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ねこやま

徒然備忘録

ジョーカー・ゲーム / 柳広司

2010-10-18 16:35:42 | や・ら・わ行作家
抜粋

結城中佐の発案で陸軍内に設立されたスパイ養成学校“D機関”。
超難関試験を突破した一期生は、外国語、学問はもちろんのこと、
爆薬や無電の扱い方、変装術、女の口説き方など多様な訓練を受け、
長髪、背広姿で互いを偽名で呼び合った。

「スパイとは“見えない存在”であること」

「殺人及び自死は最悪の選択肢」

これが、結城が訓練生に叩き込んだ戒律だった。
軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関”の存在は、
当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く
「魔王」―結城中佐は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を上げ、
陸軍内の敵をも出し抜いてゆく。
東京、横浜、上海、ロンドンで繰り広げられる
最高にスタイリッシュなスパイ・ミステリー。

死ぬな。殺すな。とらわれるな。
五感と頭脳を極限まで駆使した、命を懸けた「ゲーム」に生き残れ。

















もうあらすじ読んだだけで面白そうでしょ?
面白かったんです。
うーん、これはアタリだ。
こちらも前回同様誰かのベストリーダーの中の一つ。
あらすじよんで、感想も面白かったとのことで選んだ。
表紙のおっさんが結城だったりするのかなぁ?
軍服こんなんだっけ?

時代背景は太平洋戦争直前。
あらすじにもあるようにスパイ養成学校“D機関”のお話。
このDの説明は正確には成されていないように思う。
デビルのD?魔王のD?
卒業生の一人の推察に終わっていた。

何がおもしろいかって。
常人離れしたスパイたちだ。
非常にプライドが高く自負心に満ち溢れているスパイたち。
彼らの驚くべき洞察力や記憶力、行動力は見ているだけでスカッとする。
ただただ、スゲー、の一言に尽きる。
D機関への試験内容もおもしろかった。
建物に入ってから試験会場までの歩数、及び階段の数を答える。
サイパン島の消えた世界地図を広げてサイパン島の位置を尋ねられる。
受験者がそれを指摘すると、今度は広げた地図の下にあった物を質問される。
なんでもない文章を読まされしばらく時間が経ってから
その文章を逆から暗誦させる。
そんなもんできるやついるのか?
いるんです。
いなきゃお話にならないし、スパイとしてこの先やっていけない。
おまえら全員シャーロックホームズか!
とつっこみたくなるほど頭がキレる。

学校ではいろんなことを学ばされる。
ジゴロを連れてきて女の口説き方講座。
刑務所から錠前破りをつれてきて錠前の手ほどきを受けさせる。
当然何かあった場合に自分の身を守れなくてはいけないので
その手の護身術的なものまで身につけている。
彼らの上司である結城は実際スパイで、
敵国でスパイ容疑で捕まった後自力で本国へ帰国し
自国に有利な情報をもたらしたといわれている。
そんな結城が指導した精鋭たちが世に放たれていく。

本書は短編集になっており、連作というのとも少し違う。
毎回読み手のために結城の過去や、彼のスパイ信条などの説明を入れる。
一冊にまとまった状態で読んでいる身としては
毎回ご苦労様といったところだ。
全部で5つの短編が入っている。
5つとも違うパターンの話で飽きが来なかった。
話もテンポがよくて、起承転結がしっかりしていて安心して読める。









●ジョーカー・ゲーム
陸軍内部からみたD機関

当時の陸軍からしてみれば、スパイなどというものは「卑劣」の代名詞
であり、よくもわからない機関に予算を割く必要はない、といったものだった。
実際その予算をひねり出すための最初の一作だったことは間違いない。
まさにこの一編が序章。
D機関に送り込まれた佐久間という人物が理想と現実のギャップに苦悩する。
スパイとは孤独な職業だ。
自分には無理だ、そう思うもののスパイたちを知らなかった頃の自分には
もう戻れそうもないことを悟るシーンはなんともいたたまれない。
「とらわれるな」という言葉はスパイたちには重要だが
陸軍として天皇を神と崇める佐久間には
とらわれていたほうが楽だったかもしれない。


