンチェスター大学に、国際科学医療技術史学会(International Congress of History of Science, Technorogy and Medicice)に参加するため、ほとんど初めてのイギリスにやって来た。
マンチェスターは、産業革命発祥の地のイメージを裏切らない、赤レンガの建物が重厚な街だ。19世紀に綿棒職業で勃興し、20世紀に入って衰えたが、近年テクノロジーと文化の街として再生しているという。マンチェスター大学は、16世紀だかに始まったイギリスでも有数の伝統ある大学である。
私は今回、冷戦期アジアの家族計画に関するパネルで、中国の計画出産について報告した。他に日本・台湾・インドに関する報告を、アメリカ・イギリス・日本で研究している台湾・日本・インドの出身の研究者が行い、コメンテーターは韓国の研究をしてシンガポールで教えているイタリア系アメリカ人というインターナショナルなパネルだった。
私の報告以外は冷戦期のアメリカの人口政策がアジア各国の家族計画に如何に影響したかが共通の視点であり、社会主義の中国との対比が面白かった。アメリカ人の家族計画関係者と各国の専門家との間のやりとりの中で、それぞれの地域の政策が方向付けられてゆく話に、冷戦期のアメリカの影響力の大きさが国際的によくわかった。
こちらで印象的だったのは、学問とはもともと文系・理系などの境界のない全面的に問題を考えるものであり、現在そういう態度が非常に必要だということだ。大学の中にマンチェスター博物館があり、覗いてみたが、恐竜の骨格から世界中のランプなどさまざまな道具まで、自然のものも人の作ったものも、一緒に展示してあるのが面白かった。大英帝国の「博物学」の精神を観た思いだ。
計画出産(いわゆる「一人っ子政策」)に関する研究を始めてから、広い領域に関わる出産研究者と一緒に仕事をするようになって、文系学者の私はそれまで縁のなかった人類学会や助産学会などでも発表の機会を得た。今回は科学史分野では最大の国際学会に迷い込んで、隣の部屋では天文学史のパネルをやっていたりして、中学生の理科のワクワク感を思い出した。
そもそも学問とは境界のない知的好奇心から始まったもののはずで、現代社会の課題を解決するためにも研究領域の垣根を越えた英知の結集が求められている。この学会-ICHSTMには、そういう意味で最先端の文理融合の研究をしている人も、日本からも含めてたくさん参加していた。ダーウィンの国は、現在の文理融合の研究の方向を考えるのにふさわしい場所に思えた。

「教養教育は何の役に立つのか?-ジェンダー視点からの問いかけ」シンポジウム

2013-07-01 15:15:08 | 日記

6月29日に日本学術会議公開フォーラム「教養教育は何の役に立つのか?-ジェンダー視点からの問いかけ」が開催され、私は「アジア史をジェンダーから見直す」として、「慰安婦」問題について教える目標・内容・方法などについて報告した。
21世紀を生きる若者に、他者への想像力や多元的な思考力・構想力を鍛え、異なった背景を持つ人々と共生できる市民としての主体を育てる教養教育はとても重要である。この公開フォーラムでは、ジェンダー視点の導入をはじめとして、形骸化の指摘される大学の教養教育の再生の方法とその目標が熱く議論された。
私は橋下発言に見えるような日本社会の一部(?)の人権感覚・国際感覚の欠如を表す「慰安婦」=日本軍性暴力被害者への視線を克服するため、どのような教養教育があるかの一つの例として、中国山西省の日本軍性暴力被害者と彼女たちの調査・支援をしている日本の市民グループ「山西省・明らかにする会」のこの十数年の活動について話した。自身に罪はないのに、中国社会の中でながく息を潜め自己卑下して生きてきた日本軍性暴力被害者のおばあさんたちが、この十数年の間に、被害を自身の口で語り、生きる意味と自己の尊厳を回復してきたのには、日本の市民グループ「山西省・明らかにする会」のメンバーが大きな力となってきた。旧日本軍や現在の日本政府に多々問題点はあれども、日本社会にはこのような活動を自発的に行いそれを支える力もあるのだと若者に紹介することで、他者への想像力を鍛え、異なった背景を持つ人々と共生してゆける市民を育てる希望を述べた。「このような人たちの存在を、すべての日本の若者が知る必要がある」などの感想をいただき、まずは意味ある報告になったと思う。
他の報告やコメントも、企業でのダイバーシティ実現への本気度満点の取り組みや、国連女性差別撤廃委員会のパワフルなメンバー、各大学での教養教育改革の取り組み、ジェンダー法学の導入などについて、学ぶものが多かった。
日本社会再生のために、教育のなすべきことは多い。充実した会だったが、課題もたくさん見えた。