つれづれなるまま(小浜正子ブログ)

カリフォルニアから東京に戻り、「カリフォルニアへたれ日記」を改称しました。

「河野談話の維持・発展を求める学者の共同声明」記者会見

2014-04-01 19:38:01 | 日記

 3月8日に公開した「河野談話の維持・発展を求める学者の共同声明」の記者会見を行いました。
3月31日までの賛同者は1617人(呼びかけ人16人を含む)です。
 記者会見には、事務局の林博史さんと私の他に、呼びかけ人の中野敏男・岡野八代・上野千鶴子・和田春樹各氏も出席して、それぞれにコメントをいただきました。
 とりわけ、アジア女性基金の責任者でもあった和田春樹氏が、それが不充分であったとして「日本政府はアジア女性基金を超える措置を取る必要がある」と述べられたことには強い想いが感じられました。上野千鶴子さんは「研究者が情報発信を迫られるほど深い危機感がある」といわれましたが、ふだん大人しい研究者の私がこういうものの事務局を買って出るんだから、本当にそうです。
 今日のニュースでは、「安倍内閣は河野談話は見直さず、新たな談話も発表しない」という答弁書作成を決定したということですが、まだまだ状況は予断を許しません。
 以下に、記者会見で発表した事務局の経過説明を貼り付けます。

「河野談話の維持・発展を求める学者の共同声明」の取り組みについて 2014年3月31日
「河野談話の維持・発展を求める学者の共同声明」事務局
           林博史(関東学院大学教授)、小浜正子(日本大学教授) 
  
企画の契機  安倍晋三首相は、政権に着く前から河野談話見直しを表明し、政権についてからも安倍政権は「河野談話」見直しの動きを進めてきました。
 日本軍「慰安婦」問題についての河野談話は、これで十分と見るか不十分と見るか、見解の相違はあるとしても、この20年余りにわたって日本政府のこの問題についての事実の承認と反省の表れとして、一定の積極的な役割を果たしてきました。これを実質的に否定するような「見直し」「検証」は、韓国や中国のみならず、米国を含めた国際社会との関係でも深刻な緊張をひき起こしてしまうでしょう。
 「慰安婦」問題に取り組んでいる諸団体からもその動きに対する批判がなされてきましたが、研究者の間にもそうした状況を憂慮し、研究者としての意見を表明すべきだという声が広がってきました。そうした声を受けて東京にいる小浜と林が話し合い、私たち学者・研究者が、立場の如何を問わず、河野談話を維持するということを一致点として、共同で声明を出したいと考え、この共同声明を企画しました。

留意点  この学者の共同声明を準備するにあたって、留意したことは、第一に、学者・研究者としての声明であることです。学者・研究者とは、何らかの意味で新しい知の地平を切り開くための専門的知識と技能、それを支えるモラルと判断力を身につけていることが求められ、それにふさわしい責任を有すべき存在です。そうした学者・研究者としての声明であることにこだわりました。
第二に、運動団体とは別に、学者・研究者個人の良心と良識に基づく声明として、さまざまな立場を超えて、一致点で行動しようとしたことです。そのため、取り組み全体について小浜と林の二人が責任を持ち、賛同する若手研究者らの協力を得ながら、いかなる団体からも資金援助を受けず取り組んでいます。
第三に、できるだけ多様な学問分野の方に呼びかけ人になっていただき、可能な限り多くの学問分野の学者・研究者に賛同署名を呼びかけたことです(事務局の力量不足のため、きわめて不十分でしたが)。
第四に、共同声明の内容については、河野談話が果たしてきた歴史的な役割を考えると、これを否認するような見直しは容認できないこと、その「維持」を一致点にすることを確認しました。しかし20年前の談話をそのまま「維持」するだけでは、その後の調査研究の進展が生かされず、さらに今日の国際情勢の変化に対応できないことは明らかであり、その談話の趣旨をさらに「発展」させることが不可欠であると考えました。とはいえどのように「発展」させるかについてはさまざまな可能性や意見があり、それは今後の議論に委ねることとしました。

賛同署名の呼びかけと署名数
  こうした留意点を踏まえて共同声明を作成し、多様な分野の研究者に提案して、最終的に16人の方が呼びかけ人を引き受けてくださいました。
 そして、3月8日0時をもってウェブサイト(http://chn.ge/1oxizVP)上に共同声明を公開し、広く研究者の賛同署名の募集を開始しました。
 3月8日以来、本日3月31日午前10時までに 計 1617人(呼びかけ人16人を含む)の方からの賛同署名が集まっています。
とても急速に多くの方の賛同が集まった勢いは、私たちの予想を上回るものでした。また理系も含めて実にさまざまな分野の研究者の賛同を得られたことからは、これまで「慰安婦」問題と直接には関わっていなかった方々も含めた多くの研究者が、この問題に関心を寄せ、安倍政権による河野談話見直しの動きを憂慮していたことが指摘できると思われます。企画者としては、人数を多く集めることよりも、学者・研究者の方々の自発的な判断からなる賛同を得ることを重視していましたが、これほど広範かつ多数の賛同を得られたのは、この問題が日本の未来、特にアジア太平洋地域の人々との関係にとって重要な問題であると多くの方々に認識されているからではないかと考えます。

今後  私たちはまず河野談話の中で示されているように、「慰安婦」問題が「(日本)軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」であることを認識し、「(慰安婦にされたことによって)数多くの苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ち」を持つことを日本国の共通の出発点として維持すべきであると考えます。そのうえで、河野談話の内容を今日的に発展させなくてはなりません。
 その際、以下のような内容が含まれた「発展」であるべきと考えます。第一に、日本政府は河野談話の趣旨に則って、「慰安婦」にされた女性の被害事実を否定するような言論(ヘイトスピーチを含む)を許してはなりません。
第二に、「われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意」を表明した河野談話の精神に則り、歴史教育などを通じてこの問題を日本国民にきちんと知らせなければなりません。教科書から「慰安婦」に関する記述を削除させるような動きに対して政府は毅然と拒否すべきです。
第三に、安倍政権は国内外からの批判を受けて「河野談話」を「見直すことは考えていない」と表明しましたが、その「検証」を進める方針は変えていません。いま安倍政権が進めようとしている「検証」は、河野談話があたかも根拠のないものであるかのような印象を国民に植え付けてその内容を実質的に否認しようとするものであり、そのような「検証」作業を認めることはできません。
第四に、河野談話が出されてから20年以上の間に、この問題についての調査研究が大きく進みました。アジア太平洋の広い範囲で多くの女性が日本軍の強制下で著しい人権侵害を受けていた具体的な状況が、それを可能にした軍のシステムや当時の社会のジェンダー構造とともに明らかにされています。そうした20年来の調査研究の成果を、日本政府は認識し尊重しなくてはなりません。
第五に、そのような調査研究の成果を踏まえたうえで、河野談話をさらに発展させる施策を求めます。その際には、国連社会権規約委員会や自由権規約委員会、拷問禁止条約委員会、女性差別撤廃委員会など国際人権機関による「慰安婦」問題に関する勧告を十分に踏まえた、今日の世界の人権水準にふさわしいものが求められます。

最後に  あと1か月程度をめどに賛同署名を継続したうえで署名活動に区切りをつけ、この共同声明とその呼びかけ人、賛同署名人、寄せられた意見については独自のウェブサイトを設けて、一定期間広く閲覧していただけるようにする予定です。
 この学者による共同声明の取り組みが、日本軍「慰安婦」問題の真の解決、ならびにアジア太平洋地域の和解と信頼、平和友好に貢献できることを心から希望しています。
以  上