●幽霊-ゴースト-
スパイのお仕事

序章ともとれる一つめの短編の次は実際に、スパイの仕事。
テロの内通者と思われるグラハム氏がクロかシロが調べる。
本人にそれとは気づかれないようにする、というのが絶対条件で。
お鉢が回ってきたのがD機関。
このお話はラストが怖かった。
知らないうちに自分の秘密が暴かれて、それが種となり
いづれ根を張る頃にはもう自分は逃れられないところまできている。
自分が足場を組んでようやく登りつめたところは
実は突貫工事だったということになる。
たったひとりのスパイによってグラハム氏の人生は逆転してしまう。
恐ろしい。


●ロビンソン
潜入国でスパイ容疑で捕まってしまったスパイ

結城の鉄則は「死ぬな」ということ。
「死」は人々の注目を集める。
スパイはその他大勢の中のひとりでなくてはならない。
目立つ行為はご法度。
だからスパイ容疑で捕まっても自殺は選択肢にない。
どうにか自力で脱走を試みる伊沢。

ここで登場するのが自白剤!
本の中だけのアイテムなのかと。
一応調べてみたけど、ナチでは実際使われていたようだ。
そして本書。
D機関では、スパイ容疑で捕まった時の為の対処法も用意されていた。
結城も捕まったことがあり、自分がそこから生還した経験があるから
余計に彼の教える方法には説得力と信憑性が出た。
自白剤を飲まさせた時の対処法がすごかった。
そんな!
まぁ、フィクションですからね。
それにしてもすごいの一言に尽きる。


●魔都
上海派遣憲兵隊とスパイ

抗日テロと思わしき事件が相次ぐ中、
本間は上司から敵の内通者を炙り出せと命令を受ける。
いったいどこにスパイが紛れ込んでいるんだ?
と思いながら読み進めていったら、なるほどね。
なんかおかしいと思ったんだよね。
なんでも利用するものがあれば利用するのがスパイ。


●X・X-ダブルクロス-
スパイになりきれなかった男

そのまま。なりきれなかった男の話。
これが一番人間くさかった。
というか、スパイはもう人間じゃない。
情がない=人間じゃない
という式は成り立たないかもしれないけれど
それぐらい他人に無関心でないとスパイはやってられない。

結城が最後に一言声をかけるけれど、それが意外に思えた。


















総じて

ほとんどが内部の厄介ごとを引き受けるという事件ばかり。
この結城率いるD機関がその当時あれば戦局はひっくりかえるんじゃないか
と思えるほどのフィクションっぷり。
とくに魔都でのスパイが明かした情報が本当になったら酷いことに。
このパワーは今のところほぼ内側に向いているけれど、
敵国に作用したらすごいことになるはずなのになぁって思う。
まぁそれも、上層部が上手く情報を使うことができたらだけど。
戦局がひっくりかえるなんてことありえても
国力の差はどうしたってひっくりかえらないからやっぱり戦争になったら
日本は負けるんだろうな。
だとしても、敵の弱みを見つけるのが仕事のスパイだから
そこをついたら無条件降伏までいかなかったのでは。
なんて夢想にふける。

気になったのがひとつ。
本書の中では戦争に突入していくぐらいの時期なんだけど
その頃って、英語なんて使っちゃマズイんじゃないの?
野球だってぜーんぶ日本語使ってたって話だよね。
ストライクもボールもアウトも・・・なんていってたかは知らないが。
その当時の背景を考えると、文章が現代だなって感じる。
デスクとかいわないっしょ。
とらわれるな。
ということなのかな。
あちこっちで時たまそういう言葉が混じってるので少し違和感。


2010.10.12


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