雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

苦みの女王 ・ 心の花園 ( 55 )

2014-03-07 08:00:08 | 心の花園
          心の花園 ( 55 )
               苦みの女王

春まだ浅いこの季節は、時には冬の顔を見せ、特に北国ではまだまだ雪の季節ともいえます。
しかし、寒い地方も含めて、草花たちは春の訪れを知り、活動が活発になってきています。
身体的にも、そして何よりも精神的に、大きく羽ばたく季節の訪れです。

心の花園にも、新しい生命の活動が見られます。
今回は、山すそで静かに芽吹いている草花をのぞいてみましょう。「センブリ」もその一つです。
漢字では「千振」と書きますが、草花というよりは、薬草として知られている植物です。植物園などでも、山野草というより、薬草として区分けされていることが多いようです。

「センブリ」は、わが国では、北海道南西部より南の広い地域で自生しています。
草丈は5~30cmで、夏の終わりから秋にかけて白い花を咲かせます。「センブリ」は、リンドウ科センブリ属の植物ですが、その花もリンドウに似た実に可憐なものです。
変種に「ヒロハセンブリ」と呼ばれるものがあり、近縁種に「ムラサキセンブリ」「イヌセンブリ」と呼ばれるものがあり、紅花を付けるものもあるそうです。これらは、「センブリ」より少し大きくさらに可愛い花を付けるようですが、自生地は限定的のようです。

「センブリ」が、その存在感を示すのは薬効にあります。胃腸を中心に優れた薬効を発揮するようで、ゲンノショウコ・ドクダミとともに、わが国の三大民間薬とされています。また、漢方薬としては使われておらず、わが国固有の生薬なのです。
「センブリ(千振)」の名前の由来は、「千回振り出してもまだ苦い」ということから来ているそうですが、かつては、苦い物の代表とされていました。

わが国に広く分布し、民間薬として大きな働きをしてきた「センブリ」ですが、近年、自生地は減少の一途をたどり、すでに、絶滅したり、絶滅危惧種とされている地域もあるようです。
個人の園芸種としては一般的ではありませんが、山野草として根強い愛好者も少なくないそうです。
「センブリ」の花言葉には「はつらつとした美しさ」というのがあります。花から受ける印象は、「楚々とした美しさ」といった感じですが、その苦味から「はつらつさ」を感じ取っているのでしょうか。
そうだとすれば、「センブリ」を、「苦みの女王」と表現するのも決して大げさではないと思うのですが。

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コメント
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