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ねこやま

徒然備忘録

サウスバウンド / 奥田英朗

2011-01-14 21:44:19 | 奥田英朗
抜粋

小学校六年生になった長男の僕の名前は二郎。
父の名前は一郎。誰が聞いても「変わってる」と言う。
父が会社員だったことはない。物心ついたときからたいてい家にいる。
父親とはそういうものだと思っていたら、小学生になって級友ができ、
ほかの家はそうではないらしいことを知った。
父はどうやら国が嫌いらしい。むかし、過激派とかいうのをやっていて、
税金なんか払わない、無理して学校に行く必要などないとかよく言っている。
家族でどこかの南の島に移住する計画を立てているようなのだが…。

型破りな父に翻弄される家族を、少年の視点から描いた、長編大傑作。




























面白かった。












第一部は東京での暮らし。
第二部は沖縄での暮らし。

第一部の方が文字数が多いけど、沖縄いってからの方がおもしろかった。
というより、第二部が本題だろうと思う。

あらすじみればわかるけど、おとうさんが元・過激派とかいうので
未だにその名残で国に反感を持っていて、
家庭訪問で訪れた若い女の先生をやりこめたり、
修学旅行の積立金に怪しい点があると学校に乗り込んだり
とにかくはちゃめちゃ。

近所でも学校でも父親のせいで有名になってしまった一家。
母は一応波風立てないようにつくろったりもするんだけど、
ある日を境に吹っ切れたように沖縄移住に賛同する。
それまでは何かと目立つ父親のフォローに回ってたりして、
母親はまともなのかと思っていたが、
まともな人間がそんな人と結婚するわけがない。
やっぱり母も父の味方なのだ。

正直わたしはこんなのが父親だったら勘弁してくれーだ。
はたから見てるからスゲーな、といってられるけど当人にはなりたくない。
こんな奔放な父親はやっぱり沖縄の離島生活の方が合っているのかもしれない。

子供は順応性が高いけど、沖縄に染まるのも早かった。
ここも一つ、引越し先が南だからよかったのだと思う。
これが東北だったらこうはいかないだろう。
父親も奔放にはできないだろうし、なんせ気候が違う。
美しい珊瑚の海と、青い空、陽気な音楽。
自給自足っていうのはやっぱりあったかいトコロだからいいのだ。
これが東北だったら一年の半分ぐらいはどんより曇り空だ。
作物だって冬の間はなんも育たない。
冬の間の田んぼは何も利用価値がない。
花だって春になるのが待ち遠しいくて雪を割って咲くのだ。
祖先が何某だからといって、毎日食べ物は恵んでもらえない。
沖縄はそもそも血縁関係に親切というイメージ。
というか、誰にでも親切そうで時間はゆったりなんだろうな。
この物語に登場する沖縄(西表)はそういう人情に富んでいた。
毎日がこんなだったら住んでみたくもなるわ。

他、印象に残ったのは、同級生の黒木を口八丁でまるめこんで
二人で不良の親玉に直談判しにいったところ。
問題のすり替えというやつだけど、おもしろかった。
そんでもってこの時この二人にちょっとだけど友情が芽生えたんだろう。
東京を離れる前夜、最後に二郎と別れたのは黒木だった。

そして、この奔放な親父。
この親父は多分、誰からも憎まれないヤツっていうのの典型だ。
いいたいこといってるだけなのに、なぜかカッコよく見えて、
やりたい放題なのになぜか事が上手く運んでいく。
いつの間にかこの父親のファンになっている。
カリスマ性というやつだろう。

こういう人がみんなの前に立って演説なんてぶったら
たちまち支持者は増えるんだろうな。
カリスマ性プラスヴィジュアルもいい演説者。

公安だとかアナーキーとか、全共闘だの。
小学生の知らない言葉がでてきても、親友の向井が説明してくれるので
よくわからないわたしもその説明でなんとなく理解する。
そういう意味で、そういう人たちの訴えている言葉が
本を通してなんとなく伝わってきた。
何が言いたいのか。
何をしたいのか。
思想というやつだ。










ラストシーン。
そんなハチャメチャな家族だけど、最後はなんとなくハッピーエンド。
キョウダイだけの生活に突入するわけだけど。
沖縄の古い民話“アカハチ物語”
これを二郎は朗読しながらやっぱり夫婦は仲がいいほうが子供はしあわせ。
そういったから、それがすべてなんだなと思った。

誰がなんと言おうと、家族が繋がっていればそれで幸せ。


2011.01.14


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