夜な夜なシネマ

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『さよなら渓谷』

2013年08月20日 | 映画(さ行)
『さよなら渓谷』
監督:大森立嗣
出演:真木よう子,大西信満,鈴木杏,井浦新,新井浩文,
   木下ほうか,三浦誠己,鶴田真由,大森南朋他

5本ハシゴの4本目、1階下のシネ・リーブル梅田にて。

今月初めに原作を読了しています。
映画はDVD化されてから観るつもりでいましたが、なんとかハシゴに組み込み。
この日観た5本のうち、私はこれがいちばん心に残ったかも。

都心からさほど離れていないのに、自然が残る渓谷の町。
長屋式の団地に住む尾崎俊介とその内縁の妻かなこ。

ある日、隣家のシングルマザーが、自身の幼い息子を殺した罪で逮捕される。
容疑者であるその母親は、俊介と肉体関係があったと供述し、
息子がじゃまになったから殺したのではないかと警察は考える。
俊介も任意同行を求められ、取り調べを受けるが否認する。

ところが、容疑者の供述を裏づける証言が得られたとして、俊介は留置所へ。
証言したのはなんとかなこ。
その事実を警察から知らされて驚きつつ、すぐに落ち着いた素振りを見せる俊介。

事件を調べていた週刊誌記者の渡辺は、この夫婦に興味を持ち、
部下とともにふたりの過去を調べはじめるのだが……。

原作のほうがうだるような暑さとけだるさを感じましたが、
映画ももっと長くなってもよさそうなところ、
見せたい部分をコンパクトに上手く繋いでいる気がします。

ネタバレ全開で行きますと、
俊介は大学時代、将来を期待される野球部の投手でありながら、
集団レイプ事件を起こして退部していました。
当時高校生だった被害者の夏美という女性は現在行方不明ですが、
渡辺の調査によれば、事件以降、不幸つづきだった様子。
交際相手に事件を隠せば、結婚目前で興信所に調べられて破談に。
逆に自分から話せば、優しかったはずの彼が豹変、DVを受けます。
渡辺は、こんなことは知らなかっただろうと、責めるように俊介に話します。

しかし、そんなことはない。実はかなここそがその被害者本人、夏美でした。
渡辺の部下(♀)は、夏美の気持ちは理解できないけれどと前置きしたうえで、
もともと事件を知っている俊介には隠す必要がないから、
そういう点では気が楽だったのかもしれないと言います。

「かなこ」という偽りの名前にも意味があります。
不幸になるためにふたりは一緒にいる。幸せになってはいけない。
暗く重たく、やるせない気持ちでいっぱいになりますが、
この余韻は決してしんどいだけのものではありません。
こんな償いかたもあるのだと。
吉田修一って、男のくせして、女の気持ちを描かせても凄いです。

原作と同じ、最後の問い。
「あの事件を起こさなかった人生と、『かなこ』さんと出会えた人生と、
 どちらかを選べるなら、あなたはどっちを選びますか」。

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